海外でプロサッカー選手として活躍した男性 現在“保育園の園長”としてはたらく理由とは

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エリア伊都グローバル保育園園長の有坂さん。保育園の玄関にて

予期せぬ出来事だからこそ…

2017年3月、有坂さんと光葉さんは、糸島に移住した。

移住後、有坂さんは、エリア伊都のホームページを見つけてメッセージを送った。見学に行くと、すぐにパートタイマーとして採用された。しばらくすると、中学生向けのジュニアユースチームの監督を任されることになった。

入社した「エリア伊都フットボールクラブ」は、一般社団法人としてサッカースクールを運営していた。サッカースクール事業では、生徒数が増えるに連れて収益も増えるが、同時に雇用も増やさなければならない。生徒や講師の数が増えるほど、マネジメントが難しくなる。会社は安定的に事業を継続していくために、サッカースクール以外に事業の柱を作りたいと考えていた。サッカースクール運営のノウハウを活かしながら地域に貢献できる事業として、当時、国が募集していた企業主導型保育園の認可を取得した。

2020年4月の保育園オープンに向けて、園長として声をかけられたのが有坂さんだった。会社はコーチや海外での経験を有する有坂さんであれば、多くの人と関わる園長の仕事にマッチしていると考えていた。

「当時はまだ子どももいなかったので保育園の知識や経験はまったくありませんでした。園長の話をもらった時は、予期せぬ出来事に驚きました。でも、予期せぬ出来事だからこそ、なにか面白いことに繋がっていくんじゃないかって、これまでの経験から思いました。ゼロから飛び込んだコスタリカでプロになったり、妻とコスタリカへ旅に出たら糸島へ移住したり。予期せぬことに巻き込まれたときの僕の人生は、間違ってないって自信があるんです」

「自分にできることは何だろう」と前向きに考え始めた有坂さんは、数日後、園長就任の依頼を承諾した。

海外でプロ…く理由とは
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「空気感」を作る

2020年4月、エリア伊都グローバル保育園がオープンした。有坂さんは、ジュニアユースの監督と兼務するかたちで、エリア伊都グローバル保育園の園長に就任した。

1年目は、市や保健所などの外部対応や事務業務をこなしながら、開園時間の7時に出社し、保育園の1日の流れを学んだ。有坂さんは、当時をこう振り返る。
「オープンしたばかりの保育園だったので、子どもを預ける親にとっても預かるスタッフにとっても、その場に園長がいるかいないかって大事なことだと思ったんです。自分が顔を見せることで安心感に繋がればいいなと思っていました」

園がオープンして2年目、忘れられない出来事があった。卒園式で、子どもたちが得意なことや好きなことを発表してもらう場を作った。ポケモンの名前を暗記して披露する子もいれば、アイドルを真似て歌う子もいた。「発表後の親子の晴れやかな表情が忘れられなくて。うちの保育園ならではの取り組みを今後も続けていきたいですね」と有坂さん。

3年目になると、ある取り組みを始めた。月1回の職員会議の最後に、一緒に働く職員の良い取り組みを、ひとりずつ発表することにした。せっかく集まるのに、組ごとの報告や園児の情報共有だけで終わるのはもったいないと考えたのだ。最初は照れる職員もいたが、全員が発言することで皆がポジティブな気持ちになり、職員会議の空気感が温かくなった。

園長の仕事で大変なところはありますか?とたずねると、意外な答えが返ってきた。
「園長として働いてみて、僕は管理職に向いていないと思ったんです。なぜかというと、自分が管理されたくないからです(笑)でも、園長という役職をもらったからには、自分ならではのできることをしていきたいと思っています。保育園に置く道具や『園の理念』を考えることも、ゼロからのスタートでした。細かく管理することよりも、子どもも大人ものびのびと過ごせるような「大きな枠組み」を少しずつ、少しずつ作ってきた感じです」

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大切にしていること

保育園園長に就任して4年、有坂さんは、園長の仕事についてこう語る。

「園長としての一番大事な役割は『空気感を作ること』だと思っています。保育の現場でもサッカーのフィールドでも、大人がピリピリしていると、子どもはその雰囲気を感じとり萎縮してしまいます。それは絶対に避けたいです。まずは、大人である自分たちがのびのびと楽しむ姿を見せることで、子どもたちが思いっきり自分を解放していくことができます。

『いい空気感』を作るために意識していることは、まず何よりも自分がご機嫌でいることです。これは保育園でもサッカーでも、人生においても大事にしています。どこにいても誰といても、自分がご機嫌でいることで、予期せぬ出会いに恵まれるし、自分が生み出す空気感がいいものになると思っています。

園長として、サッカーの指導者として、自分の影響力を自覚しているからこそ直接言葉で伝えるよりも、いかにいい空気感を作るかの方が大事だと思っています。高校でコーチをしていた時、入部してきた生徒が『試合に出ている選手もベンチもみんながイキイキしていた』と言われたことがあるんです。まさに自分が作りたい『いい空気感』が作れていたんだなって。3年間やってきて、園長としての大事な役割のひとつが見えてきた感じです」

最後に、有坂さん自身の今後についてたずねるとニコッと笑って答えてくれた。

「これからのことはわかりません。わが家の最後の夢は、キャンピングカーで旅をしながら暮らすことなんです(笑)。計画通りにことが運ぶことが喜びの人もいるかもしれませんが、僕はこれからどうなるかわからない『余白』をとっておきたいんです。先が見えないということは、なにかが起こるワクワクがあるということでもありますからね。ただ、これからのことについて、僕がひとつだけ決めていることがあります。コーチを始めたときから、必ず子どもたちに伝えてきたことがあるんです。『あの頃はよかったではなく、今が一番楽しいと言える人生を送ってほしい』僕自身も口先だけの大人にならないように、今が一番楽しい人生を歩んでいます」

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