「見た目は大人、頭脳は子ども」目には見えない障がいがある18歳の女性 「できないことを責めないで」自身のことをSNSで発信する理由とは

「見た目は大人、頭脳は子ども」目には見えない障がいがある18歳の女性 「できないことを責めないで」自身のことをSNSで発信する理由とは
障がいがあってもかわいくいたい(@hana_suminoさんより提供)

「18歳なのに、社会適応スキルが6歳なんです…」とTikTokで語る、澄乃華(すみのはな)さん。

その投稿には「6歳なのに動画編集ができるわけない」「6歳なのにTikTokはだめでしょ」などのコメントが寄せられていました。しかし、6歳というのは華さんのIQでも、知能でも精神年齢でもありません。社会適応スキルが6歳なのです。

華さんのIQは100ちょっとで、知能は同年代の人と変わらず、覚えることや理解することはできます。しかし、華さんは発達障害における検査で「処理速度」がものすごく低く「ワーキングメモリ」の数値がものすごく高いため、そのアンバランスで引き起こす症状から広汎性発達障害と診断されました。

ワーキングメモリという記憶力にあたる数値が高い華さんは、言われたことは覚えられるのですが、処理速度が低いため、視覚化しつつ細かく説明しないと理解ができません。そのため、対人関係もうまくいっているようには見せられるのですが、相手を理解するのが困難になり、関係を深めることができずに大変苦労したといいます。

見た目にはわからない発達障害。だからこそ、いつごろ病気に気がついたのか、また自身のことを発信してみようと思った理由などを聞きました。

※処理速度…視覚からの情報を処理する速さについての指標。マイペースで切り替えが苦手な場合は、この指標得点が低くなることがあります。
※ワーキングメモリ…情報を一時的に記憶して、処理する能力に関する指標。これは、読み書きや算数といった学習の能力や、集中力に大きく関わってきます。

広汎性発達障害、自閉症、適応障害

勉強ができ、友達もいたという小学生時代。しかし、どうしても学校に馴染めず不登校に…。そんな華さんの異変に、華さんのお母さんは病院へ相談に行きました。そしてその後、広汎性発達障害だと診断されたのです。

華さんはそのとき「自分は普通じゃない、周りとは違うんだと強く感じていました」と振り返ります。

「処理速度」がものすごく低く「ワーキングメモリ」の数値がものすごく高いため、そのアンバランスから症状を引き起こすといいます。

※発達障害…広汎性発達障害(こうはんせいはったつしょうがい)、学習障害、注意欠陥多動性障害など、脳機能の発達に関係する障がいです。発達障害のある人は、他人との関係づくりやコミュニケーションなどがとても苦手ですが、優れた能力が発揮されている場合もあり、周りから見てアンバランスな様子が理解されにくい障がいです。

澄乃華さん(@hana_suminoさんより提供)

中学生のときには、発達障害などで小学生のころから通院している病院での診察の際に、二次障害が判明しました。

※二次障害…本人の神経発達症(発達障害)の特性を理解してもらえずに、家族や周囲の人から注意・非難・叱責を浴びると、自信をなくしてしまい、別の問題が出てくることがあります。

また、華さんは広汎性発達障害のみではなく、自閉症、適応障害も患っています。発達障害と自閉症は先天性のもので、適応障害や他の患っている疾患は発達障害からともなる二次障害になるといいます。

自閉症ならではのこだわりを持って生活している華さんは、決まった場所にしか座れない、自分のペースでしか動けないため頼みごとが聞けない、自分で決めたことを曲げたくない、自分の決めたルーティンでしか動かない、話をしているときに相づちだけだと怒るなどの症状があり、どれか一つでも崩されてしまうと、無意識に声を荒げて不機嫌になるといいます。

また、自閉症の特徴である感覚過敏の中でも、音が一番苦手だと話します。

音が苦手と語る華さん(@hana_suminoさんより提供)

感覚過敏は自閉症の人は全体的に持っているものですが、強く過敏になるものと弱いものがあり、華さんの場合は音が一番苦手。一般的には何か音を聞いたとき、自分にとって大事なものとそうでないものを分けることができます。しかし自閉症の場合、すべて同じ重さの音で耳に入ります。たとえば、人が話している声、車のクラクションの音、虫の声など。

そのため、何か大事なことや指示をされたとしても聞き分けることができず、学校生活や社会で困難が生じてしまうのです。華さんは音に対して「痛い」という表現をしていました。こうしたことから、ひどいときにはパニックにもつながることも…。華さんはとてもつらくて、学生時代はイヤーマフが必須だったといいます。

また、ストレスによる過敏性腸症候群、心因性難聴、視力の低下などで幼いころから病院通いが続いていましたが、これらは社会人になってからある程度落ち着いてきている…といいます。

※自閉症…生まれつき対人関係がうまくできず、コミュニケーションを取れず、言語の発達が遅いなどが特徴の障がいです。
※適応障害…ストレスによって、気分の落ち込み、意欲低下、不眠や身体症状が出現している状態で、最もよく見られる疾患の一つです。

障がいでも生きやすくなってもらいたい

現在、華さんは就労支援B型事業所に通い、動画クリエイター、アーティストとして活動しています。そして、TikTokでは障がいのことや症状について、またできないことを少しできるようにする工夫などを発信しています。

動画の編集などを自分でこなし、TikTokにあげているため「なんで、これはできるの?」など疑問に持つ人も多いのですが、華さんは「できることとできないことの差が激しく、動画編集は興味のあることだからできます」と話します。

