防災といえば、非常用持ち出し袋を用意する。これだけで安心している人は多いのではないだろうか。しかし、実際はちがう。もちろん非常用持ち出し袋も大事だが、そこまでたどり着かなければ意味がない。
「子育ての当たり前が変わっていくように、防災・減災の当たり前もどんどん変わってきています。それをママの目線で、子育て中のママ、パパ、そして子どもたちにしっかりと伝えていきたいんです」
そう語るのは「徳島ママ防災士の会 Switch」の代表、瀬戸恵深さん。普段はラジオ局でディレクターやパーソナリティーを務めながら、小学生の子どもを育てるママでもある。
なぜ、防災・減災を啓発する活動をはじめたのか。その経緯をうかがった。
「ママ」が伝える、だからこそ伝わる
2024年2月4日に設立から2周年を迎えた「徳島ママ防災士の会 Switch」。設立当初は10名だったメンバーも、現在では18名のママ防災士が在籍している。
入学入園を迎える親子に向けた防災講座の開催や、市や商店街と合同で阿波踊りの踊り手チーム阿波踊り連「徳島ひなんくん連」を立ち上げるなど幅広く活動中だ。
「ママだからこそわかることや、共感できることって多いと思うんです。子育て中は毎日が大変。それを理解して、同じ目線で不安を共有し、できることを考える。一番心に響くのは当事者からの言葉だと思うんです」
日々、子どもと過ごしているママだからこその視点が活動にも活かされている。難しい言葉を使わずに、どれだけわかりやすく伝えるかに重きをおいているんだそう。
「子どもにも理解できるように伝えることを意識しています。やはり専門用語ばかりだと、自分ごととして捉えるのが難しくなってしまう。正解はないけれど、今後は当事者がいかにわかりやすく伝えるかが必須になってくると考えています」
「徳島ママ防災士の会 Switch」の規約にも、ママ当事者の目線にとことんこだわっている。“18歳未満の子どもを育てる母親であり、防災士資格をもつもの”としているのは、子育てや防災の当たり前が変わっていく中で、アップデートし続ける団体にしていきたいからだ。
「私もふくめて、子どもが18歳になったら会を去るようにしたかったんです。新しい人たちにどんどん入ってきてもらいたいし、0歳の赤ちゃんがいるママも防災士の資格をもっていれば入ってきてほしいですね」
1人ではなくみんなで向き合う
瀬戸さんが防災士になったきっかけは、職場からの業務命令。そのとき、はじめて防災士の存在を知った。最初は資格を取っただけで終わると思っていた瀬戸さんだが、学ぶ過程で『このままだと大災害が起きたとき、自分の命も守れない。自分が死んでしまうと子どもの命も守れない』と強く思ったんだそう。
「同じように子育て中のパパママにも、伝えられることがあるんじゃないかと感じました。自分の特性であるママを掛けあわせて、資格取得後は“ママ防災士”と肩書をつけ名刺を配りました。ほかにはない、求められる防災士が必要だと思ったからです」
活動を続ける中で、意外とママで防災士の人がいることに気づいた。同時に、学びたいのに学びに行けないママがいる現状も知った。
「勉強会に参加したくても、子連れだと遠慮してしまう。せっかく防災士の資格を取ったママたちが、それを活かしきれていない。そんなママたちの受け皿になる場所ができたらいいなと思い、徳島ママ防災士の会 Switch を設立しました」
当事者目線の発信が少なかったこともあるが、ママたちが学べる場所が少なかったのも理由のひとつだ。同じ思いや志をもったママたちが集う勉強会では、メンバーのもつ特技や資格を、防災に掛けあわせて共有している。1人で取り組むよりも、課題を共有してみんなで向き合っていくことが防災・減災には必要不可欠だと瀬戸さんは語る。
活動方法もママならでは。メンバー個人の活動を、Switch としても情報発信しサポートする場合が多いそう。
「個人の活動でもあり、Switch の活動でもあるんです。イベントや講座などはメンバーが普段の仕事や地域活動に防災を織り交ぜて行っています。Switch の問い合わせ窓口からご依頼をいただく場合もありますが、人員や知識で応援が必要な場面は助け合いながらも、活動自体は個々で完結する場合が多いですね。取り組み方を決め切ってしまうとそれに従わなければいけなくなるので、柔軟にやりたいと思っています。みんなが同じ立場だから、無理せずお互いを気づかえるんです」
時間に余裕のないママだからこそ、できるときに、できる人が、できることをする。自己完結で活動できるのはメリットだ。
当たり前を変えていく頼られる存在に
子育ての当たり前が変わってきたように、防災の当たり前も変化している。いままで蓋をされてきたマイノリティーな要望を表面化していくことが、ここ数年の動きだ。
たとえば、発達障がいやアレルギーがある子ども、高齢者や難病の人。求めるものはそれぞれちがう。しかし、声にださないと課題として捉えてもらえない現状もあった。
「地道に活動を続けてきたことで、行政の防災担当課の方から、女性や妊産婦用の備蓄のアドバイスがほしいと声をかけてくれるようにもなりました。過去の災害から学んで、それを活かしていけたらいいなと思います。元旦に起きた能登半島地震でも、建物の中で亡くなってしまった方が多くいました。備蓄や非常用持ち出し袋など物の備えが注目されがちですが、発災した瞬間に命を守るための環境作りもまず考えてほしいです」
いまは防災・減災教育のアップデートに取り組む「減災教育普及協会」との活動も進めている。
Switch が継続して活動を続けるためにも、地域や生活の中で馴染みの存在にしていく仕組み作りが目標だ。
「場所にこだわりはありませんが、気持ちの上での“拠点”をもちたいと思っています。『ここに来たらSwitchがいる、命を守るための学びがある』そういう機会を増やして、頼りにしてもらえる存在になっていきたいですね」
子育て世代のママとパパには、守りたいものが明確に目の前にある。それが大きな原動力になり、行動につながっていく。1人でも多くの命が助かる未来のために、当たり前を変えていく。たくさんの人に瀬戸さんの思いを伝えながら、走り続けてほしい。