「カンボジアの人々と関わっていたい。胡椒は手段であって、目的ではないです」と語ってくれたのは、世界最高級と名高いカンボジアの胡椒栽培に携わり、自身の会社「クラタペッパー」を経営している倉田ひろのぶさんです。カンボジアに住んで30年の倉田さんが「カンボジアの人々と関わりたい」と思った理由を聞きました。
カンボジアの人たちと関わりたい
カンボジアに興味を持ったのは、とある報道ジャーナリストが撮影した「世界遺産アンコールワット」の写真がきっかけだった倉田さん。中学生のころから「カンボジアに行ってみたい」という思いがあったといいます。
高校生のころ、カンボジアの経済や、歴史、内戦について調べていくうちに「争いのない平和な世界を作るためには、自分には何ができるんだろう」と考え始めます。
そして、大人になっても変わらないその思いを学ぶ場所として、カンボジアは最適と感じた倉田さん。
1992年から1年間、国連の「カンボジア難民の人たちを帰還させるプロジェクト」に、ボランティアとして参加しました。1年後にプロジェクトは終了しますが、倉田さんの中に「まだカンボジアに関わっていたい」という思いが残ります。
そのため帰国後すぐに、カンボジアの学校建設に携わるNGOに参加し、再びカンボジアに戻りました。しかし、農村部では校舎が完成しても先生が雇えず、先生がいないと生徒も集まらないという状況に直面しました。
「農家をしている人たちの所得を向上させないと、子どもたちを学校へ通わせられない。この状況を何とかしたい」
そう考えた倉田さんはNGOをやめ「農家の人たちの生活が向上する手伝いができる仕事がしたい」という思いから、会社を設立します。
「カンボジアを知ってもらいたい」手段として活動
会社設立後は農業を軸に日本へ輸出を考えていましたが、何が輸出できるかわからず、初めの1年間はとにかく調査する毎日。
出口が見えないまま日本に帰ったある日、過去にカンボジアで農業の仕事に携わっていたという親戚に昔の資料を見せてもらいます。その資料の中にあったのが「胡椒」でした。
カンボジアはかつて「胡椒」が有名だったこともあり「アンコールワットの遺跡以外で誇れる、有名な産業があればいいな」という思いから胡椒の栽培をスタート。「クラタペッパー」というブランドを確立し、今では数か国に輸出するまでになったそうです。
特に今のエリアの「完熟胡椒」は、粒が大きくて、香りもよく、他の地域のものより甘いと感じるそうです。「カンボジアの胡椒だからとか、特別な品種だから、とかではなくそのエリアだからだと思っています」と倉田さんは嬉しそうに語ってくれました。
しかし「胡椒」の栽培は手段であって、目的は「カンボジアの人たちと何かしたい」ということ。その思いは、カンボジアを知った時から今でも変わらないそうです。