犬猫の不妊手術を専門にした医療施設「スペイクリニック」が11月6日、香川県で初めてオープンする。運営するのは、NPO法人アニマルスマイル香川(代表:𠮷田文香さん)。背景には、「人が始めた負のループを断ちたい」という願いがあった。
香川県初のスぺイクリニック
高松市御厩町にオープンする「香川スペイクリニック」で先日、プレオープンの手術があった。
麻酔された猫が手術台に横たわり、獣医がメスを握る。サポート役のスタッフが、心拍数を確認しながら見つめた。15分ほどで不妊手術が終わり、しばらくすると猫はあどけない表情を見せた。
クリニックは、プレハブに手術台2台と麻酔装置などを備える。小さな空間だが、予約制で手術チームと日程調整しながら稼働させる計画だ。
スペイクリニックは、短時間で複数の手術ができるため、保護された野良猫などに素早く処置できる良さがある。安価なところもポイントだ。プレオープンでは猫15匹を手術したが、犬も対象にできるよう準備中だ。
個人や団体が保護した飼い主のいない犬猫を対象として、11月6日にオープンする。予約はまもなく開設予定のHPからできるようになるという。
都市部の先行事例では、野良猫に対応しているケースが多いため、スペイクリニックといえば野良猫を連想するが、香川県では対象となる野良犬も多い。今後、県外の専門獣医を招く計画もあるという。
開業に踏み切った理由
𠮷田さんは犬猫の保護活動を始めて12年目。スペイクリニックの開業に踏み切った理由は、二つある。
一つ目は、2011年のボランティア現場での体験。高松市内の民家で、100頭ほどの犬が半ば野放しにされていた。救出しようとすると「自分の犬」だと主張して怒り始める飼い主。ボランティアたちは飼い主を説得し、現場にテントを張って3日間で80頭ほどに不妊手術をした。「人の手に負えなくなるほど動物を増やさないためには、不妊手術をするしかない」。𠮷田さんは、そう感じた。
二つ目は、譲渡活動に限界を感じたこと。2021年度は、さぬき動物愛護センター「しっぽの森」から受け入れた犬猫を含めて、278匹を譲渡した。活動開始以来、2000匹ほどの犬猫を里親に繋いだという。しかし、里親にもらわれる数は頭打ちになり、「保護して譲渡するだけでは、間に合わない」と痛感した。
クリニックの開設資金はクラウドファンディングで募り、2か月足らずで目標額の1000万円を超えた。𠮷田さんがこれまで取り組んできた保護活動には、東京や大阪など都市部からの資金サポートが目立ったが、今回のクラファンサイトには香川からのアクセスも東京に次いで多いという。𠮷田さんは「県内から期待されている」と受け止めている。
命を選別したくない
アニマルスマイル香川の活動拠点のシェルター(保護施設)では、80匹ほどの保護犬と25匹の保護猫が暮らす。ボランティアが散歩に連れ出したり、小屋や室内の掃除に追われていた。
活動拠点の近くに、段ボールに入った子猫たちが捨てられていたり、「今から引き取りに来てください」と保健所と混同したような電話が入ることもある。
「入院するので飼えなくなりました」「もういらないから」という連絡も珍しくない。命を守るために引き取りながら、「何か違うのでは」と複雑な思いが交錯する。
それでも活動を続けているのは、「命を選別したくない」という、𠮷田さんたちボランティアに共通した思いがあるためだ。
「香川では、動物の命に責任を持つという意味で犬猫に不妊手術をすることが、理解されていないと感じます。でも、初のスペイクリニックができることで、意識を変えていけたらいいなと思っているんです」と、𠮷田さんは語る。