毎朝の墓参りを習慣にしている女性が、ある日、「小さな住民」の存在に気づいた。それはカエル。墓に彫られた漢字のくぼみに、ピッタリおさまっている。初めて確認して以来1か月以上になるが、すっかり住み着いた様子という。香川県観音寺市で、墓を住まいにしているカエルに会ってきた。
「家」のすみっこが定位置
「今日もいました。いつもの場所にいます」。雨の天気予報を心配しながら11月1日の午前7時半に待ち合わせ、観音寺市在住の小出圭美(たまみ)さんと墓に向かった。そこは、小出さんの伯母が永眠する「井上家之墓」。墓石に彫られた「家」の文字のすみっこに、小さなカエルが鎮座していた。
小出さんは9月18日ごろ、墓にいる緑色のカエルを見つけた。アマガエルのようだ。苦手なので「嫌だな」と思いながらやり過ごしたが、次の日も同じ場所にいた。連日そこにいるため、次第に「今日もいるかな」と気になるようになった。
9月下旬に2日間、姿が見えず、戻ってきた時は茶色になっていた。10月は9日間も不在だったが、再び帰ってきた。フェイスブックなどで発信すると、全国にいる友達から「じわっと可愛い」「居心地がいいんですね」「定点カメラで見守りたい」とコメントが寄せられた。
小出さんによると、カエルは墓に彫られた「家」の文字にいることが多く、時々、別の漢字に移動している。日中どんな行動をしているかは確認していない。
お父さんかな?と想像
毎朝の墓参りを始めて1年以上という小出さんは、2020年11月14日に90代の父親を亡くした。父親は認知症を患って、病院で最期を迎えた。「ちょうどコロナ禍のために面会もできませんでした」
最期に会話さえできなかった父親を思い出すと、小出さんの思いが募った。父親とその姉である伯母の墓に毎朝、それぞれ線香をあげるようになった。そして、父親の墓の近くにある伯母の墓でカエルに出会った。
「カエルが毎日いるのは不思議。言葉にならないメッセージかな、お父さんかなと想像することもあります」と話す。
父親は小出さんの生き方を否定することなく、見守ってくれたという。だが、優しかった父親も認知症になってからは、時間を選ばず母親に厳しい態度を取ったり、「この人はお父さんじゃない」と思うほどに変わってしまった。
小出さんは父親をだますように車に乗せて、病院に入院してもらった。カギ付きの独房のような部屋で思わず涙が出た。食事もゆっくりできず、「かわいそう」と感じたが、自宅で介護するのは難しかった。
それから数年、墓の「家」という文字にカエルがいる。つまり「家にカエル(帰る)」だ。小出さんの父親は、やはり家に帰りたかったのだろうか。人間の勝手な解釈だが、そんなことを思った。
カエルはまもなく冬眠するだろう。小出さんは「いつまでいてくれるかなと思いながら、毎朝きています。来年も会えるかな」。静かに墓に手を合わせた。