愛媛県西条市出身で、現在弓削商船高等専門学校の4年生である瀬川悟さんは、地元である丹原地区や学校のある愛媛県上島町などで高校時代から地方創生に熱心に取り組む。
危機感を持っていたとき 先輩からの誘い
父親の勧めで現在の学校に進学したが、情報工学だけを学び、情報工学を学ぶメンバーだけと関わる生活を過ごす中で、まだ高校生くらいの年代で専門的なことだけをすることへの漠然とした危機感を持っていた。
そんなとき、2年上の先輩から、無人島に遊びに行く誘いを受けた。そこで、たまたま一緒に行ったメンバーに、上島町でボードゲーム会を定期的に開催している医療従事者の方がいて、その会に通うようになると、それがきっかけで地域のいろいろな面白い大人たちと繋がることになった。
「人の温かさを魅力に感じ、地域社会というものに興味を持ちました。いろいろな地域を見てみたい、そして人々が集まる場をデザインすることへの関心もあったため、3地域で合計10回ほどマルシェのボランティアスタッフとして関わりました。そうした経験の中で、自分たちでもマルシェを企画したいと思うようになりました」
瀬川さんの地元である西条市丹原地区では、38年続いた夏祭りである丹原七夕祭りが2018年を最後に幕を閉じた。瀬川さんも小学生のときに商店街を鼓笛隊として演奏して歩いた思い出の祭りだ。これを機に、地元をなんとかできないかという思いが募っていた。
「丹原という街は自然豊かで、とても人の温かい場所です。ですが、賑わいが無くなりつつあり、もともと観光地が少ないので松山市に向かう人々がただ通り過ぎていくだけになってしまっています。自分が幼少期に感じた賑やかで温かい丹原の街を復活させたいという思いから企画しました」
マルシェの開催
2023年3月4日に「~高校生が企画する~丹原まるごとマルシェ」を開催した瀬川さん。運営メンバーは高校生7人。来場者はなんと約4500人。会場である丹原総合運動公園には、キッチンカーやハンドメイドの雑貨店、整体や飲食店など地域内外から57店舗が出店した。
「出店者は、自分たちが参加してほしいと思ったお店に対してInstagramのDMを使って1軒1軒連絡してお願いしました。高校生が地元を盛り上げようとしてやっているということに共感していただき、多くのお店が協力してくれました」
高校生の企画だから集客が上手くいくのかと心配されていたが、想像をはるかに超える来客があり各店舗売り切れ状況に。地元の様々な店舗や地域のイベント、西条市広報への掲載や地元で3万人くらいフォロワーがいるYouTuberとのコラボレーションなどを通して地道に様々な方法を通して宣伝を行った成果だった。
「予想以上に人が来て驚きました。やれば実るんだなと。不安も大きかったんですけど、努力は報われると思いました。大人たちからも、高校生がここまでできるのか、どうしたらここまで集められたのか、想像のはるか5倍は来たといわれました。運営側としてもここまでお客さんが来て下さるとは思っていなかったです」
大成功に終わった高校生による丹原でのマルシェ。しかし、瀬川さんは第2回を開催することは見送った。
「このマルシェでは、たしかに出展者と来場者を繋ぐことはできました。ですが、自分がやりたいことはもっとローカルなことだったと気づきました。マルシェは多くの来場者と多くの出展者のマッチングです。しかし自分は目の前の人と人とのマッチングで起こる笑顔や地域社会への化学反応を生み出したいと思いました。地方創生には持続可能性が重要だと思います。単発のイベントも大事ですが、その日だけ盛り上がるのではもったいない。地域に何が残せるか。高校生がこんなことできてすごい、で終わってしまわないように」
その後、以前に増して精力的に様々な地域イベントや学生向けの地方創生プログラムに参加するようになった瀬川さん。とにかく自分の興味関心が赴くものや場所に飛び込み、自分の目指すところを模索している。
「全国各地で、いろいろな同世代と出会いました。プログラミングやLED、水引など自分自身が究めようとするテーマが決まっていて、そのテーマに熱中している人ばかりです。最近参加した起業プログラムでは、起業するには何か一つのことに絞れと言われました。しかし、自分はまだ何かに定まっている状況ではありません。ですが、孫大蔵著『冒険の書』に出てきた『答えようとするな、むしろ問え』という言葉が自分の中でいま響いています」
瀬川さんは、利益を追求するのではなく、人に貢献することで、持続可能な最低限のお金が入ってくるという仕組みを作りたいという。自分を温かく見守ってくれる場所で、ローカルな顔がみえる関係の中で、人の集まりをデザインする。これから瀬川さんが作り出す場が生み出す化学反応が楽しみである。