〈ティラノサウルス+瀬戸内海=子どもの笑顔〉。こんな図式を考えた女性がいる。11月5日、美しい海岸線で知られる香川県観音寺市の有明浜で88メートルを、ティラノサウルスの着ぐるみ100体以上が走るイベントが開かれる。企画するのは小児科医の川口幸穂さん。「闘病中の子どもたちを笑顔にしたい」と実行委員会を結成し、夫とタッグを組んで、初めてイベント開催に挑戦する。
取材にティラノサウルス姿で登場
ティラノサウルスの着ぐるみが集団で疾走するレースは、思わず笑ってしまう集団疾走の姿を見てもらい、地域を盛り上げようというイベントで、もともとは海外で開かれていたという。
国内でも2022年4月の鳥取県を皮切りに各地で開催されているが、川口さんが企画をしようとしたきっかけも、この鳥取のレース映像だった。着ぐるみが大山の自然を背景に、全力疾走する姿に笑ったという。
「香川でやったら、映える」と直感したが、イベント開催の経験はゼロ。すぐに思いを行動に移せなかった。しかし、勤務先の小児科病棟の光景が、川口さんのスイッチを入れた。
長期入院している子どもたちが、コロナで特定の家族以外に会えない日々が続いていた。そんな閉塞感の中にいる姿を見て、5月には開催に向けて行動を始めた。「子どもたちを笑顔にしたい」という思いからだった。
舞台は有明浜に決まった
やると決めたら素早い川口さん。鳥取県や山梨県での開催事例を徹底リサーチし、開催イメージをかたち作った。収支の見通し、会場候補地、出店依頼するキッチンカー情報などを収集。四国遍路にちなんで、レースの距離は88メートルに決めた。
「香川って、とても素敵な場所なんです。写真映えする場所もさまざまにあって。レースを通して香川の魅力を発信したい気持ちもあります」
そうなると、ティラノサウルスが走る場所が最大のポイント。海岸が広くて走りやすい、観音寺市の有明浜に決まった。
川口さんは実際に着ぐるみ姿で走ってみたという。「どんくさいので大変でした」。コミカルでシュールな姿を見てもらい、子どもと観客を笑顔にすることが目的なので、ティラノサウルスが映えるポーズも研究した。
夫も実行委に仲間入り
会場が決まった後、夫の圭吾さんにイベント開催を打ち明け、圭吾さんも実行委員会に仲間入りした。川口さんは「周りに迷惑をかけてはいけないと思ってしまって、一人で準備していました」と言うが、夫の協力的反応は嬉しかった。圭吾さんは「楽しい。社会の歯車としてではなく、何かを作り出すことに挑戦しているので、新たな自信もつきました」と話した。
さらに圭吾さんの知人も巻き込んで、実行委員会は川口さん1人から5人に増えた。
レースの出場者は、100人の枠でSNSを使って呼びかけたところ、募集開始から5日間で定員に達した。内訳は香川県内4割、中四国3割、その他の地域3割で、東京からの参加者もいるという。20人を追加募集し、合計120体が走ることになった。参加費は1000円で、着ぐるみは参加者が準備する。
また、イベントの最大目的である「闘病中の子どもたちを笑顔にする」ため、小児病棟で半年以上の入院を経験した子どもと家族を対象に、特別招待枠を10月30日まで受け付けている。
特別招待枠は参加費無料で、実行委が準備した着ぐるみで走ることができる。インスタグラムなどのSNSで、ティラノサウルスレースin香川実行委員会に直接、参加希望のメッセージを送ってほしいそうだ。
会場にはキッチンカー3台が出店するほか、圭吾さんの妹で抽象作家のkuroma(クロマ)さんがロゴデザインに参加したTシャツなど、オリジナルグッズも販売する。大会マスコットのデザインは、イラストレーターの大野太郎さんが担当した。
〈有明浜+ティラノサウルス=X〉。改めて、答えに何が入るか聞いた。川口さん夫妻は「HAVING FUN(楽しめるよ)」で一致した。11月5日は答えを探しに、有明浜のレースを目撃しよう。午前10時からティラノサウルスが走り出す。