1歳娘の成長に違和感 病院に行くと…「治療法はありません」10万人に数人の難病とは

1歳娘の成長に違和感 病院に行くと…「治療法はありません」10万人に数人の難病とは
(@happyday20210204さんより提供)

福山型先天性筋ジストロフィーという病気をご存知ですか?9番染色体の異常による先天性の難病で、10歳前後から進行が顕著になっていきます。

サリちゃんが福山型先天性筋ジストロフィーと診断されたのは1歳のときでした。
「ふくやまっこ」という愛称で呼ばれるこの病気と闘うサリちゃんの母親は、サリちゃんの治療やリハビリについてSNSで発信しています。

この記事では、サリちゃんが福山型先天性筋ジストロフィーと診断されるまでの経緯と日々いろいろなことにチャレンジするサリちゃんの様子について母親から話を聞きました。

お友達との違いを感じた乳児期

サリちゃんが生まれたのはコロナ禍の東京。その頃は、児童館で母子が集まるようなイベントはなく、母親は幼児教室でどのような指導を受けられるのか興味をもち、サリちゃんが生後2ヶ月のころから通い始めました。

生まれたときから哺乳力が弱く、40mlのミルクを飲むのに45分と長い時間がかかっていたというサリちゃん。幼児教室に入った当初、サリちゃんの発達はお友達と同じように見えました。しかし、月齢が進むにつれて「お座りができない」「お座りしても首が上げられない」「ボールが前を転がっても目で追いきれていない」など、お友達との差が目に見えるように出てきたと母親は話します。

サリちゃんの療育の様子(@happyday20210204さんより提供)

そんなサリちゃんを、幼児教室の先生方は丁寧に指導してくれました。そして「定期健診のときにはしっかりと医師に診てもらうように」とアドバイスをもらい、病気がわかる前から療育に繋げることができました。

福山型先天性筋ジストロフィーと確定

生後7ヶ月の定期健診後、翌月に詳細な検査をする予定でした。しかし、父親の仕事の関係で急遽自宅に帰ることになり、生後9ヶ月でMRIと血液検査を受けたサリちゃん。

その約1ヶ月後に福山型先天性筋ジストロフィーの疑いと診断され、精密検査を受けます。その後転院し、診断が確定したのはサリちゃんが1歳になったころでした。

診断を受けた家族の思い

サリちゃんの診断結果を聞くために受診した母親は「まぁ何もないよね〜」と気軽な気持ちで病院に向かいました。しかし医師から告げられたのは「福山型先天性筋ジストロフィー」という病名だったのです。母親は、想定外の宣告にひどく戸惑ったといいます。

福山型先天性筋ジストロフィーと告げられた後、馴染みのない病名に戸惑う母親は、医師に対して「歩けるようになりますか?」「知的な面では問題ないでしょうか?」「予後はよいのでしょうか?」「治療法はありますか?」と次々に質問しました。

医師からは「残念ながら歩くことは難しいでしょう。知的な遅れもあります。予後もよくないです。遺伝子疾患なので治療法はありません」と、どれも想定外の言葉が次々と返ってきて、母親は頭が真っ白になりました。

動揺のあまり「先生、今日わたし、車で来たんですがこのまま運転して帰れますかね?」と医師に聞いたといいます。

サリちゃんを支える家族の努力

サリちゃんの病気は10万人に2〜3人と症例の少ない難病です。サリちゃんが福山型先天性筋ジストロフィーと診断されてすぐの頃、両親は病気についての情報が身近にまったくなく困りました。
そこで福山型先天性筋ジストロフィーの患者会に入会して、同じ病気の子を持つ先輩パパ、ママからたくさんのことを教わったといいます。

なかでも、障害者手帳をはじめとした行政の制度や、療育にまつわる制度、医療費や手当についてなど、難しいことも多く、調べないといけないことや、申請する書類がたくさんあり、戸惑いを感じたといいます。そのときも、患者会の方から丁寧に教わりました。

また、児童発逹支援の先生から、支援相談員さんの制度を教えてもらったり、サリちゃんの※レスパイト先を探してもらったりしました。その他にも理学療法士の先生、役所の児童福祉課の方など、関わる方々からたくさんの学びを得ながら、乗り越えたといいます。

現在は、保育園、児童発達支援事業所、訪問看護、理学療法と作業療法に通うなど、様々な大人と関わる機会が多いサリちゃんの未来のため「関わってくれる先生方としっかりコミュニケーションをとることを心がけている」とサリちゃんの母親は話します。

※レスパイト
レスパイトとは「休息」「息抜き」という意味です。病気の方のご家族や、介護者の休養を目的とした短期入院です。

笑顔をみせるサリちゃん(@happyday20210204さんより提供)

現在のサリちゃん

現在3歳のサリちゃん。親がセッティングすることでお座りができるようになりました。寝返りはできますが、寝返りがえりはできません。歩けないため、移動するときは抱っこ、ベビーカーまたは福祉用のバギーで移動します。

母親のSNSに、カエルの歌を聞いて「グァグァグァ」と歌うサリちゃんの様子が投稿され、歌を聴きながら手拍子したり、足で拍を取ったりするかわいらしい姿を見ることができます。

歌うサリちゃん(@happyday20210204さんより提供)

最近になって、保育園の加配の先生から絵カードを使ってのコミュニケーションをとるという提案があり「すいとう」「箱にしまう」など行動を絵に描いたカードを見て、サリちゃんはその行動を理解しているそうです。

