山盛りの髪見て自己嫌悪 抜毛症のモデル「自己責任ではない」と伝えたい

山盛りの髪見て自己嫌悪 抜毛症のモデル「自己責任ではない」と伝えたい
ボディポジティブモデルのGenaさん/写真:@aya212picさん

自分の髪を抜くことを繰り返してしまう抜毛症。癖だと誤解されやすいが、当事者はやめたいと思っても抜きたい衝動に抗えず、生涯に渡って苦しむこともある。ボディポジティブモデルとして活動するGenaさんも、抜毛症と向き合ってきたひとり。抜いた髪を見ては自己嫌悪する日々を乗り越え、ありのままの自分を愛せるようになった。

学級崩壊で心が限界になり髪を抜くように

なぜ、女子だけ綺麗な字を書くことを求められるのだろう。小学生の頃から、そうした性別による扱いの違いにもどかしさを感じたり、自分の在り方について悩んだりしていたGenaさんは、小学5年生の時に起きた学級崩壊でクラスがギスギスした状態になったことから、張りつめていた心が限界を迎え、髪を抜き始めた。

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抜毛を行うのは、家の中でだけ。最初は時々思い出したかのように頭頂部の髪を抜いていた。

だが、中学2年生の頃、転校先で上手く馴染めず、不登校となったことから症状は悪化。何時間も無心で抜毛するようになった。

「抜いている最中は、心の中が静か。抜毛は、精神的な逃げ場でした。頭のどこかではダメだと思い、精神疾患を疑ってもいましたが、認めるのが怖く、ただの悪い癖だと思おうとしていました」

抜いた直後は強烈な罪悪感に襲われ、自己嫌悪。抜いた山盛りの髪の毛を見るのが、苦しかった。頭頂部の同じ箇所を抜き続けていたため、その部分の頭皮はあらわに。

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だが、髪を抜くことはやめられない。そこで、髪より抜いてもよさそうに思える足の毛や眉下の毛、眉頭の毛も抜くようにもなっていった。

帽子を被ったり、10指すべてに絆創膏を貼ったりして対策したこともある。だが、「抜きたい」という衝動には抗えなかった。

「抜毛期間が長くなるにつれ、余計に髪を抜くという逃げ場が手放せなくなりました。抜かなければいいだけだと思うかもしれませんが、その衝動を抑えることが難しい。抜かないと決めても一度抜くと、その決意は吹き飛んでしまいます」

そうして、虫歯を放置したり、「ハゲているから」とおしゃれを諦めてしまったりと、軽度のセルフネグレクトもするようになった。

26歳の頃、様々なストレスから心を病んで働けなくなったことで心療内科を受診。そこで、長年抱え込んできた苦しみを打ち明けたことで、考え方を見つめ直せるようになった。

自分を大切にして抜毛症と向き合う

その後、休職したGenaさんは、ありのままの自分の体を受け入れようと訴える海外のボディポジティブモデルの姿に心打たれ、強制的に抑え込むのではなく、自分を大切にする方向で抜毛症と向き合うようになっていく。

「抜毛症になって一番悲しかったのは、自らの手で自分を傷つけ、自分を醜いと思うようになってしまったことでした。私は抜毛時に痛みを感じなかったので、自分は痛みに強い、自分の体は傷つけても構わないものだと思うようにもなりました。体は丈夫なほうだったのに思考が不健康で、健康な体に傷んだ魂が入っているようでした」

思考を変えるため、まず挑戦したのは、ずっとためらっていたヘアカラー。「この手で髪を抜きたくない」と思えるよう、ジェルネイルにもチャレンジした。

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そして、背中一面にタトゥーを入れるという大きな決断もする。デザインはトライバル感もある唯一無二のものにした。

「民族の間で伝承されてきた伝統的な模様のトライバルタトゥーは自身のアイデンティティを表し、お守りのようでもある。それを知っていたので、私もアイデンティティを示せ、体と心がしっかり繋がっていると感じられる強力なお守りが欲しいと思いました」

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約20時間も及ぶ施術は激痛だったが、タトゥーは「痛みに強い」という歪んだ自己認識を変えてくれたという。

抜毛症は「自己責任」ではない

自分を愛することの大切さを知ったGenaさんは、コラムやモデル業を通して抜毛症を伝え、ありのままの自分を受け入れようと発信し始めた。

2022年9月には抜毛症当事者に寄り添う、弱酸性のシャンプー「慈生(じう)」を発売。商品名には、ありのままの自分自身やパっとしない日常までも愛してほしいという願いを込めた。

「抜毛した箇所に雑菌が入って頭皮がボコボコし、その気持ち悪さからより抜毛してしまう方もいるため、頭皮をマッサージできるよう、固形にしました。トリートメントが不要なので、生えかけの毛にトリートメントができないという悩みも解消できます」

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今後は、現在のワーキングホリデー先であるドイツで、ボディポジティブモデルとしてより一層活躍していきたいと意欲を燃やすGenaさん。モデルとして活動するようになってから抜毛に没頭できなくなり、抜く本数がかなり減ったそう。

「ドイツに来てからは、抜毛の衝動自体がほぼなくなっています。まさかこんな日が来るとは……」

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抜毛症は、当事者が恥ずかしさから髪を抜いていることを言えなかったり、ウィッグで抜毛部分を隠したりするという、“隠せてしまう病気”であることが治療法のなさに繋がっている。

だからこそGenaさんは、当事者が自分を恥じて隠さなくてもいいよう、理解が得られる社会になってほしいと願いつつ、抜毛症当事者に「自分を責めるのをやめよう」とメッセージを送っている。

「当事者は自分を責めやすいですが、抜毛症は自己責任ではない。病院で相談してほしいです」

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また、Genaさんはありのままの自分を愛せないと苦しむ人に、まずは自分を恥ずかしいと思う気持ちを捨てて、一緒に幸せになろうと訴えかける。

「自分とかけ離れたありきたりな美を目指すことは、自己否定とセットの苦しいこと。今持っているものが自分の財産だと認めて、それをどう生かして輝かせるか考えるという、自分に優しい選択をしてあげてほしい。長い目で見たら、きっとそれがあなたにとっての正解になると思います」

髪型や体型、持病、性自認や性的指向なども含め、自分に素直に生きてほしい。そして、そうした生き方が許されるような社会を作っていきたい――。Genaさんのその祈りが、多くの人に届くことを願う。

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