「不登校は病気と診断」全国初の不登校専門クリニック、前に進むための医学的アプローチ #令和の子 #令和に働く

「不登校は病気と診断」全国初の不登校専門クリニック、前に進むための医学的アプローチ #令和の子 #令和に働く
飯島 慶郎院長(出雲いいじまクリニックより提供)

全国で初めて開設された子どもの不登校専門クリニックが、島根県出雲市にあります。院長の飯島慶郎さんは、不登校児に対し、医療的なアプローチの必要性を強く感じ平成30年1月に開業しました。自身の子どもも不登校だった飯島さんは「不登校には医療的援助が必要」と話しています。小中学校の不登校児童生徒数が過去最多となっている今、飯島さんに不登校児に必要なケアと今後の展望を聞きました。

不登校専門クリニックを始めたきっかけ

不登校児に医学的なアプローチを行う「出雲いいじまクリニック」は、もともと統合医療を専門として治療を行っていました。開業当初から不登校の子どもと、その家族からの相談が殺到したといいます。

その頃、偶然にも飯島さん自身のお子さんが不登校になり「医師である前に一人の父親として、同じ思いを抱える親子のために何かできないか」と考えました。

飯島さんは、多くの不登校児とじっくり向き合う中で、不登校の背景にはたくさんの精神疾患が隠れていることに気づいたといいます。「不登校自体を『病院で診てもらうもの』という考えはまだまだ広まっていませんが、実際には、この社会問題の解決には子どもの精神疾患に対する理解が不可欠であると思います」

飯島 慶郎院長(出雲いいじまクリニックより提供)

不登校は「医療の対象」

飯島さんが感じる最大の壁は、不登校を医療の対象として捉える視点が社会に浸透していないことでした。

「多くの人々は不登校と聞くと『怠け』や『わがまま』と考え、医療機関を頼ろうとはしません。しかし、それは誤解であり、尋ねてきた不登校の患者さんの多くは、医療的アプローチによって、前に進めているという事実があります」

これらの問題を解決するため、飯島さんは「不登校は病気のひとつ」と診断することを大切にしています。

実際の患者さんの声

飯島さんの元には不登校児から「初めて自分の気持ちを理解してもらえた」という声や、保護者から「子どもの状態が少しずつ改善している」といった感謝の声が届いているといいます。

「これは病気です」と診断してもらったことにより「なぜ学校に行けないのか」という原因探しを家族間でしなくなり、改善に向けて前向きに取り組めるようになったという声が多いそうです。

一方で「薬物療法に抵抗がある」「すぐに学校に戻れると思っていたが、時間がかかっている」といった声も。これらに対しては、丁寧な説明と継続的なサポートを心がけて対応しているといいます。

クリニックの外観(出雲いいじまクリニックより提供)

不登校の子どもたちの実態

令和4年度の文部科学省の調査によると、小中学校の不登校児童生徒数は前年度から5万4108人増加し、29万9048人でした。 これは過去最多の数字であり、10年前と比べると約2.6倍です。

不登校児童数が増加した背景には、新型コロナウイルス感染症の影響や、SNSの普及による人間関係の変化、学校や社会のプレッシャーの増大など、複合的な要因があると飯島さんはいいます。

「不登校児の増加を懸念する一方で『学校に行かない』という選択肢があることによって、子どもたちが自分に合った学び方や、生き方を見つける機会になる場合もあるため、この数字の増加は必ずしもネガティブな面ばかりではないと私は考えています」

子どもたちの不登校の原因は複雑で、一人ひとり異なりますが、飯島さんが関わってきた中での原因としては下記が多くみられるといいます。
1. いじめや友人関係の問題
2. 学業のプレッシャーや学習の遅れ
3. 家庭環境の変化(離婚、転居など)
4. 発達障害やその他の精神疾患(うつ病、不安障害など)
5. 学校システムへの不適応

心理状態としては、不安、抑うつ、自己否定感、無力感などが見られ、社会からの孤立感や将来への不安を抱えている子どもも少なくありません。

クリニックの待合室(出雲いいじまクリニックより提供)

出雲いいじまクリニックが語る必要なケア

飯島さんは、不安や無力感を抱える子どもたちには、安心できる安定した環境の中で、一人ひとりの状況に応じた適切な医療的・心理的サポート、学習支援、そして家族や学校との連携が重要になると話します。

不登校になる子どもたちに多い特徴として「高い感受性や繊細さ」「完璧主義的な傾向」「他者の評価を気にしすぎる傾向」などが挙げられ、適切なサポートがないと自信の喪失につながってしまうことも。

「しかし、これらの特徴は裏を返すと素晴らしい長所になり得ます」と飯島さんは話します。
大切なのは、不登校の子どもたちを孤立させず、適切なサポートを提供し、その子自身の長所としていい面を伸ばしていくことなのです。

今後の展望について

飯島さんには「全国各地に不登校専門クリニックを作る」という夢があります。
志を同じくする医師と連携しながら、どの地域でも、不登校や精神的な悩みから脱却したいと望む患者や家族に対し、適切な医療を受けられる社会の実現を目指しています。

具体的には、若手医師向けに、少ない資金で開業できるミニマム開業のノウハウと、不登校診療に必要な知識を提供する事業も構想中です。
これにより、より多くの医師が不登校診療に参入しやすい環境を整えたいと考えているといいます。

また、行政や教育機関、地域コミュニティとの連携をさらに強化し、不登校の子どもたちを支える社会的なセーフティーネットを構築することも重要な目標です。

「今後、不登校に対する社会の理解を深めていき、不登校は決してネガティブなものではなく、新たな可能性を見出すチャンスでもあるという認識を世の中に広めていきたい」「子どもたちの笑顔を取り戻すため、社会全体で支える仕組み作りに尽力していきたい」

そう力強く語る飯島さんの手で、たくさんの子どもたちの未来が明るく前向きに輝きますように。

※この記事はほ・とせなNEWSとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。

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