2022年8月27日、大阪市平野区にオープンした「Panndry (パンドリー)」は、パン屋とコインランドリーが融合した店舗です。近年、カフェとコインランドリーが一体となった店舗を街中で見かける機会も増えましたが、なぜここは“パン”とランドリーなのか。オーナーの万福公至(まんぷくたかし)さんに、オープンのきっかけや目指す未来像について聞きました。
有人だからこそ生まれるコミュニケーションを
パンドリーがある平野区の加美エリアは、倉庫や工場が立ち並ぶモノづくりの町。そこで空き物件になっていた築50年の鉄骨スレート造の倉庫を、コンバージョンしてオープンしました。
万福さんは世の中で“無人営業”が流行っているからこそ、あえて“有人”という選択をしたと話します。
「既存のランドリーの多くが無人営業をしている中で、『有人だからこそ生まれるちょっとしたコミュニケーションを大切にしたい』という思いがありました。しかし、有人にすると人件費がかかってしまう。そこで、何かを併設することで雇用を生み、人件費を確保しようと考えました」
パンドリーをオープンするにあたり、約1年かけて、さまざまなコインランドリーやカフェ併設のランドリーを視察した万福さん。その中で、特に女性は洗濯物を機械に入れたらすぐに帰ってしまうことに気がついたと話します。
「他の家事や育児に時間を使うために、お金をかけてランドリーを利用している人もいますからね。その場に長居する人が少ない現状を見て、カフェではなくパン屋を併設することに決めました」
パン屋を併設することで、常に近くにスタッフがいる”半有人的”な状態になっているパンドリーでは、顧客との会話を大切にするために「いらっしゃいませ」ではなく、「こんにちは」と声かけすることを心がけています。
「お客さんは地域の方がほとんどですね。保育園帰りの小さなお客さんには『おかえり』と声をかけています。地域に溶け込むお店にしていきたいです」
建築にあたって、設計士から工事業者、電気業者や家具製作などを、可能な限り地元の業者に依頼したのも、万福さんの地域への思いからです。
「私はパンドリーの出店場所である平野区加美の出身です。地元でお店をオープンして、地域の人たちからお金を頂くからこそ、まずは地元に貢献することが一番重要だと思ったんです。昔はこの地域もお店が多くて、人通りも多くありましたが、今ではだいぶ減っています。これからは、地域のお店や企業と協力してこの場所でイベントを開催するなど、地域の発信拠点になっていきたいですね」
“エシカルショップ”としての役割も
店で製造・販売しているパンは、国産小麦100%・無添加パン生地で、使用する水にもこだわっています。また、ランドリーで使用している洗剤も植物由来100%の無添加洗剤のみで、合成香料やマイクロカプセルが配合された柔軟剤は使用していません。
パンドリーは地球環境や人、社会に対して配慮されたものを扱う“エシカルショップ”としての役割も持っているのです。
万福さんがエシカルや環境問題に興味を持った背景には、販売スタッフとしても働く、息子の存在がありました。
「息子は高校1年生の時にカンボジアに留学しました。現地の人たちに向けて、仕事を作り出す方法などを企画・提案してプレゼンをするという、ビジネス視点のある留学です。息子から話を聞いているうちに、『いまの子どもたちは、SDGsや環境問題が、大人よりも自分ごとになっているんだな』と気付かされました。しかし、彼らがいくら動こうとしても、まだ力が及ばない部分も多い。それに大人が気がついて、サポートをして一緒に変えていきたいと思ったのが、環境問題などに興味を持ったきっかけでした」
万福さん親子は、SDGsが掲げる2030年よりも更に先を見据えて、「エシカル」に着目し、人や環境に配慮した商品展開を行っています。