みんなの前で話すのは苦手。困ったとき助けを求めるのが難しい。簡単に思える「話す」という行為にも、実はさまざまな課題がある。そんな中、子ども時代から対話に親しんでもらおうと12月4日、香川県三豊市で「こどもかいぎin三豊」が開かれた。ドキュメンタリー映画「こどもかいぎ」監督の豪田トモさんと、子育て中の大人3人がファシリテーターに挑戦。初対面の子どもたちと「かいぎ」する様子を覗いた。
子どもたちが自由に話す場
こどもかいぎは、大人のファシリテーターが進行役になって、子どもと身近な話題について自由に対話する場だ。5人程度で話していくが、結論を出すことが目的ではなく、どんな発言をしてもよい。
「いまから質問します」。豪田さんが4人の子どもと畳に座り、早速こどもかいぎを始めた。すると、1人の子どもから「(僕は)意外と何でも知ってる。カブトムシとかコオロギも知ってる」という発言。意外な展開にも豪田さんはひるまず、話すときは手を挙げることや、友達の発言を聞くことなどルールを伝えた。
続いて「どうやったら、座ってお話を聞けると思う?」と豪田さん。すかさず子どもたちは「お山座りしたらいい」と、座ってみせた。4歳から6歳の子どもと豪田さんが、輪になって話す雰囲気ができた。
大人の思い通りには進まない
対話が進みそうだった矢先、ある子は「喉が乾いた。水ちょうだい」と離脱。さらに豪田さんの背後に子どもが隠れて、「あれ? いなくなった」と探してもらうシチュエーションを楽しんだり。話し合いよりも、かくれんぼに熱中する子どもたち。
そんな時、「座りなさい」「静かに」というような指示は出ない。子どもの発言や行動を受け止めて声をかけながら、少しずつ対話の雰囲気を作っていった。母親から離れず、少し距離をとって参加していたナオちゃん(仮名)にも、豪田さんや他の子どもたちが話しかける。ナオちゃんは恥ずかしそうな表情のままだった。
ところが、好きな食べ物の話題になった時、ナオちゃんが「肉」と一言だけ声にした。他の子どもたちは、「とり肉?」「タコの肉だ」と元気に返す。話し合いが途切れ、豪田さんと子どもたちが入り乱れて遊び始めたタイミングで、ナオちゃんは「こどもかいぎ」の輪に入っていった。
そして、真面目な話し合いの場面が訪れる。子どもたちの宝物について、全員に聞き終えた豪田さんは質問した。「家族って宝物なのかな」。子どもたちは「違う違う。家族」「家族いるよ。ばあばとパパとママ」。豪田さんは続けて聞いた。「みんなにとって家族って大事?」「うん。なくしちゃったらいけないから。泣くくらい」「家族がいなくなったら寂しい」
家族が大事。初めての「こどもかいぎ」で、子どもたちから表明された。
話し合うことで「複数の効果」
豪田さんは、日常的に対話を重ねる子ども園の様子を映画「こどもかいぎ」(2022年製作)で描いた。大人の想像を超えたユニークな発言が飛び出したり、喧嘩が起きても話すうちに仲直りできる様子など、子ども時代から対話する大切さを感じられる作品だ。
豪田さんは「映画を撮る前は、『こどもかいぎ』に多くの意味があることに気づいていませんでした」と話す。話し合いをすると、聞く力、話す力にとどまらず、頭の中で複雑な動きが起きるという。例えば、「受け止めてもらって安心する」「自分とは違う意見があることを知る」「もっと知りたいと思う」などだ。映画の上映後、全国でも子ども園などで対話を始めた事例があるそうだ。
「こどもかいぎin三豊」では1時間弱のかいぎを終えて、子どもと大人に絆のようなものも生まれた。子どもたちは「めんどくさいけど、またしたい」「最初できるかなと思ったけど、話せた」と、柔らかい表情を見せた。
保護者は「家庭でもやってみたい」「自分の引き出しから言葉を見つけて発言できていた。答えが出るまで、待ってあげないといけないと気づいた」などと感想を語った。
企画した同市内の建築士、平宅正人さんも、小学校低学年のグループで初めてのファシリテーターを楽しんだ様子。「子どもと対話するのは、頭脳をフル回転させても難しかったです。でも話し合いでは、人生や命は大事で、そこに家族や友達がいるから、という具合に会話がつながった場面があって、とても印象的でした」と振り返った。また、「話すことが、すぐに効果をもたらすというよりは、『こんなこと言ってもいいんだ』という経験をすることで、まわり回って子どもや大人を助ける場面があるのだと思います」と話した。
「こどもかいぎin三豊」は、2023年1月と2月にも開催される予定だ。