自身の生活については「支援者と周りのサポートがある環境がないと一般的な生活が何にもできないレベルなので見通しを立ててもらい、わかりやすく説明してもらえる環境が必要ではあります」と話してくれました。

華さんが発信するようになったのは「今してもらっている支援のおかげで生きやすく、楽しく過ごせるようになったので、障がいに対して同じように努力している方や悩んでいる方たちにも、前向きに自分と向き合い、生きやすくなってもらいたいな…」と思ったことがきっかけでした。

「見た目は大人、頭脳は子ども」(@hana_suminoさんより提供)

「見た目は大人、頭脳は子ども」と発信した投稿には、特に多くのコメントが寄せられていました。それに対し、華さんは「あ、こういう人もいるんだと客観的に見られるようになったり、応援してくれている方を見ると活動の励みになったり、応えなきゃいけない質問を見つけたら近日中にはこたえたいな…など、さまざまなコメントのおかげで活動を続けられているのですごくありがたく思っています」と語っていました。

そして、後日質問にこたえる投稿もしています。

質問に答える華さん(@hana_suminoさんより提供)

「どこで検査すればいいの?」「いつ検査受けたの?」などについて、華さんは新たな動画をあげて応えていました。

発達障害という名前はよく聞かれるようになったものの「自分もそうかもしれない」「いつ検査をしたのか」「誰かに検査をすすめられたのか」などのコメントも多く見られます。

それに対して華さんは「動画を通じて、やはり困っている人が多いんだなと感じました。そのため今後、少しでも困っている人が減るように、発信するためにいろいろと整理していく必要があるな…と思います」と語ってくれました。

発達障害の人は、幼少期のころから外では自分のことを出さない傾向にあるため、外面がよいと思われるといいます。華さんも実際そうで、親御さんは家で暴れてしまう華さんに対して学校に相談していたといいますが、学校はその事実に目を丸くして驚いたと語ります。そのため学校と親御さんとの食い違いが、余計理解されにくいという状況になっていたそうです。

華さん自身はもちろん「わざと外面をよくしようなんて意識はなかったのです。むしろ、外でももっと自分自身を出して受け入れてほしかった…」といいます。その経験から、現在そのように悩んでいる親御さんがいたら「特性だと受け止めて、学校に理解されなくても外と家の違いをしっかりと伝えてあげてほしい」と。

当事者だけではなく、悩んでいる周りの方にも華さんはこうした思いを発信しています。

18歳なのに本当は6歳

反響の大きかった動画「見た目は大人、頭脳は子ども」の中で、華さんは「18歳なのに本当は6歳…なかなか面白いことですよね」と話しています。それには、実年齢が18歳なのに、社会適応スキルが6歳という事実がわかったことで、特に自分自身は変わることはなく、逆に周りにうまく伝えやすくなった…という理由がありました。また「面白いこと」と思ったのは深い意味はなく、純粋にそう感じたといいます。

華さんは広汎性発達障害、自閉症、適応障害を患っていますが、見た目にはわかりません。
そのため、生活をしていくなかで意識していることは、障がいを隠さず、そして恥ずかしがらずにできないものはできない、困っています、わからないなどを自分にも周りにも素直に伝えることです。
そうすることによって「かなり生きやすくなった」といいます。

障がいがあってもかわいくいたい(@hana_suminoさんより提供)

また「障がいがあっても可愛くいたい」と、美容についても投稿しています。美容院も苦手で、買い物も一人ではできないためコスメも選ぶことはできません。しかし、コスメはお母さんに手伝ってもらって選ぶようになり、美容院にも頑張っていくようになりました。

華さんには「障がいがあっても同年代の人たちと同じようになりたい、可愛いを絶対諦めないでおしゃれを続けていく」という思いがあり、不安定になってもつらくても、思い描いている自分になれるなら、泣いてでも前を向いて頑張り「できないことを少しできるに変える」と努力を続けています。

華さんができないことは「頭を洗う」「ビューラーを使う」「スキンケアがわからない」「自分でコスメを選べない、買えない」などです。

そこで、おばあちゃんに教わって頭を洗うことを覚えていく、ビューラーが使えないのでまつ毛パーマに通う、スキンケアはオールインワンジェルにする、コスメはお母さんと一緒に選んで買うか、お下がりをもらうなど、完璧でなくても、少しずつできないことを減らしていくことを意識しているといいます。

「できないことを責めないで、できないことを減らしていこう」と、華さんは動画の中で発信しています。

同じような境遇の方と何か一緒にできたら…

「今、同じように努力している人たちへ…背中を押したい!希望を与えたい!という気持ちを届けていきます」と自身の調子がいいときも悪いときも、その様子を隠さずに発信している華さん。
「今後は一人だけの発信ではなく、同じような境遇の方や同じように発信している方と一緒に何かできたらいいなと思っています」と、今後についても話してくれました。

華さんのTikTokには「元気をもらっています!」「希望が見えました」「障がいがあっても、いろいろなことができていて、私も勇気がでました」など発達障害や自閉症、目には見えない他の障がいの方、またそうした病気の子どもがいる親御さんからのコメントも多く寄せられていました。

華さんをぱっと見ただけでは、可愛らしい女の子という印象で、発達障害を抱えているなどとは思わないでしょう。
目には見えない障がいだからこそ、苦労したことやつらかったことも多いと思います。しかし、当事者目線で語る華さんの投稿は、障がいについて理解を深める大きな力になると感じました。

「できないことを少しできるに変える」と華さんが工夫して生活する様子は、同じ障がいを持つ人や周りの方への勇気や希望となっているのでないでしょうか。いつか、同じような境遇の方なと一緒に何かできたら…という華さんの目標が叶うことを願います。

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