入社式を終え、これからビジネスの場に飛び込もうとする若者たち。ピシッとスーツで決めて入社を迎えた若者が多いだろう。
では、ビジネスの場ではなぜ、スーツを着る必要があるのだろうか。
「ビジネスの場では、スーツは感謝と敬意を相手に伝えるための最上級の服装だからです」
こう答えるのは、日本全国に46店舗展開する株式会社オーダースーツSADAの4代目社長の佐田展隆(のぶたか) 氏。
展隆氏は、自社のスーツを着たまま富士山に登ったり、かと思えばスキューバダイビングや、スキージャンプに挑戦したりと、奇抜な行動をYouTubeチャンネル『さだ社長』にアップし、その結果“ユーチューバー社長”として一躍話題に。
「オーダースーツのよさや機能性をいろんな人に知って欲しい」「“スーツ離れ”を食い止めたい!」という一心で挑戦を続ける展隆氏だが、オーダースーツSADAは一時期借金25億を抱えていた。
現在、年商32億まで上り詰めたこれまでの道のりについて話を聞いた。
父から受け継いだ会社は借金25億を抱えていた
会社を父から受け継ぐ前、大企業に勤めていた展隆氏。3兄弟の長男であった展隆氏は、前身の株式会社佐田の社長である父親に認めてもらい、後継者として選んでほしいという理由から、大学受験も就職活動も必死に取り組んだ。
だからこそ、父親から会社に呼ばれたときは「いよいよ父親に選ばれたか」という思いがあったという。
しかし、展隆氏が社長に就任した当時、蓋を開けてみると会社の借金は25億円もあった。
元々店頭で注文を受け、そのお店から発注を受けてオーダースーツを卸すという製造卸売業をしていた株式会社佐田。2000年に大口取引先の大手百貨店が破綻し、お得意様を失った株式会社佐田は25億円の借金を抱えていたのだ。
当時のことについて展隆氏は「騙された!と思いましたね。会社が大変な状況にあることは聞いていたものの、資料などにしっかり目を通すと想像以上に泥船状態だったので…。『こういう会社を倒産状態っていうんでしょ!?』と父親と大喧嘩しました(笑)」と話す。
展隆氏は頭を抱えたものの「迷ったら茨の道を行け」という祖父・茂司氏の言葉が頭をかすめた。
「喧嘩をしてても仕方がない。どうせ沈むなら『あの船、大花火を上げてから沈んだよね』と、何かをやってから沈もう!真田幸村になろう!」と、父が好きな司馬遼太郎の小説にかけ、一致団結したという。
現場の把握、営業スタイルの変更
社長に就任後、父親の戦略に沿って会社を動かすことに。
しかし、突然現れ社長に就任した展隆氏に対して、社内からは反発もあった。
営業マンだった経験から、営業現場に赴き現場の状況を把握することから始めた展隆氏。面談などを通し、コミュニケーションを増やすことを心掛けた。すると、上層部と現場で話し合っている内容が違うことに気づいた。
現場の状況を把握し“御用聞き”の営業スタイルから提案営業スタイルを取り入れることに。そこから社員の意識も変わり、会社はV字回復を遂げた。
その後、一度は会社を離れた展隆氏。しかし、リーマンショックや東日本大震災が起きたことで、再度社長へ就任。
現場の状況を知った展隆氏は、製造卸売業というスタイルから経営再建のため直でお客様に売り出す小売業に転換。これは、今までスーツを卸していたテーラーたちに「今日からライバルになる」と宣言したようなものだった。
「社員だけでなく、業界では大不評でした。テーラーさんたちには、敵になるつもりはない。私たちは30代の若者を狙っているんです。フルオーダースーツの敷居を下げたいんです、と説得し、なんとかご理解いただけました」
その後、新宿に1号店を出店。小売業にしたことでキャッシュが手元に入ってくるのが早く、オープンセールの売り上げで後から敷金を支払った。
破格の値段で提供するも、ネット上では大批判
オーダースーツSADAといえば、フルオーダーのスーツを既製品のスーツと同価格の1組1万9800円からと破格の値段で提供している。しかし、当初はネット上で大批判を食らった。
「最終的な請求書だとゼロが1つ増えるんでしょ」「粗悪品を出している」などの書き込みで溢れたという。
「この書き込みにあるように、フルオーダースーツは価格が高いというイメージが強かったんです。フルオーダースーツのよさを知らない人、フルオーダースーツを試そうとも思わない若者が多くなってしまった。“敷居が高い”と言われるフルオーダースーツだからこそ、メーカーが直で小売りをするとここまで価格を下げることができるんだぞ、というのを見せたかったんです」
そして、オーダースーツの敷居を下げ、品質のよさを若者にも知ってもらうため、展隆氏はある行動に出る。
YouTuber社長誕生、店舗拡大へ
展隆氏の奇抜な挑戦は、2013年の富士山が世界遺産に登録されたという話題から、社員の「スーツで登頂したらおもしろいのでは」の一言から始まった。
ちょうどその頃、アメリカのミキサーを販売する会社が、自社のミキサーで電化製品や靴を砕き、品質の証明を行った動画をアップ。その後、そのミキサーが爆売れしたというニュースを見て閃いたという。
スーツで登山することについて、展隆氏は当初「登山愛好会の方々に怒られてしまうのでは?」という不安があったという。
しかし、当時は卸売業から小売業に転換し会社への信用がない状態。知名度、信用を得るためにメディアの露出を増やすという作戦で実行することに。
登山中、展隆氏が懸念していたこととは裏腹に、登山家からは事情を説明をすると応援の声が多く届いたという。その後、この動画をYouTubeにアップすると新聞の取材を2件獲得。狙い通りだった。
そこから「次は社長にどんなムチャをやらせよう?」と社内で大盛り上がりし、今に至るという。
実際、スーツを着用したまま登山したことについて「一切ストレッチが入っていないスーツでしたが、窮屈ではなかったです。唯一、革靴で登ったのがきつかったですね」と話してくれた。
その後、展隆氏の挑戦は続き、メディアでの露出も増えたことで、店舗数を20店舗、30店舗、2019年には50店舗と拡大。2019年に株式会社佐田から現在の「株式会社オーダースーツSADA」に社名変更をした。
フルオーダーだからこその着心地
価格だけでなく、顧客からは着心地についても好評を得ているとのこと。フルオーダーだからこそ、ウールを多く使っているにもかかわらず「軽い」と言われることもあるという。
ある顧客からは「今まで十何年スーツを着ていましたが、SADAのフルオーダースーツを着て、サイズが合っていなかったことに気づきました」と言われたことも。
社長曰く「パターンオーダー、サイズオーダーではなく、一からお客様のためのオリジナルを起こしてオーダーするのがフルオーダーです。こんなに価格を下げられるのは工場を持っているからできるんです。フルオーダーをこの値段で提供できるのはうちだけです」とのこと。
現在、オーダースーツSADAはサッカーやラグビーなど、スポーツチームへのスーツ提供も行っている。
「スポーツ選手は体型ががっちりしているから、既製のスーツはそもそも着ることができないんです。サッカー選手の太ももはとても太いので、既製品では入りません。しっかりとサイズに合ったスーツを着てもらえることで、スラっと格好良く着こなすことができます。フルオーダースーツは、その人のために作っているスーツだからこそ無駄がないんです」
最後に今後の挑戦について聞くと、5月には台湾にある玉山、7月には北海道にあるトムラウシ山、8月にはキリマンジャロ、幌尻岳(百名山)の登山が決定しているという。
「日本のスーツ文化を再構築したい」
そう話す展隆氏は、今日もスーツで奇抜な挑戦をしている。