ライソゾーム病という病気を知っていますか？
私たちの体の細胞は、生きていくために必要な成分やエネルギーを毎日作り出しています。一方でいらなくなったものを分解し、排出する小器官がライソゾームです。ライソゾームには、たくさんの種類の「酵素」と呼ばれるたんぱく質が含まれており、これらの酵素がいらなくなった脂質や糖質などを分解しているのです。
ところが、ライソゾーム内で機能する酵素の働きがなかったり、弱くなったりしていると、分解されるべきものが体の中にたまってしまいます。そして、細胞がうまく働かなくなり、体のさまざまな部分に症状が現れる病気がライソゾーム病です。
この病気を患っている丸山聡さんは、車いすや杖を使用しながらも障がい者モデルとしてアクセシビューティーマネジメントに所属し、活躍しています。そこで丸山さんに、病気のことやモデルになった理由などを聞きました。
ライソゾーム病「シアリドーシス」という疾患
ライソゾーム病は欠損する酵素の種類によって異なるため、ライソゾーム病と一括りにしても50種類以上の疾患があると言われています。
丸山さんはライソドーム病の中でも「シアリドーシス」という疾患で、症状の一つとして体幹機能障害があり、杖や歩行器が必要です。また、言葉が詰まりやすいなどの吃音症状、自分の意思ではコントロールできない手の震えやピクつき、疲労が溜まるとけいれん発作を起こすことも。さらに視力低下や白内障の症状もあるといいます。
丸山さんが病気について認識したのは18歳のとき。中学2年生のときに転倒で骨折し、検査入院をしました。そこで脊髄小脳変性症の疑いがあることがわかったのです。しかし、高校生になるタイミングで大きな病院を紹介してもらい、もう一度検査入院をした結果、脊髄小脳変性症ではなくライソゾーム病と診断されました。
※脊髄小脳変性症…歩行時のふらつきや、手の震え、ろれつが回らない等を症状とする神経の病気です。
ライソゾーム病と診断されたとき、医師からは治療法がないということを告げられます。
丸山さんは「驚きとショックで『えっ…』となり、これからどうなるんだろうという不安な気持ちでした。また遺伝性の病気と聞き、両親が自分自身を責めないかという心配な気持ちもありました」と当時の思いを振り返ります。
小学5年生からずっと卓球が大好きで、高校も県外の強豪校へ行く覚悟をしていたという丸山さん。しかし、病気の進行で諦めざるを得ない状況になりました。それが人生で1番悔しくつらかったといいます。
また、ライソゾーム病は進行性の病気なので運転免許は取得できません。丸山さんの住む山形県は車社会のため、福祉サービスやタクシーを使うしかなく、金銭面と好きなときに好きな場所へ行けないという不自由さに悩まされました。
さらに、高校卒業後に障がい者雇用の説明会に行った際、30人ほどいる中で車いすユーザーは丸山さん1人だったといいます。
「企業の求めている人材として、自分は就労不可能なんだと感じたのがつらかったです…」と、そのときの思いを語ってくれました。
障がいによって諦めなければならないことも多く、つらいこともありましたが、そうした時期を乗り越えられたのは卓球でずっとお世話になっていたコーチの存在でした。病気が進行し選手を諦めたときにコーチが、小学生、中学生のコーチをやってみたらどうかと勧めてくれたのです。
実際にコーチをやってみた丸山さんは「選手のときより充実感があり、もう一度卓球の楽しさを思い出せて、つらい時期を乗り越えられました」と話していました。
障がい者モデルになった理由
現在、障がい者モデルとして活躍している丸山さん。もともとおしゃれが好きで、SNSで車いすユーザーのコーディネートなどを見ていたといいます。
旅行や遠出をするときに使っているトレンドの大きめなバッグは、丸山さんのお気に入り。
「実用的なのにおしゃれですね！」とSNSにはコメントが寄せられています。
さらにバッグについて「車いすでも移動するときは後ろにかけても使えますし、物の出し入れのときは膝の上に乗せても形が崩れず、背面にファスナーがついていて取り出しやすいのも特徴」と紹介しているところからも、おしゃれを楽しむ様子が伝わってきます。
また、車いすのタイヤの色と杖の色を合わせており「車いすや杖が必要ならば、こうした部分もおしゃれしたいと僕は思っています」とSNSで語っていました。
モデルになったきっかけは、アクセシビューティーが主催するオーディション情報を知人から教えてもらったことでした。
「障がい者でもおしゃれを妥協しないところに惹かれ、この機会を逃したら後悔すると思い挑戦してみよう！」と思ったといいます。
そして、見事合格し丸山さんはアクセシビューティーマネジメントに所属することになりました。
事務所に所属するようになってからは、生活が一変します。
「今までは、のんびりその日その日をなんとなく過ごしていましたが、事務所に所属してからはスピード感がとても速くなりました。時間は有限ですし、今までのんびり過ごしていた時間は仕事に繋げるためのレッスンや準備に変わりました。身だしなみも気にかけてファッション、ヘアセット、メイクなどもするようになりました」
また、同じ事務所に所属している人たちと出会い、一緒にレッスンを受けたりお仕事をしたりする中で新しい夢もできたという丸山さん。そして「夢を持つことも大切ですが、その夢がどうしたら叶うか考え行動するということも教えていただきました」と語ります。
丸山さんはモデルとして活動していく中で、これまでに印象に残ったことが3つあるといいます。
1つ目は、アクセシビューティーに所属して間もなく、企業撮影のお仕事をいただいた際のこと。
「夜中の2時に集合して撮影に挑みました。今まで自分が経験したことがないお仕事でした」とその印象を振り返ります。
2つ目は『24時間テレビ』でファッションショー、インタビュー、募金受付、やり直しができない生放送を体験。その状況に「とても緊張しましたが、アナウンサーの方がしゃがんで僕に目線を合わせてくださったことが嬉しかったです。」と…。
3つ目は丸山さんの密着取材でした。
「日々のポージング練習、リハビリの様子、仕事場（就労支援B型）、私生活を日本テレビ系列『NNNドキュメント』が取り上げてくださり、全国各地の方々に観てもらえたこと。密着取材してくださった山形放送の方には本当に感謝の気持ちでいっぱいです」と、モデルとして印象に残った体験や気持ちを話してくれました。
夢を持つつことの素晴らしさや、叶えるための努力を伝えていきたい
丸山さんは、障がい者モデルとして活動する様子や、日々取り組んでいることなどをSNSで発信しています。今後は「障がいの有無にかかわらず『夢』をもつことの素晴らしさや叶えるための努力を伝えていきたいです」と話していました。
また「自分にしかできない演技で映画、ドラマ、CMなどの映像作品に挑戦したいです！」と、挑戦も忘れません。
丸山さんは、もっと長い距離をスムーズに歩くという目標ために、毎日歩くリハビリをしています。
「目標があるからこそ頑張れる。これから先もし難病で歩けなくなったとしても『今』頑張っている自分は他のことでも、頑張れる」という投稿に「私も頑張ります」「私の方が励まされます」というコメントが寄せられています。また、優しい口調で話す丸山さんの声に「癒されます」というコメントもありました。
一歩一歩進んでいくリハビリの様子の投稿からは、勇気をもらった方や継続が大切なことなどに改めて気づかされた方なども多いのではないでしょうか。
「季節の変わり目なので、皆さん体調にはお気をつけください」と自分のことだけではなく、他の人を気遣う丸山さんからは、優しい人柄であることも充分に伝わってきました。