「外で飼育している犬が取り残されるので、どうしたらいいのだろうか?」この1本の電話がなければ、ゆうちゃんという犬の存在すらわかりませんでした。
飼い主さんがご高齢となり認知症を発症。施設に入るため、ゆうちゃんは取り残されることになります。電話の場所に行ってみると、ゆうちゃんは想像を上回るほどひどい状態でした。認知症は、ご飯をあげたこと、水をあげたこと、さらにこの犬の存在すら忘れてしまうのです。
こうした状況は現在少なくはありません。今回は、犬猫の保護活動をしている「おっぽの会(@teamoppo_com)」さんに話を聞きました。
存在すら忘れられてしまったゆうちゃん
ある日、おっぽの会と連携している地域包括センターから電話がありました。
それは担当しているご高齢の夫婦のことで、奥さんがコロナで入院していたが、認知症があるため退院後はそのまま施設へ入所することに。旦那さんもコロナになり認知機能が低下していることから、奥さんと同じ施設への入所を希望したのです。そのため、夫婦が飼っている犬だけが取り残され、飼育ができなくなるためどうしたらよいのか…という依頼でした。
そこで、その日いたスタッフさんがどのような状況かを確認するため、ご高齢の夫婦の自宅に伺うことに。しかし、そこにいた犬のゆうちゃんの状態はひどいものでした。
飼い主さんも覚えていないそうですが、ゆうちゃんはおよそ10〜14歳くらい。ドロドロの目ヤニで覆われた眼は1点を見ているだけだったといいます。また、オオカミのように爪が伸びており、歩行障害が出るほどで歩くのも痛そうでした。
「爪が肉球に刺さって痛かったんだと思います」とスタッフさんは話します。またそれだけではなく、かさぶただらけの皮膚炎の体からはフケがあふれ、ノミやダニもたくさんついていました。ひどく熱を持った足は痛くて痒くてただれて炎症を起こしており、皮膚自体は象のように硬くなっていたのです。
「毛も抜け落ちていて、見てすぐに衛生的でないと思いました。皮膚にヨレも見られたので、経験上から脱水も起こしているのではと考えました」と話すスタッフさん。
外に置かれていた犬小屋スペースには、毛布もなく暑さ対策もしておらず、餌入れや水入れには水滴や食べカスもついていませんでした。
「数日間飲んだり食べたりしていないのでは?」と疑問に感じたスタッフさんは、飼い主さんへ尋ねましたが覚えてないとのことでした。
スタッフさんが夫婦の自宅に伺った当日は台風も来ており、湿度と暑さのため糞尿の匂いであふれていた…といいます。ゆうちゃんは外敵から身を守るような警戒もなく、ただただ静かに無表情で立っていたそうです。
管理をされている飼育ではないと判断したスタッフさんは、ゆうちゃんを保護することに。そのときのゆうちゃんについて「ボロボロの雑巾のような子で感情がなく、すべてを諦めているような顔をしていました」と話します。
ゆうちゃんを保護したおっぽの会では、まず汚れた体を洗い、ノミとダニの駆除をしました。また「爪は神経にも伸びていて、肉球にも爪が刺さり、切るのが大変だった記憶があります」とスタッフさん。
保護当日のゆうちゃんは、スタッフさんに抱かれて頭を撫でてもらっていました。
保護の様子を発信しているInstagramには「涙が出ます」「寂しかったんだな」「幸せになってほしい」というコメントが寄せられていました。
その後、病院を受診し、血液検査や心音、腹部エコー、レントゲン、フィラリア検査、検便などの初期検査をしました。その結果、ゆうちゃんは脱水と皮膚の炎症がひどいことから大事をとり、数日間入院し治療。退院後1ヶ月半ほど投薬と、毎日の薬浴などをしたといいます。
第二の犬生を謳歌してほしい
保護から数ヶ月が経ったゆうちゃん。薬浴と投薬を続けて皮膚と炎症、脱水は改善されました。今は投薬も終わり、新しいうぶ毛も生えてきて痒さや匂いは治ってきていますが、まだまだケアは必須だといいます。
毎日安全な室内で過ごし、1日に3回はランでお散歩をするゆうちゃん。天気がいい日はデッキで陽を浴びながら散歩をし、それ以外は好きな場所で寝て、同じように要観察をしているハイシニアの猫と昼間は同じ空間で仲良く過ごしていると…。また夜はおっぽの会の代表さんがいる部屋で暖かく過ごして寝ていると話します。
最近では自我も出て、頑固な一面も見せるようになり、生きているという感じが出てきているというゆうちゃん。
スタッフの皆さんから見ると、ゆうちゃんは「穏やかで優しい子、年寄りらしく頑固な一面もありますが、どんな犬猫とも静かに過ごせます。 可愛いおじいちゃんです」と話します。
そんなゆうちゃんには、これから危険なこと以外はすべて制限なしで、第二の犬生を謳歌してほしいといいます。
「外で暮らしていたときのように外敵に怯えることなどなく、今後もずっとスキップしながら爪を鳴らして歩く音をそばで聞いていたい」というのがスタッフさんたちの思いです。
「ペットさえ助けたらOK」という考え方を打破するために
犬猫の保護活動をおこなっていく上でおっぽの会では、ゆうちゃんのように保護しなくてはならないケースが多い中でも、飼い主さんからペットを取り上げてしまうことがベストではなく、生き甲斐であろうペットと共に過ごせるようにサポートを兼ね備える必要性があるケースもあると話します。
たとえば、飼い主さんが家を出られないようなケースでは、飼い主さんが外へ出なくてもいいように、散歩やペットの環境のお掃除、動物病院への通院などをおっぽの会が通いながらサポートをするのです。そこで「ペットだけではなく、飼い主さんの体調の変化なども観察できるような活動も今後精力的に取り上げていき、地域のペットや飼い主様を見守りサポートする体制も進んでしていきたい」と。
保護する側の中には「ペットさえ助けたらOK」という考え方をする人もいます。
「このような考えを打破するためにも、見守り隊のような活動を続けていきたいです」と代表さんは今後の思いについて話してくれました。
ペットを飼うということは簡単です。しかし、その後のことを考えたことはあるでしょうか?ゆうちゃんを飼っていたご高齢の夫婦のように、老いは誰にも訪れ、認知症になることも考えられます。そしてペットの存在を忘れ、ペットは人間の都合によって命を落とすことにもなりかねません。
ゆうちゃんのような例は他人事ではなく、誰にでも起こり得ることとしてもっと真剣に考えていく必要があるのかもしれません。