およそ500人に1人の割合という、口唇裂。生まれつき、上口唇が割れているこの病気は「裂」と呼ばれる割れ目の長さの程度により、症状がさまざま。鼻まで裂がある「完全裂口唇」や、口唇のみの「不全唇裂」などがある。発症者は決して少なくないのに、理解がなされにくい口唇裂。今回取材した金ちゃんさんも、世間の目と闘いながら、口唇裂と向き合い続けてきた。
「自分の口は人と違う」22歳で形成手術を受けたものの…
左側の唇が裂け、鼻の形が変形した状態で生まれてきたという金ちゃんさん。両親は優しさから「小さい時に転んでできた傷」と告げていたため、同級生から「口、どうしたの?」と聞かれるたびに、そう説明していたそう。
だが、小学校低学年の頃から何となく、自分の口が周りの人とは違うと感じていた。学生時代に口のことでからかわれたことはなかったが、写真を撮られるのが嫌で、高校生の頃からマスクが手放せなくなった。
もちろん症状によって個人差があるが、口唇裂は生後数か月で形成手術を受けることも多い。だが、金ちゃんさんが初めて手術を受けたのは、22歳の時だった。なぜなら、自身が口唇裂であることを知ったのが、21歳の頃であったからだ。
きっかけは唇を治したいと思い、美容整形クリニックへ相談に行ったこと。カウンセリング時、医師から口唇裂と告げられ、悩みに病名があったことを知った。
「保険が適応されることを知ったので、手術は病院で受けました。欲を言えば、小さい頃に手術をさせてほしかったですが、両親も口唇裂という病名を知らなかったので、仕方なかったと思っています」
形成手術によって切れていた口唇の部分は繋がったが、唇がいびつな形になってしまい、鼻は左右非対称のまま。
「(担当の)先生によれば、唇の形のバランスをとるのは難しいようで、右側を手術すると左側の形が変わる……というようなことが起きるそうです」
期待していたような見た目にならなかったことに、金ちゃんさんは落胆した。また、術後には心ない言葉を浴びた。2週間ほどの入院の後、仕事に復帰すると、職場である中年男性から「整形したじゃろ?」と、毎日言われるようになったのだ。
「最初は笑って誤魔化していましたが、あまりにもしつこかったので、腹が立ち、スルーするようになりました」
口唇裂は”誰のせいでもない病気”
その後、金ちゃんさんは再び形成手術を受け、歪になった唇や左右非対称の鼻を治そうとした。だが、担当医から「完璧には治らない」との事実を突きつけられ、ショックを受ける。
「普通の人のような唇の形になかなかならないので先生に聞いたら、そのような答えが返ってきました。これまで3回、形成手術を受けていますが、手術をするたびに他の箇所にゆがみが現れています」
そうした自身の体験談を、金ちゃんさんは勇気を出してYouTubeで公表した。それは、唇や鼻がいびつなことを指摘される前に、自分から言おうという思いからだったそう。
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だが、反響は予想以上に大きく、温かかった。動画のコメント欄には、同じ悩みを抱える人の声が溢れたのだ。
「『私も写真が苦手だ』とか、共感いただけたんです。寄せられた声を聞いて、自分と同じように、手術をしてもなかなか理想的な状態にならずに悩んでいる人は多いのだなと感じました」
口唇裂は、母親の生活習慣に批難が向くこともあり、自身を責めてしまう親も多い。だが、発生の原因はひとつの要因に特定されないことがほとんどで、原因不明なケースが大多数を占めている。
「誰が悪いとか、そういうことではない病気。大人になると手術や入院での長期休みが取りづらく大変なので、なるべく早い段階で、自分が納得いくまで手術をするのが1番なのかなと思います」
自分自身も鼻の穴の大きさの違いや手術痕が気になるなど悩みは尽きないけれど、自分は自分、人は人だと思うことも大切。そう語る金ちゃんさんの言葉は、同じ悩みを持つ人に響く。