2023年5月に起きた能登地方の地震から、石川県の街の復興・観光客の減少を食い止めるために活動している人たちがいる。金沢美味しいもの作家の名前で活動する株式会社美来の代表だ(以下、金沢美味しいもの作家さん)。株式会社美来は、就労継続支援A型 社会福祉事業みらいにて雑貨屋「ミライ堂」を運営している。
障がいのある方を支援している社会福祉事業みらいでは、Xアカウント「金沢美味しいもの作家(@minimini_japan)」として、その活動を発信している。2023年5月の震災当時、Xで呼びかけを行い、障がい者が作るミニチュア作品を飲食店に販売し、その売り上げを寄付するという取り組みを行っていた。
Xの投稿から約2ヶ月の7月には1店舗目のミニチュア作品100個を作成。見事イベントは大盛況で終わった。その後も寄付額を集めるため活動を続けていた。
そんな矢先、2024年1月1日にマグニチュード7.6の能登半島地震が発生。
株式会社美来が行う、金沢美味しいもの作家としての昨年の活動結果や現状について、さらにミニチュア作品を作る“指先”から起きた奇跡について、金沢美味しいもの作家さんに聞いた。
活動をはじめたきっかけ
ミニチュア作品で復興の支援をしようと思ったきっかけは、コロナ禍に始めた飲食店への応援からだった。
「コロナ禍の中、知り合いの飲食店が営業できず飲食形態を変えてラーメン屋を始めていました。何とか応援できないかと、ミニチュア作品で話題になり宣伝につながったらというところから私たちのミニチュア制作は始まりました」
実際に石川県にある飲食店の商品をミニチュア作品で作った金沢美味しいもの作家さん。SNSにアップするだけでなく、実際にお店に行き「これください」と作品を見せることでお店の方々を驚かせた。その反応が嬉しく、いつしか金沢美味しいもの作家さんが経営している障がい者支援の場でも、障がい者の方々に夢のある仕事を提案したいと始めたミニチュア作品だった。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いたと思った矢先、2023年5月に能登地震が発生。
「能登の正院にいる親戚は自治体からの支援もなかなか得られず、皆が困窮しているという話を聞いていました。しかし、全国テレビでは地震後数日はニュースで取り上げられるものの、すぐに忘れたかのようにその後については放送されない現実を見て、私たちの指先で作るミニチュア作品で地震の被害に遭われた方をもっと知ってほしいと思いました。また、同時に金沢の美味しいものを多くの方々に届けたいと」
活動の裏で、過酷だったことも
ミニチュア作品は、2人の作家で制作している。“指先さん”と呼ばれる、1つひとつを丁寧に仕上げ妥協を許さない仕事をする方たちだ。また、“little power”と呼ばれる障がい者たちも、作品のパッケージデザインや金具付けなどの制作に携わっている。
チャリティーではじめたミニチュア作品のカプセルトイは、同年6月から始まった。第1弾として、夫婦が経営しているというひまわりチェーン額店で売られている総菜をミニチュア作品にし、店頭においた。ミニチュア作品には夫婦が大事に守ってきた味についてもメッセージで添えた。
その後は、金沢市にあるごはん屋さんとコラボ。それぞれ100個ずつミニチュア作品を作った。
「ミニチュア作品のカプセルトイは思った以上に過酷で大変でした。ミニチュア作品自体が小さくて安いものというイメージだったからです」
お店の魅力を伝えるべく、ミニチュア作品のクオリティにかなりこだわった。お店の味を表現するための色合わせや、食べてみた感覚、お皿もお店によって異なる。障がい者の方々が3Dプリンターで器作りに励んだという。
「ミニチュア作品を見た瞬間に、匂いや味がよみがえる作品を目指している私たちにとってとても時間がかかりました」
しかし、被害に遭われた方々に早く募金を届けたいと、カプセルトイの中には限定作品を入れるなどして話題作りも行った。
「1個1000円という一見高い金額ですが、100個作るのに1ヶ月半もかかってしまいます。それなのに10万しか売り上げを上げることができませんでした」
6月から始めた金沢美味しいもの作家さんたちの活動だったが、12月頃には疲弊してしまった。さらに、ミニチュア作品で得た収入はすべて寄付していたため、金銭的にも厳しくなってしまった。「フォロワーさんから『もう県庁も能登地震の寄付金を集めることをやめたので自分たちのために作ったらどう?』とまで言ってもらえました」
約半年で集まった募金総額は45万円。一部は石川県に寄付を、一部は被災地に寄付をした。
指先から始まった海蔵亮太さんとの出会い
ミニチュア制作と共に成長したのが技術。金沢美味しいもの作家さんたちは、多くの方々を驚かせたいという思いで研究をし、難しいことにも挑んだ。そんななかでも難しかったのは料理が入る器の制作。
