帝釈天、大日如来、阿弥陀如来、梵天。段ボールで「仏像顔出し看板」を作り続けるニシユキテンのニシユキさん。宗教や宗派を超えた伝統文化体験イベント「寺社フェス向源」にも度々出展するなど、強烈なインパクトで仏教界にも爪痕を残しています。仏像顔出し看板を作り始めて、もうすぐ10年。2Dの仏像を作り続ける意味や、その思いを聞きました。
段ボールで“仏像体験”を
看板は、2重構造の板段ボールを購入して、下絵の上からアクリル絵の具で描いています。
「初期は、卓球台を買った時の段ボールなど、家にあった大きな段ボールに下絵なしで勢いのまま書いていました。段ボールにも目があるんですよ。作っているうちにそういうことが分かってきました」
段ボールの目を考えないで制作すると、すぐ折り曲がるなど仏像の損傷に繋がってしまいます。ニシユキさんは試行錯誤を重ね、より完成度の高い仏像作りをしてきました。
時々入る注文は、ご本尊をかたどった顔出し看板を作ってほしいというお寺からの注文が多いそう。10年で制作した顔出し看板は、注文を受けたものも含めて約50体にのぼります。
「私の作品は、顔をはめてもらって初めて完成します。仏像を装着することで、その場にいる人たちが笑顔になったり、驚いたり、喜んでもらえる。コミュニケーションの一つとして、そういった空間を作りたいと思いながら活動しています」
イベントでは、誰でも看板に顔をはめて仏像に変身することができるようにしています。ニシユキさんはこれを「仏像体験」と呼んでいます。
「仏像体験は無料です。SNSで見たお目当ての仏像を指名したり、その時のインスピレーションで選んだり、皆さん思い思いの仏像に変身して楽しんでいます」
このほかにもワークショップ、グッズ制作などに取り組むニシユキさん。グッズは夫との手作りです。石粉粘土の仏像ペンや、レーザーカッターと木やアクリル板で作ったスマホスタンド、ハンコ、ICカードケースなど。どれも仏像にちなんだアイデア商品です。
“仏像LOVE”から変身願望に
ニシユキさんは、大学卒業後、美術館や博物館の臨時職員や学芸員などを経験。社会人として働く傍ら、アートイベントのボランティアスタッフとして、裏方仕事を担っていました。
「イベントを手伝ううちに自分も何か表現したいという気持ちが自然と湧き起こりました。変身願望が高じて、最初に始めたのがハチや犬の着ぐるみでした。尻相撲力士の着ぐるみで、新進アーティストの登竜門であるGEISAIにも出展したことがあります」
「着ぐるみ活動を続けていたそのうちに、イベント会場で『私も着てみたい』という人が出てきて。着ぐるみだとサイズがあるため、私しか着られないですが、観光地にあるような顔出し看板であれば、誰でも気軽に変身できるツールなんじゃないかと気がつきました」
そして、その頃出合った仏像を模した顔出し看板作りに没頭するようになっていきました。
「仏像にハマったきっかけは、京都・東寺の帝釈天を拝見したことです。“仏像LOVE”から、仏像になりたいという変身願望へと変わるのに時間はかかりませんでした」
コロナ禍でイベント出展が減少した今。ニシユキさんは顔出し看板を持って、海や山、観光地など各地でロケーション撮影を行っています。
「撮り溜めた写真で、今カレンダーを作っています。来年度の販売グッズに仲間入りする予定です。コロナ禍は自宅で過ごすことが多く、グッズの作成に力を入れることが出来ました。新作もできています」
「仏像とは、私にとって心の中にある戒めや良心のようなもの。誰の心の中にも大切なものがあるように、私の場合、たまたまそれが仏像でした。その大切な仏像になれること。普通ではあり得ないその瞬間を純粋に楽しみたいと思っています」
そんなニシユキさんの作品は、10月8日~9日の高梁川マルシェ2022(岡山県倉敷市にて開催)、10月10日の展示会(岡山県早島町の「いかしの舎」にて開催)でも楽しむことができます。
また、京都市左京区の下鴨神社で開催される「左京ワンダーランド秋祭り@糺の森ワンダーマーケット、「糺の森の博覧会2022」にも出展予定です。