漫画家とヘルパーを両立している吉田美紀子さん。吉田さんは「消えていく家族の顔」「中年マンガ家ですが介護ヘルパー続けてます」などを出版しています。
現役ヘルパーだからこその視点で、わかりやすく認知症について伝え、読者が読み終えたときに、認知症の方の気持ちに寄り添えたり行動の理由を理解できたりするようになってほしいといいます。
なぜこのような漫画を描こうと思ったのか、また今後の介護について現役ヘルパーの目線から聞いてみました。
漫画家とヘルパーの両立について
吉田さんは現在、漫画家とヘルパーを両立していますが、はじめからそうだったわけではありませんでした。
20年以上漫画家として活動してきましたが、あるとき限界が見えたと同時に仕事量も減ったといいます。しかし、漫画を描く以外自分に何ができるかまったく分からない状況でした。
そこで、社会復帰へのリハビリかつ土台になるような資格がほしいと考え、介護職員初任者研修へ通うことに。当時は休みなく介護職と漫画の両立をしていました。
漫画家とヘルパーを両立することには深い理由はなく、漫画が好きでこれからも続けていきたいことと、現在週2日のヘルパーで少しだけでも誰かの役に立ちたいという気持ちからだといいます。
介護の漫画を描く理由
吉田さんはヘルパーをはじめた当初、ヘルパーの仕事を読者に知ってほしくて実話エッセイを描きました。しかし働いているうちに、認知症を患っているご本人とうまく付き合っていけないご家族が多いことを知ったのです。
そこで「もしかしたら認知症の人はこんな気持ちかもしれないよ?」と伝えたくなり、半分創作のような介護漫画を描いてみることに。
漫画化していくにあたっては「読んでくれる方が自分ごととして考えてもらえるように、さまざまな家族の形を考えました。しかし、仕事上守秘義務があるので複数の家族のエピソードを入れ、モデルは常に3~4人の特徴を入れてキャラクターを作り…。同僚が読んでも誰か特定できないように作るのが大変でした」と苦労したことを振り返りました。
その後、X(旧ツイッター)上で介護される側の視点で初めて描いた漫画を公開。3ページの短い漫画は、大きな反響を呼びました。反響が大きかった理由について「認知症という病気のことを理解してもらえたからでは…」と語ります。
吉田さんはこうした漫画を描くとき「認知症のことを知ってもらいたい気持ちが強く出ると暗いだけの話になってしまうので、読者の方が嫌な気持ちにならないよう気をつけている」と話していました。
漫画を読んだ現在介護をしている読者さんからは「母の気持ちを理解しようと思う」「少し優しくしたい」など、 好意的に受け止めてくれることが多く、介護を終えた方からの後悔の言葉もたまに寄せられるといいます。
介護の漫画ではありますが、読者層を聞いてみると介護をされてる方だけでなく、これから介護に備えたいと考えている若い人や、まったく異世界の話のように受け止めている方など幅広い印象のようです。
介護される人と、する人について
「介護される人と、介護をする人」それぞれにさまざまな問題が生じ、接していくうえで心や体が苦しくなってしまうこともあるでしょう。
お互いどう接し合うのがいいのかについて「介護者も、被介護者も自分の心や体が壊れない距離を取るのが1番」といいます。
「いい家族だからいい介護者になれるとは限りません。家族だけで介護する時代ではありませんし、いろいろな専門職の方々が支援をしてくれます。そのためぜひ包括支援センターなど利用してほしい」という思いも現役ヘルパーの経験から語ってくれました。
介護についての思い
現役ヘルパーとして働いている吉田さんですが、仕事としての介護、家族の介護について思いを話してくれました。
「仕事として介護職に就いている人に対しては、とにかく給与をあげてほしい。介護福祉士の資格があれば多少給与はアップしますが、受験料も高額ですし初任者研修の資格しか持ってなくても有能な職員さんは山ほどいます。また家族の介護については、介護が必要になる前に予備知識だけでもどこかで用意してくれたらと思います」
また、家族を介護する方にとってのいい点については「自分が1番そばで見守れるところ」仕事での介護のいい点は「目の前の人の役に立っていると感じられるところ」と話してくれました。
「認知症や身体介護が必要な方々と触れ合う機会がもっと増えて理解が進むといいな…」と、ヘルパーとして働く中で、季節のイベントには近隣の住人も一緒に参加して盛り上げてくれたことから、こうした思いが生まれます。
心身のバランスが大切
読者へ「よく寝てよく食べて適度に歩く」という言葉を伝えたい吉田さん。その理由は「これらができなくなったら、心身のバランスが崩れてしまう」と考えているからです。
これまでに訪問介護、特別養護老人ホーム、病院、障害者支援とさまざまな経験をしてきました。しかし、体力的な限界を感じているため、これからは他のアプローチ方法を探して関わっていきたいといいます。
「自分では気がつきにくい不調があります。自分なりの健康スケールを持って無理せずが一番です」と話す吉田さんからは、漫画家とヘルパーを経験したからこそ、体を気遣う思いが伝わってきました。