保護された犬猫を里親に譲渡する活動が、香川県内でじわり効果をあげている。2020年度の全国統計(最新)で、犬の殺処分数が8年連続ワースト1だった香川県。その汚名を返上すべく、県と高松市の「さぬき動物愛護センターしっぽの森」では譲渡活動と啓発に取り組む。野良として収容された犬猫が、家庭に引き取られるまでの取り組みと啓発活動を取材した。
人と暮らすトレーニングの場
9月の動物愛護週間に合わせ、しっぽの森を訪ねた。高松市の公渕森林公園内にあり、ドッグランも併設されている。長尾昌憲所長が、全国的にも珍しい「譲渡と啓発」に特化した施設の背景や活動について解説した。
「ここでは、県内5つの保健所に収容された犬と猫を育てています。最低3週間ほどかけて、家庭のペットとして人と暮らせるようにトレーニングして、譲渡されていきます」
希望すればすぐ飼い主になれるわけではない。飼育する際に必要な心構えと講義を必ず1時間受けてもらい、マッチングの場では相性の合う動物と触れ合ってもらう。成犬の場合は、飼育できる環境か確認した上で譲渡する。また、65歳以上の家庭は、後継者がいないと飼えないルールもある。
「不幸な命を増やしたくない」「動物の命に対する意識を高く持ってほしい」という決意が、譲渡ルールに表れている。しっぽの森にはボランティア制度があり、34団体・個人が登録。それぞれ譲渡会などを開いている。
ボランティアごとに年齢制限など独自の譲渡ルールもあるが、命を大切にしたい願いは同じ。長尾所長は「県内各地でマッチングの機会を作ってくれており、ボランティアの活動に支えられている」と話した。譲渡数の約7割が、ボランティア経由で家族を見つけているという。
「猫は普段から見学できますよ」。定数と同じ30匹ほどの猫がゲージに分かれ、寝そべっていた。茶系や黒が目立つ。「かわいいですね」とカメラを向けると、少し怯えたような目になる猫も。家庭で飼える状態になるまでは譲渡会に参加できない。
一方、犬は定数60匹に対し、36匹が暮らす。毎日必ずドッグランや中庭で遊んだり、運動の時間を設けている。スタッフと遊んでもらいながら、成犬がドッグランを跳ねていた。愛情を込めて遊んでもらって嬉しい様子。「おもちゃが気になるね」と長尾所長が声をかけても、遊ぶのに夢中だった。
「野良の状態で確保されているので警戒心が強く、怯えのため攻撃的になることもあります。スタッフに飼育されると、数週間でここを卒業する子もいますが、長い場合は1年以上いることも」
成犬・成猫はもらわれにくい傾向もあるが、「人に慣れているので、飼いやすいんですよ」とアピールするという。長尾所長の言葉からは、どの命も大切という思いが伝わった。
犬の殺処分数は大きく減少
香川県内は、温暖な気候のため野良が子犬でも生きられる環境があり、餌をやる人の存在が加わって、殺処分数ワースト1の背景になっているという。しつけ不足や放し飼い、基本的な知識不足も散見される。
2021年度(速報値)の犬の譲渡数は、1004匹(収容数1420匹)で前年度の1170匹(同1829匹)より減った。コロナ対策で譲渡会の参加者を1回10人に制限しているが、譲渡数への大きな影響はないと考えている。
犬の殺処分数は、20年度の570匹から、21年度は293匹に大きく減少した。ただ、全国統計がそろっていないため、ワースト1を返上したのか分からない。
また、猫の殺処分数は20年度が342匹で、全国では27番目に多かった。21年度は243匹となり、犬と同様に減少している。
「譲渡して終わりではなく、その後もルールが守られているか、アンケートでフォローしています」と渡邉仁次長が説明した。例えば、避妊や去勢の手術を前提に譲った犬猫に、飼い主がきちんと対応したか確認するそうだ。
こうした「しっかり管理」だけでなく、里親同士の交流会やしつけ相談などソフト面にも気を配る。渡邉次長は「最後まで飼ってもらえないと、また野良になったり、不幸な命を増やすことになります。人も動物も幸せになる共生の実現が、私たちの仕事です」と続けた。
オリジナル啓発教材も作成
啓発活動にも力を入れる。小学3年生と中学2年生に向けて、オリジナルテキストを配布しているほか、出前授業も実施。低学年は動物との触れ合いを学び、高学年になると香川県の殺処分が多い実態を教えて原因を考える。
地域の無責任な餌やりを防止することも必須。保健所を中心に、餌やりをやめるよう勉強会を開いたり、意識改善を働きかけている。
2019年3月の開設から3年目を迎えた、しっぽの森。着実に成果を出しているように見える。「実は、しっぽの森は、香川県のホームページで検索ワードの上位なんです」と長尾所長。インスタグラムのフォロワー数は約2400人で、犬や猫の写真を積極的にチェックしているようだ。
殺処分数ワースト1を払しょくする特効薬はない。「地道に」と繰り返した長尾所長の言葉が重く響いた。