「部屋の中に衰弱した猫が放置されている」とマンションの管理会社から電話がありました。その猫は、密室の中で暑さと極度の飢えと脱水から水を飲もうとして便器の横で倒れていたのです。後にミラクルちゃんと名付けられた猫ちゃんですが、1ヶ月半も置き去りにされ、レスキューされたときは瀕死状態。
保護当時と現在の様子には「助けて下さった方に感謝」「幸せになって欲しい」などの声が寄せられ話題となりました。
今回はミラクルちゃんを保護した、大阪北部の動物保護団体「アニマルレスキューたんぽぽ」さんに話を聞きました。
真夏の暑い部屋に1ヶ月以上置き去りにされた猫
8月末、大阪北部の動物保護団体「アニマルレスキューたんぽぽ」にある1本の電話がかかってきました。それはマンションの管理会社からで「勝手に退去した部屋の中に、衰弱した猫が放置されている。退去時から考えると1ヶ月半は経っている」ということでした。
アニマルレスキューたんぽぽの代表、本田さんは1人でマンションに向かいます。その部屋には猫に関するものなどは一切なく、ビールや焼酎の空き缶と酒のつまみだらけのゴミ屋敷。
「飼い主がいるときからネグレクトは明らかでした」と話します。そして猫を見た瞬間「死んでいる!」と思いましたが、かすかに息があったため緊急で病院へと運びました。そのとき意識はなく、何の反応もなかったといいます。真夏の暑い部屋に1ヶ月以上置き去りにされ、飢えて喉が乾き水を飲もうとして便器の横で力尽きていたのです。
病院では、極度の脱水を治すために血管と皮下の両方から点滴をし、少しずつ経口に流動食を強制給仕します。獣医からは「今日が山場だ」と言われ、本田さん自身も猫の状態から回復は難しいと感じていました。しかし、連れて帰ってからも諦めず皮下点滴、強制給仕を夜通し続けて介護したのです。
「翌朝、生きていてくれたときは本当に嬉しかったです」と本田さんは語ります。その猫には、奇跡がおきて起き上がり、遊べることを願ってミラクルちゃんと名付けられました。
呼吸も弱かったことから、病院と同じ酸素室を業者に依頼し準備をしました。その中で毎日、薬と朝晩の点滴、2時間おきに少量ずつ流動食を飲ませました。そうして1日、1日と生き延びてくれたミラクルちゃんは意識を取り戻したのです。
しかし、長期に渡り暑い密室に置き去りにされたことから脳障害となり、下半身は動かず歩くことはできませんでした。それでも「生きていてくれることだけで嬉しく、介護を続けていました」と本田さんは話してくれました。
元飼い主からの虐待のせいで…
ミラクルちゃんは体のあちこちに傷があり、傷の状態から物で殴られていたのは明白でした。また、保護当初から点滴をする際に背中の一部が熱く、おかしいと感じていると背中から血膿が吹き出て、皮膚の下は壊死していたことが判明。緊急で病院に運び、ミラクルちゃんは入院しました。
表面の傷は塞がっているが、皮膚の下で菌が繁殖してひどい状態だったといいます。しかし1ヶ月近く入院して治り、現在はアニマルレスキューたんぽぽで元気に暮らしています。
アニマルレスキューたんぽぽでは虐待犯を野放しにしないために、そして次のミラクルちゃんのような子を出さないためにも、警察に相談をしたといいます。
ミラクルちゃんは脳障害で後ろ足が動きませんでしたが、立つことができるようになり、今は少し歩けるようになりました。レスキューしてから4ヶ月経ちましたが、意識がしっかりしてくると、これまでの虐待の記憶から人間を敵視して激しい攻撃を繰り返すといいます。
また、ミラクルちゃんを保護したときから餅坊という元野良猫が側に寄り添い、励ますように横にいてくれました。しかし、ミラクルちゃんは意識がはっきりしてからは、餅坊にも激しい攻撃をしたといいます。
最近では「諦めずに一緒に遊ぼう!」と誘う餅坊に少しずつ心を開いてきたミラクルちゃん。パンチの数も減ってきたと話します。
「ミラクルはまだまだ猫にも人にも厳しいですが、最初から凶暴な子はいません。自分を守るために必死に攻撃しているだけであり、元飼い主から受けた虐待のせいです。これからもたんぽぽで穏やかに暮らして、人間は怖くないと心から安心できる日が訪れるのを楽しみに待っています」と本田さんは話してくれました。
1匹でも多くの子を幸せにしたい
もともと個人で山の野犬や野良猫を保護していたという本田さん。現在も行っていること自体は変わらないですが、ただ団体になればもっとたくさんの子たちを救えると考えたことから、アニマルレスキューたんぽぽを立ち上げました。
野犬だから、野良猫だから雑になるのではなく、野犬、野良猫だったからこそ質の良いフードと医療、そして愛情を惜しまず、1匹1匹を丁寧にお世話するよう心がけているといいます。また、フードもプレミアムフードのみを使用し、治療中の子以外はストレスになるゲージでの飼育はせずに相性でわけています。全室エアコンで夏は涼しく、冬は暖かく、室内フリー飼育または広い個室、広いドックランで伸び伸びと快適に過ごせるようにしています。
またアニマルレスキューたんぽぽでは、野良、虐待、保健所をメインで保護しているといいます。
「私たちのような愛護団体が必要なくなることが1番の理想であり嬉しいことですが、残念ながら虐待も遺棄も減らず次々と通報が入ります。すべての子を保護することは不可能ですが、自分にできる限りのことをして1匹でも多くの子を幸せにしたいと思い、これからも頑張って参ります」と本田さんは今後の思いを語ってくれました。
人間の都合で動物を飼い、都合が悪くなったら捨てる、放置する…決して許されることではありません。虐待を受けていたミラクルちゃんは、意識を取り戻してから人間を攻撃したといいます。ミラクルちゃんの記憶の中には「人間は怖いもの」として残っていたのです。
レスキューされたからいいのではなく、ペットを迎え入れる前にもう一度考えてみる必要があるのかもしれません。また、ミラクルちゃんが人間は怖くないと安心できること、レスキューされる動物たちが少しでも減ることを願っています。