8年連続で犬の殺処分数が全国ワースト1だった香川県が、2021年度は全国最悪を脱したことが環境省の統計で分かった。ボランティアによる保護犬・猫の譲渡活動や県の啓発活動などが、一定の成果につながったといえる。「みんなにも保護犬を飼ってほしい」。そんな思いを抱きながら、香川県内で保護された犬の里親になった2家族を取材した。
「しっぽの森」で成犬に一目ぼれ
朝の散歩とご飯は、母の和美さん、夕方の担当は、もうすぐ中学生になる怜海(れみ)さん。香川県さぬき市の長町さん宅では、親子で保護犬くるりの世話を分担している。近所の海岸で、1時間ほど散歩するのが日課だ。
ずっと「犬を飼いたい」と思っていた怜海さんの希望で、2022年6月に高松市内にある「さぬき動物愛護センターしっぽの森」の譲渡会に参加。飼い主の心構えについて講習を受けた後、10匹ほどの子犬や成犬と触れ合った。
そこにスタッフと現れた保護犬くるりを見て、怜海さんが「かわいい」と一目ぼれ。自宅に迎える準備を整え、「しっぽの森」職員による飼育環境の確認を終えると、くるりを譲り受けた。
くるりは推定5歳のメス。長町さん宅にやってきた当初は、環境に慣れないためか怖がっている様子だった。いまも波の音や車の音、傘を見ると怖がるという。「過去に何かあったのかも」と和美さんは推測するが、怖がらせないように雨の日の散歩ではカッパを着るようにした。
「困っている犬を助けたい」
時には、くるりの世話を「休みたい」と思うこともある怜海さんだが、和美さんは「責任感を持って世話している」と信頼を寄せる。フードの分量を測ったり、食べ終えた容器を洗ったり。放課後の習い事と散歩の順番を自分で調整して、くるりと過ごす時間を楽しんでいるそうだ。散歩中の出来事を報告し合うので、親子の会話は自然に増えた。
「くるりがいてくれるだけで楽しい。ペットショップの動物も気になったのですが、困っている犬を助けたいと思って『しっぽの森』を訪ねました。飼ってみると、くるりは甘えてくれたりして、とてもかわいかった。みんなにも保護犬を飼ってほしいと思っています」。和美さんと怜海さんの思いだ。
岡山県内から面会に
「この子が私をお母さんと認めてくれるのか。それが一番大事でした」
岡山県備前市の平賀奈々さんは、2022年1月に保護犬の響(ひびき)と対面した時の心境を振り返った。香川県内にある動物愛護ボランティア団体の施設を訪ねたのだった。
響はオスの成犬で、もともと保健所に収容されていた迷子犬。飼い主の情報がなく、威嚇的な様子が続いていたため、「譲渡に適さない」と判断されて殺処分になる可能性があった。ボランティア団体が「命を救いたい」という思いで、2021年12月末に保健所から引き取っていた。
SNSで保護犬の情報を見ていた平賀さんは、響のことが「なぜか気になった」という。車を走らせること約2時間。瀬戸大橋を渡って、実際に会ってみた。
最初の対面では「響から塩対応を受けました」と苦笑いする平賀さん。「この子は懐かないかもしれません」とボランティア団体からも告げられた。しかし、2回目の対面で「私が連れて帰ります」と伝えることができた。
「保護犬の里親になるということは、我が子を産むようなもの。本当の家族として、指をかまれたとしても怖くない。そんな覚悟が備わったので、迎えに行くことができました」
平賀さんは、飼い主とはぐれてしまった響を「二度と迷子にさせない」と決意。就寝中の未明にパッと目が覚めて、響と目が合ったら「散歩に行こうか」と連れ出した。脱走防止の意味を込めて、一日に3度、4度と、大好きな散歩に行った。
ともに暮らし始めて1年2か月ほどだが、信頼関係は自然に生まれていた。「今では、響は私のボディガードのような存在です」。人をむやみに威嚇する様子はなくなった。
保護犬との時間がギフト
響と散歩する時間が、平賀さんにとってギフトだという。朝は海に向かうコース、夕方は山のコースなど、刺激を与えられるように工夫している。
「毎日の散歩で、風の匂いや季節を感じられるのがいいんです。響は、香川のボランティアさんが助け出した命なので、言葉に出来ないほど可愛い。響といるから経験できる一瞬一瞬が大切に思えます」
平賀さんは、犬を飼うことは「ご飯と水を与えて、散歩に行く」だけではない奥深い営みだと感じている。犬は屋外にいて当たり前だった時代が変化しているが、「社会全体で犬との付き合い方をアップデートさせたら、人と犬にとって幸せな社会になる」と願っている。
香川県内の譲渡犬は1004匹
2021年度に香川県内で譲渡された犬は、1004匹。一方、「譲渡に適さない」などの理由で殺処分されたのは293匹で、全国ワースト2位だった。収容数に対する殺処分率は、20年度比で10・6ポイント減少した。
里親になるには、「しっぽの森」や県登録ボランティア団体の譲渡会に参加する方法がある。その際に、飼育環境の確認や条件を守ってもらう約束がある。
「しっぽの森」の長尾昌憲所長は、「愛情を持って接すると、懐かなかった犬も優しい表情を見せてくれます。今後も譲渡と啓発活動を地道に進めていきたい」と話す。
譲渡された犬や猫の数だけ、長町さんや平賀さんのような家族の物語が生まれている。