生後10ヶ月…医師「一生歩けないし、笑うこともない」その後25歳になった今。大学講師を目指す彼「自分を諦めない」その強い思いに迫る

生後10ヶ月…医師「一生歩けないし、笑うこともない」その後25歳になった今。大学講師を目指す彼「自分を諦めない」その強い思いに迫る
「この夏、大阪から神奈川まで藤井風のコンサートに新幹線で1人で向かう挑戦をした日の朝」(@ryoka0619_ikiproさんより提供)

重度脳性麻痺でありながら大学講師を目指す、畠山亮夏さん。

生後10ヶ月で重度の脳性麻痺と診断され「一生歩けないし、笑うこともない」と言われてきました。しかし、現在もやりたいことにたくさんチャレンジしています。そして「話せない、動けないけど僕だから伝えられることがある、だから伝えることを諦めない」と活動を続けています。

亮夏さんと会話する方法について、ヘルパーの田中さんはこう話します。

「一般的な対話だと耳で聞こうとすると思いますが、上手く発音が出来ない亮夏さんとの対話の場合は口元を見て何を発しているのだろうというのを察しています。また、読み取った内容が亮夏さんが伝えたいことと違う形にならないように気をつけています」

この話し方について、亮夏さんのお母さんは「しゃべるときに普通の方はすらすら話せますが、亮夏の場合は筋肉の障がいなので、声を出そうと思ったら、声を出せる状態まで筋肉を動かさないと声が出ません。一つひとつ筋肉をコントロールしているような感じです」

今回は、ヘルパーの田中さんと亮夏さんのお母さんに会話の補助をしていただきながら、意思疎通の方法や大学講師になりたい理由など、亮夏さんにさまざまな思いを聞きました。

※脳性麻痺…受精から生後4週までの間に、何らかの原因で生じた脳の損傷によって、運動および姿勢に異常が生じた状態。

重度の脳性麻痺

亮夏さんは生後10ヶ月のときに、脳性麻痺だと診断されます。
自身の障がいを認識したのは、小学校1年生のころで「自分だけが車いすに座っていたことからみんなと違うと思った」といいます。

幼いころの意思疎通については「言葉で一生懸命伝えていたのですが、言葉で伝わらないときは泣いて表現をしていました」と振り返ります。

お母さんは「怒っている、悲しい、嬉しいなどは表情を見ていたらわかります。そういった快不快はわかるけれど、それにまつわる理由を聞き出すことができずにかなり悔しい思いをしていました。本当に伝えたいことはこんなものではないだろうに、精一杯聞き取ろうとしつつも聞き取ることができない葛藤がずっとありました」と語ります。

畠山亮夏さん(@ryoka0619_ikiproさんより提供)

現在25歳の亮夏さん。今は自分の障がいについて「すごい価値があると思っています」と。

また最近、亮夏さんは一人暮らしを始め、そのきっかけを「ヘルパーさんが『亮夏さんならできる』と言ってくれたからできると思った」と力強く伝えてくれました。
そんな亮夏さんですが、最近「ニューロノード」を使うようになりました。

※ニューロノード…ALSや脳性麻痺などの病気によりコミュニケーションが難しい方々のために開発されたウェアラブルスイッチ。筋電図(EMG)、眼電図(EOG)、空間座標計測の3つのモードで操作でき、ワイヤレスなのでさまざまな症状のユーザーが使用できる。

ニューロノードを使い「LINEが送れるようになったことが生活に影響を与えた」といいます。

「自宅にて作業療法士へニューロノードを活用しLINEを送る様子を披露している一コマ」(@ryoka0619_ikiproさんより提供)

ニューロノードは意思伝達装置であり、パソコンのクリックのような操作も可能。できることとしては、iPadとニューロノードを連携させて動作を選択しスライドをめくっていくことなど、亮夏さんの場合は、瞼の開閉によって作動する仕組みになっており、めくれるように設定しておけば自分の意志で次のページに進むことができるのです。

例えば、LINEでは、LINEと連携ができるアプリが別途あるので、それを入れておくことでメッセージを送ることができます。

現在、亮夏さんが使っているアプリでは、定型文がいくつか作ってあり、それをニューロノードを使ってグライドカーソルで選択して送るものを決めているような状態です。クリックすると自動的に相手にLINEが届くような仕組みになっています。

※グライドカーソル…縦と横の線が重なったところで決定することで、その場所を選択できるようなもの

しかし、自由に言葉を組み立てて自分の思いを100%表現するところまではできていないといいます。

「現在は自分の言葉と合わせ、ニューロノードを活用してさらに会話を広げることを目標に練習を重ねています。その手前の段階として、自分のタイミングで自分の思いに近しいものを、自分の行動で相手に伝えることができるようになりました。
もっとうまく使えるようになったら、パソコンの50音のようなものをiPadと連携させてグライドカーソルできたら意思疎通の幅が広がると思います」

