子ども食堂といえば、大人が準備した食事を子どもたちが無料や低価格で食べられる場所が一般的だ。だが、香川県高松市には、子どもがメニュー作りから調理、接客までこなす子ども食堂がある。2024年1月、そんな子ども食堂が開かれている「西宝町みんなの居場所」を覗いた。
「大人は口出しし過ぎない」
「おかえり、今日は肉じゃがだよ」「ただいま、メニューは知ってるよ」。1月9日正午ごろ、始業式を終えて学校から帰ってきた小学生たちが「西宝町みんなの居場所」に集まってきた。
「おかえり」と声をかけたのは、午前中から食事の準備をしていた中学3年の定住葵さん。この場所が気に入っている。「自分のやりたいことや気持ちを聞いてもらえるところが好き」という。時々笑顔を浮かべながら、テキパキと料理を作っていた。
この日は、定住さんと高校3年の頼冨友梨華さん、大人2人の計4人で、30人分の食事を用意した。大きな鍋に肉じゃが、大根とキャベツのサラダ、きのこの味噌汁、ごはんができあがった。調理には2時間ほどかかった。
メニューの決め方は「あるもので作る」(定住さん)という考え方。今回はジャガイモを寄付してもらったので、肉じゃがに決まった。牛肉は、近所のスーパーで半額のセール品を購入。大根は1本丸ごと、味噌汁とサラダに使った。サラダに入れた缶詰のコーンやツナも「もらい物です」(定住さん)という。
「西宝町みんなの居場所」の子ども食堂の運営は、高松市の助成金を活用しているほか、食材の寄付などでまかなう。代表の中山桜陽さんが「誰でも、分け隔てなく使える場所です」と話すとおり、子どもに限らず、誰でも食べに来ることができる。1食300円。ただし、食事の準備を手伝った子どもは無料だ。
「今日は始業式があるので小学生は調理していませんが、普段は小学生も食事を作っているんですよ」と、保護者の織野雅子さんが教えてくれた。子ども食堂の「お手伝い隊」と称して、小学生10人ほどが登録されている。その子の料理スキルや経験に応じて、できる仕事を任せてもらえる仕組みだ。
中山さんは「大人が口出しし過ぎると、逆に子どもは育ちません。少し失敗してもいいので、子どもたちの主体性に任せてみると案外うまくできるんですよ」と話した。
小学生たちは、どのように料理と向き合うのか。次回のメニューはたこ焼きだという。平日の夕方に、もう一度子ども食堂を訪れた。
「卵の重さは?」「算数が使えるね」
1月15日午後4時。「西宝町みんなの居場所」のキッチンで、たこ焼きの準備が始まっていた。大きなザルに刻まれたキャベツがてんこ盛り。エプロン姿の小学生は、ボールにたこ焼き用の粉を入れて、卵を割り入れ、分量分の水をカウントしていた。
「卵1個、何グラムでしたか」と中山さんが質問。ある子が粉の説明文を見ながら「卵は5個入れる計算になったよ」と答えた。中山さんは「算数が使えるね」と声をかけ、学校で習った内容が現実に活きることを伝えていた。
集まった「お手伝い隊」は小学生8人。大人もサポートに入る。たこ焼きが焼けるまで、子ども同士や子どもと大人で会話が弾んだ。ある子から筆者も「ねえ、1足す5は?」と話しかけられた。「6?」と答えると、その子は首を振って「イチゴだよ」とにっこり。「やられた」と感じた。
ひたすらたこ焼きを焼き続けて3時間。10個ずつ皿に盛っていった。
料理中のコミュニケーションに意味
子ども食堂には、料理が好きな子が集まっているのかと思いきや「みんなの居場所をみんなで作りたいという気持ちです」と定住さんは語る。それは代表の中山さんが目指している方針でもあった。
中山さんは、普段この場所で書道を教えているが、子どもたちが抱える課題が気になっていた。「子どもたちが筆を持って字を書ける状態になる前に『ありのままの自分でいられる安心感を持たせる』という準備が必要でした。子どもは学校でも家庭でも忙しく、なかなか本当の気持ちを聞いてもらえていません」と話す。
織野さんは「その点、ここで料理をすると会話が弾みます。お互いに手を動かしながら、ポロッと本音を話してくれることがあります」という。
さらに、経験をとおして学ぶ場所としても機能。失敗から学ぶ経験を中山さんたちは大切にしている。子どもが測った米の分量が正確ではなかったため、ご飯の炊き上がりがゆるゆるになったこともあった。失敗を経験した子は「ここは注意が必要だよ」と周囲に注意喚起できるように。見守る大人には「少々のことは、なんとかなるという気持ちが大切」と、織野さんは話した。
「西宝町みんなの居場所」は2021年9月、中山さんの書道教室をベースにスタート。原則週1回の子ども食堂の他に、カフェやヨガ教室、英語教室、24時間利用できるフードパントリーなどに取り組んでいる。
子ども食堂は、全国に9131か所(認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえの調査)。しかし子どもが料理するところは「あまりない」という。
「いただきます」。子どもたちが作った料理は、よく煮えていて心が温まった。作ってくれた人の気持ちが、じんわり伝わるようだった。