半身麻痺で「好きな靴が履けない」 悲しみバネに下肢装具可の“おしゃれな靴”をプロデュース

半身麻痺で「好きな靴が履けない」 悲しみバネに下肢装具可の“おしゃれな靴”をプロデュース
布施田祥子さん

株式会社LUYL(ライル)を立ち上げた布施田祥子さん。産後に左半身麻痺となり、好きな靴を選んで履く楽しみを味わえなくなったことから、起業した。下肢装具をつけていても“選ぶ嬉しさ”を感じられる靴を、世に送り出している。

産後に左半身が麻痺

002
002

2011年8月。第一子の出産から8日後、布施田さんは夜中の授乳時に足がもつれる感覚を覚えた。産後で血圧が上がっていたことから、薬を服用して様子を見ることになったものの、徐々に左半身だけ冷たく硬くなっていくことに不安を覚えた。

翌朝CTを撮ると、大静脈血栓症と脳出血が発見され、集中治療室に入院して治療を行うことに。だがその後、布施田さんは12日間意識がない状態になった。家族は寝たきりになることを覚悟したが、開頭手術を予定していた前日に脳圧が下がり、数日後に意識が回復。

目覚めたものの、左半身は麻痺しており、寝返りすらできない状態だった。医師からは、手の機能は回復しないが、リハビリを頑張れば車椅子での生活はできるだろうと伝えられた。

「言われた時は、あまりピンときませんでしたが、病室のトイレへ行くのも介助が必要な自分の状況を直視し、私は一生、こうやって人の手を煩わせながら生きなきゃいけないのかと絶望しました」

だが、日々のケアをしてくれる看護師さんが前向きな言葉をかけてくれたことで心は少し楽になったそう。

003
003

その後、リハビリ専門病院へ転院。大好きなアイドルグループのライブに行く、自転車で子どもの送り迎えをするなどの目標を立て、5か月間リハビリに励み、下肢装具をつけて歩けるまでに回復した。

退院後には、10代の頃から闘っていた潰瘍性大腸炎が悪化し、2年ほど苦しい生活を余儀なくされるも、手術で大腸を全摘出。その手術から1年後、ようやく生活が落ち着いたことで、布施田さんは障害者雇用枠で一般企業に入社するが、そこで新たな課題に直面する。それは、好きな靴を履けないという悲しみだった。

004
004

好きな靴を履きたい

実は布施田さん、もともとおしゃれが大好き。靴は100足近く持っていたが、下肢装具の装着後、手持ちの靴はほとんど履くことができなくなってしまったのだ。

「リハビリ中はスニーカーだったので、それほど気にしていなかったのですが、以前は通勤時の服装に合わせて靴も選んでいたので、何を着ても同じ靴というのがすごく嫌でした」

005
005

障害を考慮した靴は機能性を最優先しているため、選ぶ楽しみは感じられにくい。そんな愚痴を、布施田さんはリハビリの先生に話す中で、障害があっても選ぶ喜びを感じられる靴を作り出そうと思うようになった。

「潰瘍性大腸炎で入院していた時、友人がワークショップで靴を作ってあげると言ってくれたことも、後押しになりました。靴って自分で作れるんだ……と知れたので」

また、仕事の選択肢が少なく、好きな仕事に就くことが難しい障害者雇用の現状に悶々としていたことも、起業を決意するきっかけになった。自分が障害を持っているからこそ、できることがあるのではないかと思ったのだ。

そんな時、目に留まったのが、とあるビジネスコンテストに応募し、起業を果たした車椅子ユーザーのネット記事。そこからヒントを得た布施田さんは、埼玉県が主催する女性向けのビジネスコンテストに応募。

コンテストで出会った起業アドバイザーの助けを得ながら、靴づくりに協力してくれるメーカーを探しはじめた。

「アドバイザーからは100件連絡して1件返信をもらえたらいいほうだと思ってほしいと言われていましたが、10件ほど送った時に1件のメーカーから返信をいただけた。身内に下肢装具を装着している子がいたようで、お手伝いするよと言ってくれました」

こうして誕生したのが、オリジナルブランド「Mana’olana」。ブランド名は、ハワイ語で「自信・希望・期待」という意味だ。

006
006

最初はレディースシューズのみ制作していたが、男性からの声を受け、メンズシューズも手掛けるように。メンズシューズは2020年、グッドデザイン賞を受賞した。

「40~50代で復職したい時、面接でスーツを着ても履ける靴が限られているとモチベーションが下がるという声を受けて作りました。冠婚葬祭の時に履ける靴が欲しいという意見も男性には多かったです」

007
007

どんな下肢装具をつけている人でも履ける靴を作りたい

靴づくりを手掛ける中で、布施田さんには忘れられない出会いがたくさんある。

「靴を履いて出かけることを目標に、リハビリを頑張ってくださる方は多いですし、将来、歩行が困難になって購入した靴が履けなくなっても、部屋に飾っておくだけで希望になると言ってくださった方もみえました。そういう言葉は、すごく嬉しいです」

008
008

装具の種類や障害による症状には個人差があるため、布施田さんのもとへ試着をしにきたものの、履くことができないケースもある。だが、購入できなくても、訪れたお客さんが「こういう靴があること自体が希望になる」と嬉し泣きをすることは少なくないのだそう。そうした姿を見て、布施田さんは自分が生み出した靴の価値を改めて実感する。

「手に入らないのに、泣くほど喜ぶって普通のお店では考えられないこと。だから、やっていてよかったと思うし、どんな下肢装具をつけている人でも履ける靴を作りたいと思いますね」

布施田さんは今後、他企業やメーカーも巻き込み、より多くの人がワクワクできる靴を作っていきたいと意欲を燃やす。そして、障害の有無にかかわらず、どんな人も使いやすいファッションアイテムや日用品が増えることを願っている。

009
009

「今の社会はファッションに限らず、色々なものが健常者の視点で作られていると思うんです。でも、ちょっとした工夫でみんなが使いやすくなる。例えば、靴なら、片手で履けやすくするだけでも高齢者など、障害者以外の方も便利だと感じられる。多様な人々が満足できるインクルーシブデザインの視点が、もっと広まってほしいです」

この記事の写真一覧はこちら