「よりスムーズに使いこなせるように、またヘルパーの皆さんにもニューロノードを活用するコミュニケーションになれていただくため、日々練習を重ねています。」と亮夏さんのお母さんは教えてくれました。

言葉で伝えることを諦めたくない

現在大学講師を目指す亮夏さんですが、そのきっかけは学生時代の経験にありました。

「看護専門学校で自身の生きた学びを届ける亮夏さん(イキプロ授業)」(@ryoka0619_ikiproさんより提供)

「高校生のころに友達を作りたかったのですが、自分の言葉が思うように通じませんでした。その経験が悔しく、当時から自分の言葉で伝えることを諦めたくないと思っていました。そんなとき、大学の授業に行くきっかけをもらい、その際に自分の言葉を学生たちに伝えることが出来ました。その経験が嬉しかったことに加え、学生もコミュニケーションが取れたことをとても喜んでくれ、大学の講師として活動したいと思いました」と振り返ります。

亮夏さんはこれまで様々な挑戦をしてきました。
パラグライダー、京都一人旅、自転車、一人キャンプ、乗馬、ライブなど…。

「乗馬はテレビで見て、やってみたいと思い、パラグライダーは”高いところは怖い”という感情を知りたいと思って挑戦しました。その結果、本当に怖いことが分かりました」と笑顔を見せてくれました。

好奇心旺盛に見える亮夏さんですが、初めからそうではなく、もともと自分でやりたいことはありませんでした。しかし、お母さんから「自分でできる・できないを決めつけないで、やりたいことを見つけていこう、興味をもったものをお母さんに伝えて」と言われます。それが、挑戦を始めていくきっかけとなりました。

そこで「興味があるものを見つけていき、出てきたものには全部チャレンジしていくようにしています」と亮夏さん。

お母さんは「成功したらそれはよしとしているけれど、チャレンジしたことに後悔してほしくないし、失敗してもやるんじゃなかったと思ってほしくないです。もし亮夏が思ったようにことが運ばなかったときに、なんと言葉をかけようかというのも考えてきました。失敗を次の挑戦にどう活かすかを一緒に考えることで、彼の挑戦を後押ししてきました。」と心がけていることを話してくれました。

「僕だから伝えられることがある」

現在亮夏さんの活動としては、ニューロノードなどの練習をSNSを使って発信すること。

ニューロノードを使った授業風景(@ryoka0619_ikiproさんより提供)

そして大学講師として、お母さんと一緒ではなく、1人で登壇することが目標。 亮夏さん的には、そこまではもうちょっとという状況だといいます。そのためにもう少し、自分の言葉を流暢に話せるように練習する必要があると考えています。

さらに10月22日には、関西医科大学でニューロノードを使った初めての講義を持たせてもらうことが決まっているといいます。

現在講義の8割は、まだお母さんがパートナーとして入らなければならない現状。間に入ってスライドを使ったり「車いすの操作とか身体的な麻痺の部分はこうですよ」と学生に示したりしています。
そこで授業を受ける学生の中から現在のお母さんの役割を引き継ぎ、次は自分たちより下の学年に亮夏さんと講義を届ける学生を募り、講義を継続していけるようにすることを目標としています。

「関西医科大学学生との研究の一コマ」(@ryoka0619_ikiproさんより提供)

今回の講義の最後の時間では、ニューロノードを使って学生とコミュニケーションを取り、亮夏さんがどのように日常生活を送っているのかを知ってもらう交流を行います。
「だから、10月22日は勝負の日なのです」

亮夏さんはSNSで「僕だから伝えられることがある」と発信しています。そして発信を受け取る人に向けて「(自分で)自分を諦めないでくださいと1番伝えたいです」と力強く話してくれました。
今後の目標は、結婚をすること、もっと沢山しゃべることができるようになること。

重度の脳性麻痺で「一生歩けないし、笑うこともない」と言われた亮夏さんですが、車いすを使ってさまざまな場所に出かけ、多くのことに挑戦しています。また、笑顔もたくさん出ていて楽しんでいることが伝わります。障がいがあっても前向きに何でも挑戦していく亮夏さんに心を動かされた人も多いでしょう。

「あなたならできるからそのまま突き進んでほしい」
取材の最後にそう伝えてくれた亮夏さん。

大学講師として1人で登壇する目標に向かって、亮夏さんの挑戦はこれからも続いていきます。

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