意思に反して身体や口が動く「トゥレット症」 症状続くも、‟自立”目指して就活中

意思に反して身体や口が動く「トゥレット症」 症状続くも、‟自立”目指して就活中
チック症とトゥレット症の周知に取り組む、酒井隆成さん

本人の意思とは関係なく、素早い身体の動きや発声が起こってしまうチック症。鼻や喉を鳴らす、声を抑えきれない、汚い言葉を発してしまうといった「音声チック」と、痙攣するように突然体の一部が動いてしまう「運動チック」に分かれるが、この両方が頻繁に、1年以上続くものを、トゥレット症と呼ぶ。
メディアでこの病気のことを公表した酒井隆成さんは、小学2年生の頃チック症に悩まされ始め、小学校3年生の時トゥレット症と診断された。

病気の認知度を高めたくてメディアへの出演を決意

トゥレット症は、脳の神経伝達がうまく働かないために起きると考えられている。根本的な治療法はまだ存在せず、誤解や偏見を受けることも多い。

酒井さんの場合は発症当時、体がむずむずすること以外に目立つ症状はなかったが、年齢を重ねるにつれ、様々な症状が現れ、日常生活が困難になっていった。

例えば、症状が出て文字が上手く書けなかったり、食器を洗いづらかったりと、日常動作で神経をすり減らす。趣味のイラスト描きも精密な動きを要求されるため、症状との相性が悪い。

「1番辛いのは、これらを周りの人になかなか理解してもらえないこと。表面的には行うことができているので、大変さが伝わらない。家族とて、例外ではありませんでした。分かってほしい人にすらつらさを上手く伝えれませんでした」

また、外出先では心ない反応に傷つくことも。

「基本的に避けられ、笑われたり、注意されたりします。病気で出してしまう症状が周りの人に与える影響を自分で理解しているだけに、やるせない気持ちになりますね」

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学生時代は、「ただ面白いから」という理由で笑われたり弄られたりし、子どもながらに世の中の理不尽さを痛感した。

「その時は、心配してくれる友達の心強さも知りました。あの時、味方になってくれた人がいなければ、今のように笑って生活することはできなかったかもしれません」

人に迷惑をかけたくないし、笑われたくない。でも、外に出て活動したい。そんな気持ちや自身の症状を、酒井さんは2019年にAbema TVで伝えた。

「実は、他に出られる人がいなかったというのが1番大きな出演理由でした。病気の特性上、メディアなどで症状を告白するのはハードルが高く、リスクも伴いますが、誰かがやらないと認知度はあがっていきません。認知されなければ、理解は進んでいかないと思ったので、立候補しました」

放送後は誹謗中傷や心ないコメントも寄せられたが、応援のメッセージは多く、酒井さんは当事者の役にも立てたと思えた。こうした経験から、YouTubeチャンネルを開設。自身の日常を伝えるようになった。

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楽しみややりたいことがあれば、症状があっても幸せになれる

現在、酒井さんはCBIT(Comprehensive Behavioral Intervention for Tics)という行動療法のプログラムを受けており、症状は良くなったり悪くなったりを繰り返している。

「ストレスや不安に大きく影響されるので、なかなか症状が安定しません。僕の場合は食事やパソコン作業中など、ストレスがかかることをしている時に症状が悪化しやすく、電車に乗っている時や症状を我慢した後にも強く出ます」

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Abema TVでの取材時は出ないように努力していたが、性器の名称を言ってしまうこともあり、外出先で症状が出そうになるとつらくなるそう。だが、そうした苦しさと長年、向き合い続けているからこそ、酒井さんは同じ病気で悩む人にこんなメッセージを送り、寄り添う。

「挙げ始めたら、きりがないくらいつらいですよね。でも、つらいことだけを考えていると本当にしんどいので、ひとつでも楽しみを増やして、なんとか幸せになってやりましょう! 僕もほどほどに頑張ります」

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そして、我が子にチックの症状がある人には、楽しみに向けて頑張ろうと思える手助けをしてあげてほしいと訴える。

「チックで子どもを叱ってしまったり、見ていると心配でつらくなってしまったりすることも多いかと思いますが、大変なことだけではなく、楽しいことや前向きになれることにも一緒に目を向けてあげてほしい。好きなものを一緒に食べに行く予定を立てるとか、そういうことでもいいと思う。僕からのお願いです」

楽しみややりたいことがあれば、症状があっても幸せになれる。現に、自分は幸せだから。そう語る酒井さんは自立すべく、就活中だ。

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「障害者手帳を持っているので、障害者雇用枠で求職していますが、黙々と作業をすることを求められる職が多く、症状との相性が絶望的に悪いので、実は頭を抱えています」

また、パソコンを使って人と円滑に会話するなどのスキルはあるため、「あなたは能力があるから…」と言われ、障害者に向けたサービスを利用することが難しいことも。

「既存の雇用形態では、限界があるのかもしれません。たらい回しにされている気持ちになることもありますが、就活は始めたばかりなので、これから少しずつ頑張るつもりです」

前を向いて生き、勇気を持って病気の周知に取り組む酒井さん。その生き方がより多くの人に伝わり、トゥレット症に冷たい眼差しが向けられない社会が築かれていくことを願う。

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