「ちょうちょ」「ジュース」「ニャー」などの単語で伝えることができますが、自分の思いを言葉で伝えることは難しく、サリちゃん自身の主張が通らなかったときや、不快なときは癇癪を起して絶叫してしまうといいます。

サリちゃんに必要な介助

福山型先天性筋ジストロフィーは筋肉が壊れやすく弱くなる症状のある病気です。食事をするときは、噛む力と飲み込む力が弱いため、サリちゃんのペースに合わせて全介助が必要。
腸はほとんどが筋肉のため、便を押し出す力が弱いサリちゃんは便秘になりやすいといいます。

サリちゃんは体調を崩すと痰が絡みやすく、その度に家族が吸引カテーテルで鼻水と痰を吸引。
さらに福山型先天性筋ジストロフィーという病気の怖いところが、発熱することによって筋肉の中の成分が血液中に溶け出す『横紋筋融解症』になる確率が高いことです。

生活のなかで、感染症に気を使ったり、介助が必要な部分も多いため、大変な面も多々あるのではないかと母親に話を聞くと「親自身がツライツライと思い詰めるのではなく、例えば『痰吸引ってこうやってするのか』と新しい事を知り、体験できることを楽しむようにしています」と、前向きな答えが返ってきました。

その姿勢はしっかりサリちゃんに受け継がれており、東京で療育を受け始めた当初から「いろいろなことに興味があり、好奇心が強いことは大いに訓練の助けになります」と療法士の方に言われたといいます。
新しい訓練でも楽しんでやってみようとチャレンジし、先生方にもお友達にも笑顔で接する努力家なサリちゃん。

訓練をするサリちゃん(@happyday20210204さんより提供)

SNS発信のきっかけ

サリちゃんが福山型先天性筋ジストロフィーと診断されたその日の夜、両親は泣きながらインターネットで病気について調べたといいます。
そのときに読んだ先輩ママのブログにコメントをすると「今何をしたら喜ぶかどんな表情をしているか、ちゃんと見てあげてね。お子さんの存在自体が不安を和らげるかもしれません」と返信があり、なんだかとっても安心したと母親は振り返ってくれました。

SNSを通して、同じ病気を抱えながらがんばる親子の姿、結婚して妊娠出産を経験している方のインスタグラムなどを見たことで、両親は真っ暗闇の中に光が差し込んだようだったと話します。
サリちゃんの母親は、妊娠初期からインスタグラムに投稿し続けていました。

サリちゃんに診断がおり、しばらくして自分の気持ちの整理がついたころに病気のことを公開するところから始めました。

自分たちがSNSやブログの情報に助けてもらったことを思い返し「これから生まれてくるであろう『後輩※ふくやまっこ』のママたちに『恩送り』ができたらいいな」と現在も投稿を続けているといいます。
そんなサリちゃんの母親のSNSに、病名で検索したパパやママたちからDMが届くことが増えました。

あるママは「診断されてしばらくは公園に行くたびに他の子と比べて落ち込むので、引きこもっていましたが、サリさんがいろいろなところに行き、楽しそうにしている姿を見て勇気を貰い、このままじゃいけないなと思うきっかけになりました」と話してくれたといいます。

また別のママからは「診断されてすぐ暗い気持ちになりましたが、インスタでサリさんを見つけてこっそりとフォローしていました。インターネットで調べても暗い話題しか出てこない中で、元気をもらえました」とサリちゃんの様子に元気づけられた方がたくさんいます。

サリちゃんの母親は、福山型先天性筋ジストロフィーに限らず、障がい児育児にまつわる発信をしているので、ふくやまっこ以外のママと交流できることをありがたく感じているといいます。

※ふくやまっこ
福山型先天性筋ジストロフィーで闘病する子の愛称

サリちゃんの今後について

サリちゃんの母親は「将来的にサリちゃんの病気の治療に使える遺伝子治療薬ができたとしたら、そのときにサリちゃんが自分で人生を切り拓けるように、今できる限りのサポートをしていきたい」と今後に向けての支援について話してくれました。

また、サリちゃんには妹がいるので両親は自分たちがいなくなった将来、サリちゃんのことで妹におおきな負荷がかからないように、悩みを相談できる友達や安心できる場所を作っていきたいと話します。

入院中のサリちゃん(@happyday20210204さんより提供)

サリちゃんの家族には目標があり、福山型先天性筋ジストロフィーは進行性なので、いずれ普段の生活の中で人工呼吸器などの生命維持装置が必要になる可能性があります。そうなると長距離の旅行が大変になるため、サリちゃんが小学校に上がるまでに海外旅行を経験させてやりたいといいます。

「障害があることは不便ではあるけれども不幸ではない」そう話すサリちゃんの両親。
「ピアノを弾いたり、キャンプに行ったり、海で泳いだり、成長過程は“普通”ではないけれど、“普通の育児”で体験できることは躊躇わずにチャレンジしたい」

サリちゃんにとってのチャレンジが、SNSを通してたくさんの人に勇気を与え、前向きに未来を描くきっかけになることでしょう。

出典:小児慢性特定疾病情報センター『福山型先天性筋ジストロフィー』

福山型先天性筋ジストロフィー 概要 - 小児慢性特定疾病情報センター

福山型先天性筋ジストロフィーの概要は本ページをご確認ください。小児慢性特定疾病情…
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