がんになり、絵を描き始めたサラリーマンがいます。現在28歳の、その名も「はなりーまん」さん。
幼いころから絵を描くことが好きで、将来は美術大学に進学してクリエイターを目指していました。そこで東京藝術大学デザイン科を受験しますが、倍率はなんと15倍。現役合格は数人という狭き門で、はなりーまんさんは不合格となります。
「東京藝術大学への受験は一度きり」というご両親との約束から「入れたらなんでもいい」と法学部に入学。大学ではポスターを描いたり、友人に絵をプレゼントしたりするくらいでした。卒業後はサラリーマンとして働き、絵とはますます遠くなる生活になります。
しかし、10年ぶりに絵を描き始める日々が訪れました。それはがんになったことがきっかけでした。
そこで、はなりーまんさんに、がんになってしまったときの気持ちや絵を発信していこうと思ったことなどについて話を聞きました。
悪性リンパ腫と診断されて…
2024年6月中旬、熱と喉の痛みが続き、職場近くの耳鼻科で診察を受けたはなりーまんさん。風邪の疑いもありましたが抗生剤は効かず、熱が出て3週間ほど経ったタイミングで総合病院にかかりました。
7月12日、首の超音波検査で不自然な血流が見つかり、CT検査をします。7月17日、結果リンパ腫の疑いがあり、この日注射では検体が抜けなかったため、2日後に首の手術をし検体を取ることが決定しました。7月18日、血液内科で造影CT検査を受けます。
前回のCT検査から急速にリンパの腫れが大きくなっており、窒息の危険があるため、はなりーまんさんは緊急入院といわれます。そして7月19日、手術で検体を取り、激痛の骨髄検査。さらにステロイドの苦い薬もスタートしました。
その後「薬のおかげか呼吸が楽になった」と感じます。2~3日に1回は高熱とともにリンパや骨髄検査の痕が痛みましたが、薬を飲むと数時間で楽になったといいます。
そこから3週間検査結果を待つことになりました。
「数日に一度高熱が出てしまう体のつらさはもちろん、結果を待つことで人生の時間が淡々と過ぎていくことが虚しく感じ、メンタル面のつらさもありました」と、このときのことを振り返ります。
検査結果は「悪性リンパ腫」でした。
「がんとわかった日は、大好きな旅行や仕事を半年近く諦めなければならない悔しさや、死を身近に感じた不安で1日中泣きました」
※悪性リンパ腫…血液細胞(血液中に存在する細胞)の中のリンパ球ががん化する病気です。
書類の裏に絵を描き始めた絵
はなりーまんさんが入院中に初めて絵を描いたのは、ステロイドの苦い薬がスタートした次の日の7月20日。薬により、呼吸や痛みが楽になったのと、3週間検査結果を待たなくてはいけないという現実逃避からでした。
「目の前にあった書類の裏紙とボールペンで、もともと好きだった花の絵を描き始めました」といい、絵に没頭する時間は、はなりーまんさんの支えにもなりました。
ある絵とともに、Instagram(@hanaryman__)の投稿には「何も見たくねえ…」と記載してあります。それは入院が初めてだったということもあり、優しいお医者さんと鋭い針、自分の体が切られる感覚と焼かれる匂い、赤ちゃんができて幸せそうなご夫婦、数歩先には今にも亡くなりそうな人などの光景が受け止めきれなくなって「何も見たくねえ…」と思ったからでした。
「そしたら僕の顔に花が咲いて、視界にはきれいな花びらしか映らなくなりました」と、花で顔と目元を隠す作品ができあがったのです。
それからはなりーまんさんは、病室で絵を描き続けるようになりました。さらに妹さんからは色鉛筆を、友人からは絵の具をプレゼントされたといいます。
たくさんのリクエストがあったという「紫陽花」は、妹さんからもらった色鉛筆で、紫陽花がきれいに咲きました。
「絵を購入したい」
はなりーまんさんは絵を描き続け、思い切ってSNSに投稿します。すると、驚くほどの反響があり、応援してくださる方の声を励みに毎日絵を描くようになったのです。
「もし、失礼にならなければリクエストしたいです。そしてその絵を購入させていただきたいです」という依頼も。
「作品の発するエネルギーが素晴らしく、鷲掴みされました」という依頼者さん。はなりーまんさんは、夢のような出来事にうれし涙をこらえながら「作品のエネルギーを褒めてくれたその人に、厳しい雨を葉っぱではじき続け、光るように咲き誇る蓮の花を届けます」と作品を仕上げました。
悪性リンパ腫と告げられたときは、1日中泣いていたはなりーまんさん。そして抗がん剤治療が始まり、高熱や震え、吐き気が止まらず数日寝込みます。ですが体調を見ながら描き続けました。そんなときも「絵やSNSが自分を奮い立たせてくれました」といいます。
また、花が持ち込めない無菌の病室に、自身の描いた絵を飾りました。
「部屋も明るくなり、気持ちも少し明るくなった」といいます。
「絵を描いている間は悩みが消えて澄み切った空気に浮いた感覚になりますし、SNSで前向きな自分を演じているとほんとにそうなった気がします」
そして、はなりーまんさんの絵や発信が励みになったと声をかけてくださる方もおり「承認欲求や貢献欲求が満たされ。幸せを感じます」と語ります。さらに「人を勇気づけるような絵を描いていこうと、がんになったことでむしろ毎日にモチベーションをもって向かえるようになりました」と。
病室で描いた絵は30枚にもなりました。
はなりーまんさんは、初回の抗がん剤が効き約2ヶ月入院し、現在は退院。これからはひと月に1回抗がん剤を打つ通院治療をしながら来春までの完治を目指しています。
「抗がん剤を打ってから10日ほどは吐き気や頭痛があるものの、その後次の抗がん剤までの2週間は元気に過ごせています。副作用で少し手先に痺れが出てきましたが、絵に支障が出るほどではないのが救いです」と今後は家でたくさん絵を描いていくといいます。
いつか個展を開きたい
はなりーまんさんの絵の投稿には「販売してほしい」「家に飾りたい」と本当にたくさんの声が寄せられています。実際に、オーダーに応えて絵を描いている様子を TikToķ(@yourpainting_)にあげています。
また、退院を報告している投稿には「これからもたくさんお花を咲かせてください」などのコメントや、現役の看護師さん、看護助手さんからも「いつも投稿見て元気をもらっています」という声も。はなりーまんさんの退院を「自分のことのようにうれしい」というコメントの多さも印象的です。
さらに「個展を開いてほしい、直接絵を見たい」という声も多いです。
「がんが治ったら、いつか個展を開いて応援してくださった方に絵を見ていただいたり会ってお礼を伝えたりしたい」というのがはなりーまんさんの目標になっています。
がんと闘いながらも絵を描き続け、その絵にはたくさんの人が惹きつけられ、癒しや幸せを感じさせてくれました。また、闘病しながらも絵を描き続けるという姿勢に、励まされたり元気をもらったりした方も多いのではないでしょうか。
完治を目指して現在治療を続けているはなりーまんさん。これからもたくさんの花を咲かせてくださることでしょう。そして、多くの方の願いでもある個展の開催が叶うことを願います。