香川・金刀比羅宮で愛犬と「わん詣で」 江戸時代からの風習を令和に“再現”

香川・金刀比羅宮で愛犬と「わん詣で」 江戸時代からの風習を令和に“再現”
実行委員会の東川卓美さん(右)と野瀬勇一郎さん

「一生に一度はこんぴら参り」と称されるほど、江戸時代には全国的な人気を博した香川県琴平町の金刀比羅宮(愛称・こんぴらさん)。そこには、旅をするのが困難な飼い主に代わり、犬がこんぴら参りをする「こんぴら狗(いぬ)」という代理参拝の文化があった。

その風習を令和に“再現”し、愛犬と共にこんぴらさんを参拝できるイベント「ペット参拝わん詣で」が2025年1月31日から2月2日までの3日間、金刀比羅宮で開催された。

境内では犬同士の交流も

参道の階段を次々に登ってくる飼い主と愛犬たち

静かな境内に「ワン」という元気な犬の声が響く。続々と本宮に至る階段を登ってくる飼い主と愛犬たち。今回、初めて開催されたわん詣でには、全国から2583組の飼い主と愛犬が訪れた。

香川県内から来たという女性は、小型犬のケリーちゃんと一緒。ケリーちゃんは女性のショルダーバッグに入れられて、参道の階段785段を登り切った。

「昨晩から出かけることが分かっていたみたいで、外出を楽しみにしていたようです。参道では私たちの前を柴犬2頭が歩いていたのですが、柴犬たちは定期的に私たちを振り返って、ケリーがちゃんとついてきているか確認していたんですよ。犬同士の交流が感じられて、素敵な体験になりました」
女性は静かな笑顔を見せながら、そう話した。

ショルダーバッグに入って参道の階段を登ってきた小型犬

関西からの旅の途中で、わん詣でに偶然出会ったという男性と女性もいた。愛犬の名前は大五郎。
「本宮までの階段を登っても、大五郎はまだまだ元気で、はしゃいでいます。愛犬と参拝できる神社はあまりないので、とてもいいイベントですね」と話した。

別の小型犬の飼い主は「飼い主が抱っこしなければいけない神社もありますが、こんぴらさんは犬が自分の足で登れるので楽しそうでした」と振り返った。息を切らしながら階段を登る飼い主とは対照的に、愛犬の方は元気いっぱいだった。

境内では愛犬家同士で会話の輪ができたり、初対面の交流を楽しんでいた。

「こんぴら狗」の代参文化が背景に

わん詣でを企画したのは、ペット参拝わん詣で実行委員会委員長の東川卓美さんら。全国の愛犬家に足を運んでもらうことで、地域を活性化したい狙いもある。

琴平町でフレンチビストロを経営している東川さんは、金刀比羅宮内にあるレストランカフェ「神椿」で働いていた2013年ごろに、こんぴら狗の逸話を知った。遠くは江戸から参拝にやって来た犬のストーリーに魅了され、こんぴらさんを中心とする地域を犬に優しい「ドッグフレンドリーな街」に育てることを夢見ている。

金刀比羅宮にある「こんぴら狗」の銅像

「毎朝、こんぴらさんで愛犬を散歩させているのですが、表参道だけでなく裏参道の雰囲気も良くて、とても気に入っています。私たちが当たり前に愛犬と散歩できている日常を全国の愛犬家の方にも“お裾分け”したいという気持ちで、わん詣でを企画しました」

全国的に犬などのペットが境内に入れる神社仏閣は少ない。こんぴら狗の歴史がある金刀比羅宮では、1993年ごろから境内に犬の参拝が許可されるようになった。宮司の琴陵泰裕さんも愛犬家で、犬への理解が深い。実行委員会がわん詣での企画について相談した際も、最初から前向きに受け止めてくれたという。

イベントでは賑わいづくりの一環で、犬用グッズなどを集めたマーケットを開催。また、参拝の途中でカフェなどの店にも寄ってもらおうと、愛犬と一緒に入れる店として20店舗が集まった。

愛犬との参拝に「高い満足度」

実行委員会メンバーの野瀬勇一郎さんは、わん詣でが企画された経緯をこう話す。
「2024年にわん詣での前身となるイベントを開催しました。そのときのアンケート結果を見ると、愛犬と一緒にこんぴらさんに参拝できる体験は、とても満足度が高かった。もっと全国の人に『こんぴらさんでは愛犬と参拝できる』ことを知らせたい思いが強くなりました」

野瀬さんによると、全国で飼われている犬は約700万頭で、2013年の約870万頭から減少傾向にある。ただ、愛犬にかける費用は大きく減少しておらず、フードやおやつ、そして、愛犬と共に体験できる「コト」に対する単価は増加傾向にあるという。

静けさの中に鎮座する金刀比羅宮の本宮

「犬と参拝できるという、こんぴらさん発の文化が全国に広がって、愛犬家400万世帯の方々が各地の神社を回るような旅のスタイルが確立したら素晴らしいと思います。海外からのインバウンドの方も、愛犬とこんぴらさんを目指すようになるかもしれません」と野瀬さん。

まだマーケットとして確立していない愛犬と参拝する「コト」をめぐって、夢は広がる。わん詣では、2026年も開催予定だという。

東川さんも言葉を継いだ。
「近年のこんぴらさんでは、普段から愛犬を連れた人が増えています。ここではインバウンドの増加やコロナ禍での観光客の減少など、さまざまなことがありました。わん詣でをきっかけに、全国の人が旅の途中でこんぴらさんに立ち寄るようになれば嬉しいですね。ぜひ、ここで愛犬との絆を強める思い出を作ってください」

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