宮城県在住の千葉友里さんは、2022年7月、三男・ゆうだいくんを小児がんで失った。言葉にできないほどの苦しみを断ち切ることは難しいが、千葉さんはその悲しみを原動力に変え、自身と似た境遇の家族をサポートしている。
わずか8歳の息子を「脳幹グリオーマ」で亡くして
四兄弟の母として賑やかな暮らしを送っていた千葉さん。ところが、新学期が始まってから2週間ほどした頃、突然、三男のゆうだいくんが不登校になった。
新しい環境に適応することが難しかったのだろうか。最初はそう思ったが、目の焦点がずれたり、歩き方に違和感を覚えたりしたため、近所の小児科へ。そこでCTが撮れる県立の小児専門病院を紹介してもらった。
その病院で検査をした結果、脳に腫瘍があることが判明。「これは命に関わるものなのでしょうか」と、千葉さんが尋ねると医師は頷づき、対応可能な大学病院を紹介された。
翌日、ゆうだいくんは大学病院へ入院。MRIを行い、その日の夜、千葉さんは医師から「脳幹グリオーマ」であると告げられた。この病気は、小児がんの中でも特に悪性度が高いと言われており、余命1年を宣告されたそう。
「私は元看護師なので、多少の医療知識はありましたが、この病名は聞いたことがなく、有効な治療法がないことに愕然としました」
ゆうだいくんは放射線治療を受け、腫瘍が大きくなるのを抑えることに。医師からは、「腫瘍が大きくなってくるまで、いい時間を過ごせるように頑張りましょう」と言われた。その際、千葉さんの胸には、“いい時間”に込められた残酷な意味が突き刺さったという。
放射線治療を始めても、ゆうだいくんの腫瘍は猛スピードで大きくなっていった。入院翌日から右腕には麻痺が現れ、闘病中に楽しもうと思っていた折り紙やお絵描きはできず。歩行や食事も難しくなり、思うようにいかない日々の中で、ゆうだいくんはストレスを溜め込むようになっていった。
「でも、一時的に病状が安定した時期があり、私が就き添ってですが、久しぶりに自宅近くの小学校やスーパーへ歩いて行きました。その時は、本当に嬉しそうでしたね」
その後も、ゆうだいくんは家族と思い出を作りながら病気と闘った。そして、四男の誕生日パーティーが予定されていた2022年7月17日、自宅で息を引き取った。
「家族だけでなく、友達や家族ぐるみで仲良くしていた人たちにも見守られ、賑やかな中で天国へ行けました」
誰かを救う「ひまわりスマイルプロジェクト」は自身のグリーフケアでもある
息子の死から2か月後、千葉さんは宮城県内で小児がんと闘う子どもとその家族を支援する「ひまわりスマイルプロジェクト」を立ち上げる。わずか2か月で活動を開始したのは、ゆうだいくんから1日の大切さを学んだからだ。
「闘病中、私は県内に小児がんの支援活動がないことで強い孤立感を味わったんです。社会から見捨てられたように思えたので、同じ思いを抱える人を増やしたくないとの思いから、支援団体を立ち上げました」
代表的な活動は、小児がん支援のための「レモネードスタンド」活動。活動によって集められた寄付金が、小児がん支援団体などに送られるもので、アメリカのある小児がん患者の少女が、小児がん支援のために多額の寄付を集めたことで広がった支援活動だ。
また、子どもを亡くした親の会を作り、似た境遇の人と繋がれる場も作っている。
「こういう活動が息子との死別を経験した私にとっては、グリーフケアになっています。傷つく言葉を言われることもあるけれど、他人を救うことで自分自身も救われていますね」
千葉さんの目標は2つ。ひとつは、宮城県に子どもホスピスを設立すること。千葉さんは我が子の闘病を通して、子どもにとっては病気を気にせず遊べる“もうひとつの自宅”となり、親にとっては相談ができる場になる子どもホスピスの必要性を痛感した。
「子どもホスピスプロジェクトは全国各地で立ち上がっていますが、東北だけありませんでした。子どもを亡くしても、ここに来れば、いくらでもその子の思い出話ができる子どもホスピスにしたいです」
もうひとつの目標は、宮城県のどこに住んでいても在宅療養支援制度が受けられるようにすること。
「車いすなどの福祉用品を1割負担で借りられる制度です。介護する側は負担が減り、当人はできることの幅が広がります」
大きな目標を抱きながら動き続ける千葉さんは、自分たちの活動を通して、当たり前に過ぎていくように思える1日の尊さに思いを馳せてほしいと語る。
「すべてのことに感謝をしなければいけないというわけではないけれど、不自由な日々の中でも病気と向き合って、頑張っている子がいることを知ってほしい。それに、誰しもが、いつどうなるか分からない時代だからこそ、やりたいことがあれば後回しにせず、チャレンジしてほしいとも思います」
生きているだけで、すごいこと――。そう話す千葉さんは、かつての自分と同じく小児がんと闘う子を持つ親に向け、温かいメッセージを贈る。
「治療そのものを助けることはできないけれど、私たちのように応援する気持ちを持っている人は全国にたくさんいます。ひとりじゃないですよ」