出産後、集中治療室にいた赤ちゃんが急変…母「無理…」 看護師が見た光景を漫画化する理由とは

出産後、集中治療室にいた赤ちゃんが急変…母「無理…」 看護師が見た光景を漫画化する理由とは

「ナース専科」という看護師・看護学生のための総合WEBメディアを知っていますか?

ナース専科とは、看護師や看護学生が悩みを相談できる掲示板や最新の看護・医療ニュース、看護師国家試験対策などのスキル・キャリアアップ情報を提供しているコミュニティサイトです。またナース専科のInstagramアカウントは2018年に開設され、看護師から寄せられる実際のエピソードをもとに制作したフィクション漫画を発信しています。

今回は、Instagramで看護師の実話エピソードを発信するようになったきっかけや思いなどについて運営者に話を聞きました。

ナース専科について

ナース専科は1980年に創刊した就職情報誌、看護専門誌から始まりました。現在は就職支援、看護知識や技術の情報発信に加え、転職支援など3つのサービスを展開しています。

また「看護という仕事が知られる機会を増やしたい、看護師を応援したい」という目的で2018年にスタートしたのがナース専科のInstagram。このアカウントで発信している漫画は、看護師の方から寄せられる実際にあったエピソードをもとに制作されています。

実際にあったエピソードを、漫画にするこだわりについて運営者はこう話します。

「もちろん実在の患者さんを登場させることは決してしませんし、あくまでも『実話をもとに』した話ですが、日本全国にいらっしゃる看護師の方一人ひとりの、実際の誰かの物語であることにこだわっています。創作ではない『看護という仕事』を漫画として発信することで、看護師の方々に『日々の看護』を振り返っていただけたり、看護業界外の方々にも『看護師』という仕事の価値提供の大きさを感じていただけたりする機会に繋げられればという想いで運営しています」

漫画の発信で大切なことは「全方位に気を配りながら制作すること」

もともと「ナース専科」のサイト上には、ナース専科会員の方々から寄せられた看護エピソードを掲載しているコーナーがひっそりとあったといいます。

そこで「どれもいいエピソードばかりなのにあまり閲覧されておらず、もったいないな…」と思ったことがきっかけとなり、より多くの方々に読んでもらうには、漫画という目を惹く形にしてSNS上で発信するのが一番いいのではと考え、現在の形になりました。

漫画を発信していくにあたり、最も難しく、しかし最も大切なことは「制作においても漫画の話においても、全方位に気を配りながら制作すること」

それには「毎月、多くの看護師の方々がご自身のエピソードを提供してくださっています。実際のご経験を共有してくださるということは、貴重でありがたいことだと考えています。まずはエピソードの当事者である看護師の方お一人おひとりを大切にしたく、すべてのエピソードは『お預かりしている』という気持ちで、責任を持って丁寧に分解させていただき、物語化しています」という思いがありました。

丁寧に分解し、物語化していく作業を編集者と共に行っているのが、ナース専科で漫画を描いている漫画家の方たち。この状況で各登場人物が何を思うのか、エピソードに出てくる各行動はなぜ発生したのか、一つひとつ丁寧に想像を膨らませ、漫画の形に落とし込んでいくのです。

運営者は「漫画家の方々に、自由に想像を膨らませていただけるような状況を作るのも編集者の仕事の一部だと考えている」と話していました。

また漫画の話の中には、さまざまな状況下にある患者さん、そのご家族、そして看護師をはじめとする医療スタッフが登場します。誰の目線から見ても違和感のない話を創り上げることを目標に日々努力しているといいますが、ときには厳しいご意見をいただいてしまうこともあるそう。

「コメントにはすべて目を通し、真摯に受け止め、次の漫画制作に活かせるようにしています」と語っていました。

コメント内で看護師と一般の方の会話が生まれることも…

運営者はInstagramでの漫画発信について「看護師という仕事がいかに難しい仕事であるのかと同時に、いかにやりがいがあり、価値提供の大きい仕事であるのかがよくわかる“漫画群”になっていると思う」といいます。

実際にInstagramのコメントには、看護学生、看護師はもちろん、20〜30代の方々を中心に一般の方から多くの声が寄せられています。それには「とても共感した」「もし自分だったら…と考えさせられた」といった長文のコメントも多く、また漫画をきっかけにしてコメント内で看護師と一般の方の会話が生まれることも。

