「筋ジストロフィー」という病気をご存知だろうか。全身の筋肉が徐々に衰えていく難病で、次第に歩けなくなり呼吸をする際も人工呼吸器が必要になる場合もある。
今回は「筋ジストロフィーウルリッヒ型」という障がいを持ちながらも、モデルとして活動している女子高生、玉置陽葵さん(Instagram:hiyo_nicosmile)に話を聞いた。
”車いすJKモデル”として活躍する彼女は、どういった思いで芸能活動を始めたのだろうか。
車いすの日常生活
玉置さんが持つ障がい「筋ジストロフィーウルリッヒ型」は筋ジストロフィーの一つ。Ⅵ型コラーゲン遺伝子の変異によって引き起こされる病気と言われている。筋ジストロフィーの中でもあまり知られていない病気の一種である。
この病気の特徴として、全身の筋力が徐々に低下していく症状がある。具体的には歩行障害、呼吸障害、関節が固くなり、動かなくなることなどが挙げられる。「えっ、呼吸も?」と思った方もいるだろう。肺自体に筋肉はないが、周りの筋肉が動くことによって人間は呼吸をしているのだ。
玉置さんによると、一般的な症状だと10歳くらいで歩けなくなり、高校生くらいで人工呼吸器が必要となることもある難病。玉置さんは定期的に検査をしており、現在は常に呼吸器が必要な状態ではないが、今後夜間だけでも呼吸器が必要になる可能性もあるという。
玉置さんが車椅子を使うようになったのは小学校入学の頃。そのときは毎日車椅子に乗っていたわけではなく、遠出や、校外学習の際などに使っていた。電動ではなく、手動の車椅子を使っていた。
そして、電動車椅子に毎日乗るようになったのは高校生くらいの頃からだった。
学校生活において、学内では基本的に歩いて生活している。小学校低学年までは、出かけるときも歩いていて、疲れたら大人に抱っこしてもらっていたとか。
自分もそうなりたい
玉置さんは、元々モデルを目指していたわけではなかった。
玉置さんは、同じウルリッヒ型を持つ方やその家族、顧問医師、理学療法士などがいる。「患者会」に所属しているここでは、筋ジストロフィーウルリッヒ型の研究結果の報告、相談会などを定期的に開催している。
あるとき、玉置さんは患者会の役員になることが決まった。玉置さんは役員になってから「自分だけではなく他の患者、他の障がい者のことを知っていくべきでは?」と思った。
SNSで調べものをしていると、障がいのある人をモデル、制作スタッフとして起用している「ポルテマガジン」というWebマガジンを見つけた玉置さん。このコンテンツに惹きつけられるものがあり、車椅子の方や義足の方などが輝いている姿を見て、「自分もそうなりたい!」と感じた。
高校1年生のとき、玉置さんはお母様と一緒に見つけたオーディションに応募。最終審査に残るも、残念ながら不合格だった。しかし、株式会社accessibeautyにスカウトされ、現在はモデルとして活動している。
車いすモデルの魅力
モデルをする際の苦労について、玉置さんはこう語る。
「身体に制限があり、車椅子に乗っているからやりたいポージングができない。また、服や靴をよく見せたくても、座っている状態だとキレイに見せれないため、工夫しながら撮影している」
モデルを始めて楽しいこともあった。それはファッションショーに出る機会があり、実際にデザイナーさんが車椅子の方の意見を取り入れて作った衣装を着たときのことだった。
「車椅子だからこそ着こなせる服を着れる!」「障がい者でも楽しめるファッションができている!」ということが知れて嬉しかったと話してくれた。
また、玉置さんの友達もSNSを見て応援してくれているという。
「初めは私のことを『かわいそうな子だと思ってた』と感じていた人が多かったようなんです。けど、モデル活動を見てくれたり、普段接したりしていくうちに『かわいそう』という気持ちがなくなった聞きました。そう言ってくれることがとても嬉しいです」
玉置さんの活動は、周りの友人たちの考えも変化させたようだ。
モデルをしてからの心境の変化
モデルとして活動するだけでなく、トークショーや密着取材をしてもらう中で、自分の思いを伝える場面も多くなり、自分の言葉の重みを感じることが増えた玉置さん。
「一つの発言で障がい者のイメージを下げてしまうかもしれないし、逆に社会の中で障がい者の価値を上げていくことも、自分の発言でできると思っています。一つひとつの発言が障がい者のこれからを変えていくという部分では、自分の言葉の重みを感じることが増えました」と玉置さんは語る。
玉置さんが活動を通して一番伝えたいことは「障がい者でも一人ひとり違うんだよ!」ということ。
「私は障がい者を代表して発信しているわけではないんです。様々な障がいがあるから、私の意見がすべてではなく、これから障がい者の方に会ったら個人個人の意見にしっかり向き合ってほしいなと思います」と話す。
障がいがあっても一人ひとり個性があって、考えていることも違う。一人ひとりの意見を尊重していくことがより良い社会を生み出していくのではないだろうか。
活動を始めてから、密着取材を見たという声を貰えることが増えた。道徳の授業で「密着取材を見ました!」「考え方が変わりました!」と声をかけられることが多い。
授業などで、障がい者と接点なかった人たちに当事者の思いを届けられていると感じられるのはとても嬉しかったという。
やりたいことに挑戦してほしい
障がい者として、車椅子ユーザーとして生活していると、やりたいことを我慢してしまうこともあるだろう。
「行きたいこと、やりたいことがあっても周りに迷惑かけてしまうのでは?」という話を当事者から多く聞くという。
「私自身、性格上やりたいことを周りに伝えることができなかった。高校生になってオーディションがきっかけで一歩踏み出したことで世界が変わった。だからこそ、自分がやりたいことに素直になって、やりたいことに挑戦してほしい」
玉置さんのコメントからは熱い思いが伝わってくる。
モデルをやる前は、車椅子に乗っている自分を好きになれず、外に出るのも周りの目を気にしていた部分もあった。高校生になって、周りの友達もいい意味で特別扱いしてくれないことで、玉置さん自身も言いたいことを言いやすくなった。
今後は、より多くの講演会に挑戦していきたいと語ってくれた玉置さん。今までは、患者会の中で製薬会社や、会員さんに向けた講演会などをしていたが、もっと幅を広げていきたいと話す。
「モデルとして仕事の幅も広げていきたいが、自分の思いを伝えていく活動も行いたいです。また、障がい者として思いを発信する中で、少しでも多くの当事者の考え方を知っておくのは大切だと思っているので、人とのつながりを広げていきたいと思っています」
身体にハンデがあっても、希望を持ち続けることで周りに良い影響を与えたり、社会から注目を集めることもできる。今後も、玉置さんの活動から目が離せない。