闘病中や闘病後のがん患者をサポートする闘病コミュニティ「Re:live(リリブ)」を運営する久保とくみさん。自身のがん闘病中に、病気の不安や悩みを気軽に話せる相手がおらず、孤独を感じたことから、退院後にコミュニティづくりを開始した。
さらに、入院中に温めたアイデアから、仕事や金銭面に関する悩みや心の状態を、専門家に相談することができるアプリも開発中だという。がん闘病の経験をピアサポートに生かし、闘病仲間の生きづらさや苦しみを解消すべく奔走する久保さんに話を聞いた。
母親ががんを患った2カ月後に、自身もがんに
「息ができない感じ。歩けるけど歩けないみたいな。普通の状態ではないと思ったので、病院を受診しました。コロナ禍だったので、一度は断られたのですが、パルスオキシメーターの血中酸素飽和度が正常値を下回る92%だったので、頼み込んで、ようやく診てもらうことができました」
久保さんは、看護師として働いていた2020年に血液がんの一種である悪性リンパ腫を患った。久保さんの母親もまた、その2カ月前にがんであることが判明し、闘病の真っただ中。
一人っ子ということもあり、「自分がなんとかしなくてはというプレッシャーを感じていた」状況下だった。
「血管に血栓ができていたので、歩くことを禁止されていました。車いすでの生活で、病院から出ることができませんでした」
自分と母親の闘病が重なるという状況に加え、コロナ禍での人流規制が、闘病生活での心細さに輪をかけた。
「患者仲間をつくる機会もなく、病気について情報交換をしたり、不安な気持ちを吐き出したりすることができませんでした。スマホで検索して、ブログや闘病日記は見つけることができましたが、一方的な発信なのでやり取りはできません。突然がんだと診断された不安を誰かに聞いてほしい、同じ病気の人とつながりたいと思っていました」
病室の無機質な空間で、次々と浮かぶアイデア
久保さんが過酷な入院生活を送る中、コロナ禍での規制が緩和された際に、エンジニアだった友人がお見舞いに訪れた。
「友人に、がん患者の精神的、社会的苦痛を解決してくれるようなアプリが欲しいと話すと、『じゃあ作ろうよ』と言ってくれたのです。携帯やパソコンから気軽につながって、情報を得ることができたらいいなと思ったので、コミュニティづくりについても考えるようになりました」
入院生活はストレスフルで孤独を極めたが、なぜか、次々とアイデアがわいてきたという。約1年にわたる闘病生活を経て退院した久保さんは、闘病サポートコミュニティづくりを開始する。
病室で感じた「情報交換ができる患者仲間が欲しい」という思いをかたちにした闘病サポートコミュニティ「Re:live」を2022年4月にスタート。公式LINEに登録すると、患者や患者家族同士で気軽に会話することができる。現在の登録者数は約40人だ。
「メンバーでオフライン会をしたり、ご飯を食べに行ったりもします。病気の話だけではなく、仕事のことや、たわいもない話もします。場所も年代もさまざまで、がん以外の病気の方も、闘病を支える家族も、闘病をサポートしたい事業者も医療者もいます。なかなか面白いコミュニティです」
エンジニアの友人が提案してくれたアプリは、闘病サポートアプリ「CURE MIND」として、開発を行っている。
開発メンバーの半分以上が闘病経験者もしくは闘病経験者の家族で、「Re:live」からの有志メンバーも参加している。「Re:live」でコミュニケーションを取りながら、患者の困りごとや闘病者のリアルな声を抽出し、アプリ制作に生かしているという。
アプリは、同じ疾患を持つ闘病者同士がつながることのできるSNS機能や、カウンセラーや医師、お金の専門家とマッチングができる。闘病中や闘病後を見据えたキャリアサポート機能も備える。現在、α版のリリースに向け、アプリの待機ユーザーを募集しているところだ。
「がんの治療中は、弱音を吐きたいときもあります。ですが、辛いという気持ちを、家族や近しい人にもなかなか言えないのです。コミュニティやアプリを利用して、本音をさらけ出して、気分を晴らしてもらいたいと思っています」
持続可能な仕組みにするため、法人設立に向けても動き始めているという。
「コミュニティは、がん患者の社会課題を表に発信するソーシャルな組織ですが、ボランティア運営では回らないので、アプリには投資してもらって有料化していきたいと思っています。製薬会社などの医療関係の企業に協力してもらい、患者が無料でアプリを利用できる仕組みも検討しています」
闘っているのはあなただけではない
久保さんは現在、アルバイトを掛け持ちしながら、闘病中に自分が必要だったものを闘病仲間のために実現させようとしている。原体験は、自身の入院中に強く感じた孤独や不安だ。闘病経験者であり、元看護師であるからこそ、闘病者が持つ、深い痛みがわかる。
「看護師をしていたので、患者さんが大変だということは、わかっているつもりでした。がんになると精神面や社会面でも課題を抱えてしまうということも、知識としてはありました。でも、いざ自分が患ってみると、病院のケアだけでは、十分ではないことを身をもって知ったのです。自分の経験を役立てたいと思っています。また、今、闘っているのは、あなただけではないと、伝えたいです」
闘病者同士が支え合う、ピアサポートの実現は、久保さんの心からの願いだ。