就活止め休学して過疎の地元へ 子どもたちの居場所づくりに取り組む大学生

就活止め休学して過疎の地元へ 子どもたちの居場所づくりに取り組む大学生
筑波大学4年の川邊笑さん

徳島県牟岐町。太平洋に面する人口3500人ほどの小さな町だ。この地域で生まれ育った川邊笑(えみ)さんは、筑波大学の4年生だ。彼女はいま休学して地元に戻り、子どもたちの居場所づくりに取り組んでいる。

いまの活動の土台となった経験

活動の原点は中学生の頃。自分自身、悩みや生きづらさを抱えながら日々を過ごしていた。そんな時、身近で関わりがあった大人が自ら命を絶ってしまった。とても衝撃的だったという。

「この時の体験が、いまの活動にも続くすべての土台だと思います。そして、この時から、自ら命を絶つ人を減らしたいと思うようになりました。でも、その原因を自分が一つ一つ無くしていくのは難しい。そこで、人を強くしたいと思って、ぼんやりと先生になりたいと思うようになり、教育について学ぼうと思いました」

高校生の頃の川邊さん
高校生の頃の川邊さん

筑波大学進学後、1年生の夏頃から先輩の誘いで認定NPO法人Leaing for allの活動に関わるようになった川邊さん。様々な事情を抱えた子どもたちの学習支援に取り組んだ。

「障がいがある子ども、家庭環境がしんどい子ども、様々な子どもたちがいました。とりわけ不登校の子どもたちと出会うことが多かったです。『生きる意味あるのかな』『やりたいことがないから中学校まででいいんだ』そんな言葉を伝えてくれる小学生たち。でも本当にこの子たちが悪いのでしょうか。こんなことを言わせてしまう社会に対して憤りを感じました。また、学校や家庭に居場所がなくても、地域に居場所があって、第三者が関われることの重要さも学びました」

Lea…lの仲間と
Lea…lの仲間と

ちょうどそんな頃、川邊さんは成人式で地元牟岐町に戻る機会があった。

久しぶりに出会った同級生たち。だが、ある同級生は、中学生の時から不登校だったまま引きこもりになっていて、成人式に来ることはなかった。また、当時仲の良かった同級生は、家庭環境が厳しい状況で、就職したものの誰にも頼ることができずに退職。経済的にも苦しく、振り袖を借りることができずに成人式に来られなかった。

「仲良かった同級生たちがしんどい思いをしているのに、自分が大学に行っている。その子たちが悪かったわけでは決して無い。そう感じました。また、都市部には子どもの居場所づくりの活動をしている団体が増えているが、牟岐町のような過疎地域にはほとんど存在しない。行政も民間も何もできていない。見過ごされてしまっている。地域間格差の大きさを感じました」

居場所づくりをして分かったこと

この課題に対して、自分がなんとかしたいという気持ちと、知ってしまった責任を感じ、活動を始めることを決意した川邊さん。中高生を対象に、地域の公民館を借りて長期休暇限定で居場所づくりをスタートした。平均5人くらいの中高生が来ていたという。大学2年生の冬のことだった。

長期休暇限…場所づくり
長期休暇限…場所づくり

「1年間、長期休暇限定でやってみて思いました。居場所ってしんどい時にあるのが大事なので、日常的に必要だと。長期休暇限定では意味が無いと感じました。また、自分の中で、不完全燃焼な感じがしていました。本当に届けるべき人に届いていないのではとも思いました。当時大学3年生だったので、就職活動もしていました。でも、自分がなりたい将来像を考えた時に、助けて、という声を聞くことができて、それに対して行動ができる人になりたいと思ったんです。じゃあいま動かないとって思いました」

こうして休学を決意した川邊さん。つくばから牟岐町に戻った。そして、毎週1回放課後の時間帯にふらっと立ち寄って、お菓子を食べたり、話したり、勉強したりできる子どもたちの居場所「ゆあぷれ」をスタートさせた。

必ずしも悩みや生きづらさを抱えていなくても、気軽に来てストレスを発散できる、予防の場、大人の居酒屋のような役割をイメージしているという。現在、毎回5人くらいの子どもたちが利用している。

ゆあぷれの…んでいる)
ゆあぷれの…んでいる)

また、誰もが来ることができる居場所には、不登校の子どもなど、かえって行きにくい子どもたちがいるのではとの考えから、毎週1回日中の時間に、学校に行きづらい子どもたち向けの居場所「フリースペースわれもこう」をスタートさせた。

「やってみて驚きました。われもこうは5人くらいの登録を想定していたのですが、いまは19人が登録していて、毎回10人くらいの子どもたちが来ています。思った以上にニーズがありました。まさに、いままで見過ごされていた過疎地域の課題だと感じました」

フリースペ…こうの様子
フリースペ…こうの様子

地域全体で子どもたちを支えるまちづくりを

子どもたちとは、カウンセラーや学校教員の紹介等でつながる。スタッフは完全ボランティア。学生や、地域のお年寄りが中心となって支えている。経費は助成金と、回収した不用品をバザーで販売してまかなっている。しかし、まだまだ持続可能な状況ではないと痛感している。

「新年度は復学しますが、つくばにいなければいけない時は少ないので、主に牟岐で活動する予定です。いま週1回の活動ですが、やはり限界があります。そこで、地域全体で子どもたちを支えるまちづくりに取り組もうと考えています。いま、地域食堂をスタートさせる計画があります。地域の多様な方々が食堂に集まり、子どもたちと関わることで、地域に仲間を増やし、いつでも地域の方々が子どもたちを支えてくれるようにしていきたいです」

自身の取り組みを、過疎地域での子どもの居場所づくりのモデルケースにしたいと考えている川邊さん。将来的には、起業して日本の様々な過疎地域にこの事業を展開したいと考えている。

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