夏も秋も「旬」のカキを小豆島の特産物に “獲る”・”育てる”二本柱で支える島の漁業

夏も秋も「旬」のカキを小豆島の特産物に “獲る”・”育てる”二本柱で支える島の漁業
マガキ養殖担当の平見悠真さん

瀬戸内海に浮かぶ香川県小豆島だが、島で生活していると海に囲まれた環境でありながら、地元の魚が気軽に手に入りにくいように感じている。自ら釣りを楽しむ人が多く、アジやタチウオなど旬が来れば、海辺は釣り人で賑わう。友人や知人から魚を分けてもらう機会も珍しくないが、釣りをしない人にとってはスーパーなどで手頃に魚介を入手しにくい側面もある。
疑問を感じ小豆島の漁業の現状を聞こうと、漁師から海産物を買い取り一次加工や販売を手がけている池田漁業協同組合を訪ねると、職員の中村美紀さん、濱田勇さん、平見悠真さんが話を聞かせてくれた。
海上交通の要衝地であったことから、かつては江戸幕府の天領だった小豆島。献上品として、ナマコやイリコ、サワラなどを獲っていたことが文献に残っており、豊かな漁場であったことが伺える。ところが、時代の流れとともに島の漁獲量は減少傾向にあり漁師も減ってしまった。後に海苔の養殖で栄えた瀬戸内海だが、近年は海の浄化にともなう栄養不足で生産量が減っている。そこで、漁師の収入を増やすため、池田漁協が2022年4月から始めたのがカキ(三倍体マガキ)の養殖だ。

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初年度は約1万個のマガキを育て、9月から収穫が始まっている。70グラム以上に育ったものを出荷しているそうだ。出荷数に限りはあるものの養殖が順調だったことから、島内の飲食店や宿泊施設関係者に向けた試食会を始める予定だと言う。年末にはテスト販売的に一般向けの予約販売イベントも検討している。

「観光客に提供される地元の海産物が少なかったので、新たな観光資源になればいいなという思いもあります。三倍体マガキの生産、販売が安定しそうであれば、ゆくゆくは組合員に養殖を促していきたいと考えています。島の漁師の中からカキの養殖をやりたい人が現れることが最大の目的なんです」(中村さん)

すでに島内に一人手を挙げる漁師が出てきたそうだ。

「漁船漁業で『獲る漁業』がメインでしたが、コロナもあって漁獲量も不安定だし、『獲る漁業』だけでなく『育てる漁業』の二本柱で取り組んでいく必要があると考えました」(濱田さん)

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小豆島ブランドのカキが生まれる

夏のマガキは産卵に伴い身が痩せてしまうことで味が落ち、一部地域のものを除いて国内産は流通しなくなる。そこで、質の高いものを通年で出荷できるように、品種改良した三倍体マガキは配偶子が少なく、性成熟期が通常の二倍体マガキと比べ大きくずれるため、子孫を残しにくい特性がある。

そのため、養殖海域に元々いたマガキと交雑個体を残しにくく、遺伝子汚染による地域固有特性が失われることや、これにともなう特定疾病の感染拡大を防ぐことにつながるという。三倍体の技術は種なしぶどうなどにも使われており、産卵でエネルギーを使わない分成長しやすく、理論上でいくと100%三倍体になるので品質も保証しやすい利点があるのだ。

池田漁協の職員たちが北海道や、三重、徳島、福岡、大分で養殖された三倍体マガキと比較して試食してみたところ、小豆島で養殖したものは味が濃厚で磯の香りが強い特徴を感じたと言う。養殖現場での作業をほぼ一人で行なっている平見さんは、産地名を伏せられても、すぐに小豆島産を言い当てることができた。それだけ愛着が湧いているのだろう。「おいしかったですね」という言葉に熱が込もっていた。

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幼い頃から漁師になりたかった

平見さんは祖父が漁師で子供の頃から漁の手伝いをしていたそう。魚がたくさん獲れた時の楽しさを感じ、子どもの頃から漁師になりたかったが母親は反対した。

「高校を卒後する時に親に『漁師になりたい』と話したら『いかん』と言われ、大学卒業する時にまた話したら、やっぱり止められました」

心配した母親は池田漁協に仕事がないか相談していた。タイミングよく三倍体マガキの養殖を始めることが決まり、平見さんは新卒で入社し、養殖担当になった。わずか1、2mmの稚貝からマガキを育てていく楽しさや愛らしさを感じていると言う。生き物を育てるおもしろさにも目覚めつつ、漁が好きな平見さんは今でも休日は漁の手伝いをしている。

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きれいな殻が育つシングルシード生産方式

さて、いったいマガキはどうやって育てるのだろう。詳しく聞いてみた。日本で一般的なのは垂下養殖と呼ばれる、イカダなどからカキを付着させたホタテを吊り下げて養殖する方法だが、池田漁協ではシングルシード生産方式というカゴを用いた養殖方法を取っている。1つのカゴの中に60〜80個の牡蠣を入れ、100カゴほどをロープにくくりつけ、海中に浸しカキを育てていく。

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成長段階に合わせ、別のカゴに分ける作業が必要となる。小さなカキと大きなカキが混在していると、大きなカキに栄養を取られ、小さなカキがなかなか育たなくなってしまうからだ。カキの大きさごとにカゴを分けておくと、収穫時に規格がまとまりやすい利点がある。

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また選別や、バスケットが汚れてきたら洗浄するのも仕事のひとつだ。カゴに汚れがたまると、網目が詰まってカキが酸欠してしまう。洗うタイミングはまだ手探りだと言う。垂下養殖であると、カキの形がバラバラになるので、剥き身用の出荷方法に限られてしまい、収穫後も処理に人手がかかるが、シングルシードでは規格が揃っているので殻付きとしての出荷にも向く。殻にフジツボや藻など付着物がつきにくく、収穫後、水洗いの手間が省け、カキを弱らせる心配も少ないのだ。

島の新たな特産物に

そして9月からは来年に向けた稚貝を新たに養殖し始めているそうだ。「島に牡蠣小屋ができるんじゃないか」「小豆島産のオリーブオイルをかけて食べたらおいしいだろう」と3人と話していると、どんどん夢が膨らんでいく。若手の助っ人があらわれ、今までにないチャレンジに挑む池田漁協。島の漁業に新しい風が吹きはじめている。

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