専門家に教わりながらlittle powerの自閉症の方がCADで図面を作り、3Dプリンターで造形をする技術を習得。3Dプリンターも何種類もあり、勉強しながらできあがった。
little power自身、夜な夜な勉強をして作り上げた3Dプリンターの器。お客様の手元に届き、喜んでもらったのを見て「僕にこんな人生があったなんて」と話したといいます。その言葉に驚いた金沢美味しいもの作家さん。「自分は何もできず、世の中で生きていくのが大変だと思っていた彼が、人に喜んでもらえたことで、彼の生きる道ができました」
この感動について誰に伝えたいかを聞くと「お母さん」と話したlittle power。その言葉に感銘を受けた金沢美味しいもの作家さんは、little powerたちの言葉を拾い集めて詩を作りました。それが『僕らの光』だ。
「昨年7月に何気なく見ていたYouTube。私の指先でタップした時に出てきた海蔵亮太さん。私はこの方に障がい者の方々の心を歌ってほしいと熱望しました。すると、本当に出会うことができ、わずか4ヶ月で音楽がつき、歌ができあがりました」
『僕らの光』は歌詞だけでなく、PVにもlittle powerが出演している。
little powerたちの歌ができ、いざ宣伝しようと思った矢先に起きた1月の大地震。
「もう私たちのミニチュア作品では足りない金額の大きな地震です。そして1月には海蔵さんと一緒に行うイベントや、レコーディングで私も何度も関東に行かなければいけない予定が詰まっていました。しかし、大きな地震を経験すると恐怖心が私を襲いました。私には2人の小学生の息子がいます。出張に行くことも怖く、出張中に大地震が起きて助けられなかったらどうしようと頭の中がいっぱいになっていました」
そんなとき、SNSでは能登の震災で商売ができないと嘆いている仲間が。その仲間の投稿にはこんな文章が。「震災に遭っていない方々、自粛しないでください。動ける方は動いてください。経済を回してください」
それを見て、金沢美味しいもの作家さんは「私にしかできないことやらなければ」と改めて思ったという。
障がい者の方々に勇気と希望の歌を届けたいという思いも込め、出張を決めた金沢美味しいもの作家さん。
「自閉症のlittle powerから生まれた、お母さんへの歌『僕らの光』。しっかりと届けようと思いました」
『僕らの光』の歌詞の中には「だから母さんきっと大丈夫」という歌詞がある。歌詞に込めた思いについて「石川県に住んでいると、亡くなった人の話を多く聞きます。息子と同じ年頃のお母さんを亡くした子どももいます。もしも私が死んだとしても、何年かかってもいいからこの歌詞のように“だから母さんきっと大丈夫”という人生を作ってほしいと思いました」と話してくれた。
実は『僕らの光』の他にもう1曲ある。『母に捧げる歌』だ。
これはlittle powerが作詞作曲した歌。モデルとなった自閉症スペクトラムの方は、現在モノづくり作家として活動している。この曲は、そんな彼をリスペクトしている精神に障がいがある男性が作曲した。
チャリティーを通して
1月28日に埼玉でイベントを行った金沢美味しいもの作家さん。
能登の食べ物のミニチュア作品を持っていくと「能登はとても素敵なところ、絶対にまた行くからね」という言葉を多く聞いたという。
「空を見上げると晴天です。大きな青空のポカポカ陽気でした。同じ日本で寒さと被害に戦っている方々を思うと涙が出ました」
現在、海蔵亮太さんのグッズを作らせてもらっているlittle powerたち。指先から始まったミニチュア作品は、ミライ堂の方たちに大きな奇跡をもたらした。
「私たちだけでは安価になってしまい人件費も出ませんでしたが、海蔵さんの力を貸してもらうことで適正な価格で販売できるようになりました。海蔵さん自身が障がいがあっても多くの方々を感動させる作品を作ってほしいと言ってくださり、僕で良ければ宣伝させてくださいと言ってくださいました。私たちの夢は私たちの活動を世界に発信したい。海蔵さんの歌と一緒に多くのイベントに出て、ミニチュアで石川の味をlittle powerの皆さんは海蔵さんのグッズを販売することで出会う多くの方々に夢と希望を与えたいです」
「皆が愛する能登半島。私自身まだまだ多くの挑戦をしたいと思います。今後は多くのイベントに出店して石川のおいしさをミニチュア作品で宣伝したいと思います。そして、ミニチュア作品に携わるlittle powerの皆さんの人生も紹介しながら今生きにくい方々に夢と希望を海蔵亮太さんの歌に乗せて伝えたいと思います。私たちの指先から起こる奇跡を信じて」
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