運営者が個人的に特に印象に残っているのは「娘が看護学生なのですが、看護師になると決めた娘を誇らしく思う」という内容のコメント。
「これから職業選択をしていく世代の方々にも、ナース専科の漫画が届くと嬉しいな…と思っています」と話していました。

漫画『新生児Mちゃんのお看取り』

ここで一番反響のあった漫画『新生児Mちゃんのお看取り』を紹介します。
Mちゃんは出生前から染色体異常が判明しており、心臓の疾患による合併症が出ていました。

そのMちゃんの担当看護師になった、入職3年目の若い看護師。

『新生児Mちゃんのお看取り③』(@nursesenkaさんより提供)

1歳まで生きるのは難しいと言われていたMちゃん。それはご両親にも説明され、帝王切開での出産後、Mちゃんは1,000グラムに満たない体重でしたが、NICU(新生児集中治療室) で少しずつ大きくなっていきました。

両親と成長を喜んでいた看護師でしたが…。その後、Mちゃんの状態が悪化してしまいます。
看護師は母親に連絡をいれ、Mちゃんが危険な状態を知らせ、病院へ来てもらうよう伝えました。

しかし、Mちゃんの母親はNICUの扉の前までは来ることができたのですが…。なかなか病室に入ってきません。
「やっぱり無理…」「行けない!」となってしまう母親に「そ、そうですよね…怖いですよね…」としか声をかけられない看護師。

『新生児Mちゃんのお看取り後編③』(@nursesenkaさんより提供)

そこへ様子を見ていた先輩看護師が現れ「Mちゃんを抱っこしてあげよう」「一人じゃないよって伝えてあげよう」と母親に寄り添います。
その後、Mちゃんを腕の中でお看取りすることができた両親…。

『新生児Mちゃんのお看取り後編⑤』(@nursesenkaさんより提供)

Mちゃんは、苦しそうな呼吸からだんだん安らかになり、安心したような表情で母親の腕の中で天国へと旅立ちました。
とっさに母親にかける言葉がみつからなかった看護師が「看護師に大切なのは、技術的なスキルだけじゃない」と確認したエピソードです。

この漫画を制作したときのことを聞いてみました。

「制作したのは2年ほど前ですが、今読み返しても涙が出てしまいます。『私もまったく同じ様な経験をしました。お母さんと自分が被って見えました。あのときお世話になった先生や看護師さん達のことは一生忘れません』『なかなかこんな対応できない。いろいろな経験を積んでいるからこそできる声かけ…先輩すごいなぁ』このようなコメントもいただき、多くの方に読んでいただきました。看護師という仕事は、何ともしがたいつらい状況に直面することも多いと思います。“看護”とは何か、そんなことを感じられるような話にできたのかな…と考えています」

今後「患者視点での物語にも少しずつ挑戦を…」

ナース専科では「ナース漫画大賞」を年に1度開催しており、2024年の表彰では初の試みとして、看護師視点での「忘れられない患者さん」部門に加え、患者視点での「忘れられない看護師さん」部門を新設し、2部門で受賞作品を決定しました。

こうした試みから、これまでは看護師の方々から寄せられたエピソードを軸に漫画化をしてきましたが、これからは患者視点での物語にも少しずつ挑戦していきたいと運営者は語ります。また「患者視点での物語も拡充していくことで、さまざまな角度から“看護”を考えるきっかけとなるようなアカウントを目指していきたい」と今後について話していました。

ナース専科のInstagramアカウントは編集者1人、漫画家2名で始めたものでしたが、次第に協力してくださる漫画家の方も増え、現在はフォロワーも10.9万人。
「たくさんの方々に見ていただけるアカウントに成長できたことをとても嬉しく思い、エピソードをご提供くださる看護師の方々、すべてのエピソードに真摯に向き合ってくださる漫画家の方々のお力で成り立っています」とその思いを語ります。

また「今後はInstagramアカウントからもエピソード募集をさせていただく予定です。看護師目線のエピソードも患者目線のエピソードも、患者家族としてのエピソードも、看護にまつわる様々な視点からのエピソードをお待ちしています。多くの方に参加していただけると嬉しいです」とこれからの目標について話してくれました。

看護業界内はもちろん、看護業界外も巻き込み、広く看護を考える機会を提供できるようなアカウントを目指す「ナース専科」のInstagramは、今後多くの方々の目に留まり、看護というものを考える大きなきっかけとなるでしょう。

ナース漫画大賞2024

この記事の写真一覧はこちら