「トランスジェンダーはその人の特徴の一つ、みんながそのくらいの感覚でいられるような世界になればいいよね」
そう話すのは、SNSで元女めぐみ│40歳からハイブリッド男子(@magumagu54)として発信しているめぐみさん。
自らをハイブリッド男子と呼び、トランスジェンダー男性として自分のこれまでの経験や体験を語ることで、セクシャルマイノリティで悩む人たちが一人でも多く、ハッピーになれたらという思いで発信しています。
悩みを抱えつつも、諦めてしまっていたり、先の見えない不安を感じていたりするトランスジェンダーの人たちは日本国内にたくさんいます。
めぐみさんはその人たちにとって、本来の自分を表現する勇気や希望を与える大きな存在となっているのです。
現在、千葉県で奥さんと2人暮らしをしているめぐみさんに、自身の生き方と夫婦の暮らしについて話を聞きました。
自分は人と違うかも…幼稚園児の頃から抱いていた違和感
現在、日本の戸籍上の性別は、出生時の身体観察の結果、医師から割り当てられた性別になっています。それは出生証明書や出生届に記入され、戸籍に登録されます。
『トランスジェンダー』とは、その割り当てられた性別とは異なる性別を生きる人のことを示す総称です。
戸籍上、女性として生まれためぐみさんが、性別に違和感を抱き始めたのは幼稚園児の頃。
「自分は人の感じる感覚と何か違う、病気なのかも」と漠然とした不安や戸惑いを抱えながら『女の子』ではなく『男の子』になりたかったと話します。
そんな幼少時代にテレビで見たはるな愛さんの言葉が、とても印象に残っているとSNSの投稿にありました。
「はるな愛としての自分も、大西賢示としての自分もどちらも大切」
その言葉にめぐみさんは深く共感したそうです。
それでも学生時代はがんばって『女の子』として生きていためぐみさん。
ホルモン治療をしながら31歳のときに乳腺摘出手術を受けました。そのときは、いずれ性別適合手術もできたらいいな…と思い、39歳のときに手術を受け男性として生きることを決意します。
その背景には、現在の奥さんとの出会いがあったそうです。
現在の日本では同性婚が認められていません。
元々女性であっためぐみさんと奥さんが結婚するためには、どちらかが性適合手術をして『生殖腺の機能を永続的に欠く状態』等の要件を満たしたうえで、戸籍上の性別変更の必要があるのです。
子宮・卵巣摘出手術を受けて自分の身体を変えてでも、結婚して名実ともに『家族』になりたい。そう思っためぐみさん。
手術をすることが自分に素直に生きることであると同時に、奥さんへ自分なりの覚悟や誠意を表現する手段だったそうです。
『めぐみ』という名前への思い
思春期の頃は『めぐみ』という名前が本当に嫌で、改名するつもりでいたと話すめぐみさん。
戸籍変更の際に名前を変えることもできたのですが、現在もかわらず『めぐみ』という名前で生活しているのには理由がありました。
ひとつは『めぐみ』という名前の通り、人に『めぐまれた』人生だから。
女として生きた人生も、男として生きている人生もどちらも大切な自分の人生であり愛着があるといいます。
一時は嫌で仕方なかった名前を受け入れられたのは、自身が言うように、人との出会いに恵まれ、たくさんの人から愛されているからこそなのでしょうね。
もうひとつは、ご両親の離婚の際に3回苗字が変わっているからだそう。下の名前が変わってしまうと元の自分の名前がなくなってしまう。それが寂しいという思いもあるのだそうです。
今では「女性的な名前だね」と言われたときは「女に生まれたけど男になった人なんです。と説明しやすいかな」と話すように、SNSではリアルな自身の体験やトランスジェンダーへの考えを発信し、注目を集めています。
SNSの発信で届けたい思い
めぐみさんが自身の体験を発信する理由の一番の目的は、自分と似た境遇の人たちと繋がり、役に立ちたいという思いがあるそうです。
「素朴で地味だけど、元女だけど、こういう生き方もあるよー!LGBTQ+の当事者って意外とあなたのそばにいるよ!」
そう伝えたい。そういった理由から発信していると話してくれました。
奥さんとの出会い、そして結婚
めぐみさんと奥さんとは職場の研修で出会ったそうです。
出会った当初、めぐみさんは女性として奥さんと出会い、約1年間同じ役割で働いていました。その時は別の女性とお付き合いしていためぐみさん。その女性から突然振られてしまった際、いろいろと相談しているうちに仲良くなったとのことです。
結婚に対しての意志は薄かった、興味もあまりなかったというめぐみさんが日本ではまだまだハードルの高い結婚を決意したのはどうしてなのでしょう。
その答えは奥さんの人柄にありました。
トランスジェンダーの夫に対して言わないようにしていることや気をつけていることってある?
「奥さんが自分に気を使って肩身の狭い思いをしているのではないか?」「元女と結婚して苦労しそう…と周りに思われていないだろうか」と心配になりめぐみさんは奥さんにこんな質問してみたのだそう。
奥さんは「ない!」「言いたいこと言うから!」と即答。
そして「トランスジェンダーやからとか男やから女やからとかそういうの考える必要のない社会になってほしいね」と言ったそうです。
めぐみさんはそれを聞いて自身がまるで悲劇のヒロインかのように思い込んでいた節があることに気づき恥ずかしくなってしまったと言います。
固定観念に縛られず「好きになった人が女であっても男であっても、一緒に生きていく条件に性別は必要ない」
そんな奥さんの包容力と人柄が、めぐみさんが手術で性別を変えてでも結婚しようと決意した要因なのだそうです。
この投稿には「素敵なご夫婦」「皆んな自分らしく自分を肯定してエンジョイして行こ」などのコメントが寄せられました。
結婚を決意しためぐみさん。同棲する際には結婚を前提にと思っていたので、普段の会話の中で「そろそろ結婚するかぁ」と伝えました。
すると奥さんは拍子抜けした様子で「思ってたんと違う!!!」と言ったのだそう。
2人の関係性が見え隠れする、素敵なプロポーズですね。
めぐみさんはSNS投稿の中で「トランスジェンダーもその人の特徴のひとつ、くらいになればいい」と語っています。
まだ自身がトランスジェンダーという自覚のなかった学生時代のめぐみさんに、友人が会話の中で『性別はその人を表すただの記号』と言い表した言葉が妙に記憶に残り、納得したといいます。
そして年を重ね令和になり、セクシャルマイノリティーだけでなく生き方の多様性が認められる世の中になってきている今「これから自分はどう生きたいのか?」と真剣に考えたのだそうです。
考えた末、自分自身が『女性として、もしくは男性として』生きなくてはと考えるあまり、自分という人間を【型】にはめ込もうとしていたと気づきます。
これからのめぐみさん夫婦のかたち
「今後、どんな夫婦でいたいですか?」と尋ねました。
「いくつになってもくだらないことで笑いあえる夫婦でいたいです。あと…じいさんばあさんになっても名前で呼び合える夫婦でいたいです」と、自然体でお互いのすべてを認め合うめぐみさん夫婦の未来が見えてくるような回答が返ってきました。
今後もSNSを通じて、トランスジェンダーについてはもちろん、LGBTIQ+の当事者に限らずいろいろな世代の人に「こういう生き方もあるのね」「自分の周りにもきっといる」と感じてもらえるような投稿を届けたいと語ってくれためぐみさん。
トランスジェンダーの方が何を感じて何に悩んでいるのか、そして明るく楽しく生きるめぐみさんの姿にたくさんの人がハッピーになれる投稿から、これからも目が離せません。