「音声ガイドは福祉目的ではない」 目で見た情報を言葉で伝え、誰もが楽しめる作品に

「音声ガイドは福祉目的ではない」 目で見た情報を言葉で伝え、誰もが楽しめる作品に
音声ガイドを担うバリアフリー活弁士の檀鼓太郎さん。(インタビュー時の写真)

音声ガイドとは視覚障がい者に向けて音声情報を提供すること。つまり、目で見える情報を音声にして伝え、作品と視覚障がい者との間の架け橋となる存在だ。
今回は、これまで20年間、音声ガイドを務めてきた檀鼓太郎(だんこたろう)さんに音声ガイドを務めることになった経緯や、詳しい仕事内容について話を聞いた。

目で見た情報を言葉で表現

音声ガイド
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檀さんにとって、音声ガイドの仕事とは、ラジオドラマや朗読劇のように、その内容を音に変換する作業だという。

「音声ガイドをする時は、無言で登場している人物や聞こえてくる音だけでは分からない演技・景色などを音声で解説します。『百聞は一見に如かず』の逆で、一目見た情報は言葉にすると百倍になります。そのために全てを伝えることは不可能です。どの部分を切り取り、かつ凝縮して伝えるか?が問われる仕事です」

音声ガイドの極意とは

また、音声ガイドには、声だけで多層的に情報を加え、わかりやすく伝えるスキルや、作品の世界観を壊さぬように、即時に音声情報を伝える力が必要だという。
檀さんはどのようにしてその能力を手にして行ったのだろうか。

音声ガイド
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若い頃、コーラスをしていた経験がある檀さん。主旋律を彩る低音のパートで、自然と“引き立て役”に徹することを学んできたという。この経験が、音声ガイドの仕事にもつながっているそうだ。

初めて音声ガイドを務めたのは今から20年前。現在のユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」の支配人・平塚さんに声をかけてもらったのがきっかけで、最初の依頼は映画『アマデウス 特別編』の吹き替えだった。“年齢の変化を音声で表現する”ことに挑戦したという。映画『ロード・オブ・ザ・リング』では、吹替版の上映に音声ガイドをつけたそうだ。

檀さんは、音声ガイドを務める以前より、音楽劇の語りも手掛けている。この経験では“言葉を工夫し、語りと演奏だけで観客の頭の中に映像を浮かばせるコツ”がわかってきたと話す。

音声ガイド
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音声ガイドは“福祉目的”ではない

音声ガイドは、基本的に視覚障がい者のためではあるが、時には晴眼者も「お!」となる機会を得られると檀さんは話す。

「以前、日本舞踊の場面を解説する際に、振付の形を伝えるだけではなく、その振付の意味を加えて解説したんです。それが晴眼者にもウケた。一見、美しい舞だったのが、その振付の元になる意味を補足することで、内容を深く理解できたことで喜ばれたのだと思います」

これまで担った作品などは、途中から数えるのをやめたため正確な数ではないそうだが、ざっと600回以上だと話す檀さん。ほぼ、生実況だという。
その場に即して、すばやく正確に情報を伝えるという臨機応変さが求められてきた。

音声ガイド
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「一度もこの仕事を福祉目的だと思ったことはないんです。新たなトーク・パフォーマンスの1つとして完成度の高い内容を提供するものと捉えています」

成るべくしてなった仕事

音声ガイド
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音声ガイドを通して多くの依頼を引き受けて行くほか、自主企画で音声ガイド付き映画鑑賞会の開催、自身の趣味でも映画鑑賞もしながら腕を磨き続けてきた檀さん。その研鑽で、役者の口の動きとピッタリに台詞を言えるに留まらず、複数の俳優に関して一人で全員分、同じ高さ・声質で台詞が言えるようにもなったという。

「(映画を)見ると同時に頭の中で音声ガイドを始めていますね。視覚障がい者の方々から一家に1人檀さんがほしい!と言われることもあります(笑)」

“好き”をやり続けて、ごく自然に音声ガイドのスキルを極めていったのだろう。

最後に檀さんに、音声ガイドを務めることについて改めて聞いてみた。

「今でも『この仕事をしたい』と思った事はありません。『この仕事をする為に、これまで経験を積まされて来たんだな』とは思っています。やりたくて始めた仕事ではなく、最初からこの仕事をする為に産まれて来て、成るべくしてなったのだとも。『する』ことが当たり前なので、あえて『したい』と思ったことはありません」

どのような職業でも周囲に必要とされる存在になるには「自分にある芽をいかに伸ばしていくか」という是非を、たえず問うことが肝心なのかもしれない。

音声ガイド
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