感性が磨かれるおしゃれな街、東京・自由が丘で45年もの間地域に愛されてきた焼き鳥店「七味亭」。街の再開発の影響もあり、2022年末に惜しまれつつ、自由が丘での営業に幕を閉じました。
2024年1月からは、自由が丘から電車で3駅隣の祐天寺でリニューアルオープン。自由が丘時代からの常連客をはじめ、地域のお客様も通う繁盛店です。
変わらずお客さんに愛される秘訣とその想いを、まるで「家族のような関係」の社長・黒須由子(くろすゆうこ)さんと店長・高木和洋(たかぎかずひろ)さん、それぞれにお聞きしました。
七味亭創業の背景と黒須社長の想い
黒須社長が手掛ける七味亭は、昭和40年代にコーヒーショップとしてお店の営業をスタートし、その後、洋食店を経て今の焼き鳥店(居酒屋)へと姿を変えてきました。飲食店経営は一家の歴史でもありました。父は会社勤めを経て脱サラをしてこの道を選びました。
お店の場所は、東急東横線と東急大井町線が乗り入れる自由が丘駅の正面口から徒歩1分の好立地。もともと父の実家だった場所です。自由が丘という場所柄、七味亭には芸能人が訪れることも多く、たくさんのサインが飾られていました。喫茶店時代には、若き日のタモリさんも訪れたことがあるそうです。

黒須社長の信条は「長居したくなる空間づくり」と「ワイルド・ホスピタリティ」。
自由が丘という街の移り変わりも目の当たりにしつつ、常に新しい時代の空気を取り入れ、競争の激しい飲食業界で50年近く店を守り抜いてきました。
「お客様にとって特別な場所にしたい」との想いが七味亭を支え、震災や経済的な困難も乗り越えてきました。

例えば、東日本大震災の際、店にあった一升瓶が割れて恐怖に震えたものの、地域の人々を支える居場所でありたいと奮闘し、震災後も常連客のために営業を続けました。コロナ禍では厳しい時期もありましたが、工夫を凝らしてお店を維持。アサヒビールの「エクストラコールド」の提供など、お客様を引き戻すためにできることを模索して実行しました。

黒須社長は、お客様を「ホッとできる場所」へ迎えることに使命を感じ、特にコロナ禍でもお店のスタッフが誰一人辞めず、まるで家族のような絆で店を支えてきたことに感慨深さを感じている様子でした。また、自身を「職人気質ではない」と語り、若いスタッフの意見に耳を傾ける柔軟な姿勢で経営を進めています。
居心地の良い空間づくりだけでなく、社長自らが「ワイルド・ホスピタリティ」と称する、スタッフの真っ直ぐな思いから生まれる接客にもこだわっています。それらがミックスされることで空間の快適さやお店の人気の秘密となっています。

店を続けられた理由について、黒須社長は「私を慕ってくれるスタッフと支えてくれるお客様のおかげ」と語り「自分が楽しむだけではなく、スタッフにとっても、良い思い出が残る場所でありたい」と願っています。コロナ後の新たな道を模索する中で、新しい土地・祐天寺での再スタートも決断し、長年勤める高木店長に後を託しました。

店長・高木さんが見つめる七味亭の「未来」
高木店長は、大学生の頃から七味亭でアルバイトを始め、常連客や他のスタッフと信頼関係を築きながら、七味亭の一員として成長してきました。
「七味亭でしか味わえない温かさと空間がある」と感じ、大学卒業後も営業職を経験した後に再び店に戻ることを決意。高木店長は七味亭での経験が忘れられず、飲食店としてだけでなく、スタッフ同士やお客様との繋がりを大切にしてきました。
「七味亭が持つ歴史や温もりを無くしたくない」という強い想いが、店を受け継ぐ決意に繋がっています。

黒須社長から受け継ぐことになった七味亭を、祐天寺に移転しても「変わらない場所」として守り続けたいというのが高木店長の願いです。祐天寺に移っても、自由が丘で慣れ親しんできた常連客たちに「変わらないね」と言われるような場所を目指しています。地元の人々や、若い世代が気軽に集まれる場所であり続けるために、これまでのスタイルを大切にしつつも、新しいメニューや時代に合った変化も柔軟に取り入れたいと考えています。

高木店長にとって黒須社長は「一言で言うと怖い存在」ですが、その一方で「スタッフのことを第一に考え、常に助け舟を出してくれる」温かい人だと語ります。黒須社長の思いやりと知識に対して尊敬の念を抱き、いつも近くで見守ってきてくれたからこそ「自分が理想とする店長像」をしっかりと意識し、七味亭を守り抜く覚悟を固めています。
新天地で迎える七味亭の新たな挑戦
新たな地・祐天寺では、これまで以上に「お客様に寄り添うこと」を意識しつつ「七味亭らしさ」を維持しながら、祐天寺ならではのコミュニティに馴染む工夫も重ねていく計画です。

黒須社長は、長野県から新鮮な野菜を仕入れるなど、より地域色の強い食材を使ったメニューにも関心を持っています。また、祐天寺ではカウンター中心のレイアウトにすることで、常連客とスタッフが顔を合わせ、会話が弾むような、温かい空間づくりを目指します。七味亭が持つ温もりを、次の世代へと伝え続けることが、2人の共通の目標です。

黒須社長は、高木店長の誠実さやお客様を大切にする姿勢を評価しており、彼に対する信頼を寄せています。一方、高木店長は、黒須社長の深い知識や人を見抜く洞察力、スタッフへの気遣いに尊敬の念を抱いています。社長の教えを継ぎ、今後の七味亭を担っていくために日々努力を続ける姿が印象的でした。

「この場所が変わらない温かい場所であるように」
黒須社長の想いと、高木店長が受け継いだ「七味亭の未来」への決意が祐天寺で再び花開くことでしょう。