外を歩くだけでも倒れそうな暑さが続く、お風呂上がりの一杯が最高においしい季節。今回は母方の地元、島根県に「孫ターン」し、石見麦酒(江津市)の社員として、地域の人々に寄り添うビールづくりをしている元JICA海外協力隊の和田谷光輝(わだたにみつてる)さんに話を聞いた。
目の前の人の気持ちに向き合う
大学時代に初めて行った韓国への海外旅行をきっかけに、海外って面白いな、いつか海外で働いてみたいなと思った和田谷さん。学生時代はいろんな文化や人に触れるため、貯金をしては海外旅行に出かけたそう。就職活動も仕事を探すためというわけではなく、「大人の人と喋るチャンスだ!」と思って取り組んでいたとのこと。
大学卒業後に地方の信用金庫の営業マンとなり、個人や地元企業の相談など、新入社員なりに目の前の人と向き合う仕事をしていた。
数年間営業マンとして働いた後、母親の地元であり、子どものころから大好きだった島根県西部に孫ターンし、地域おこし協力隊として一年間活動を行った。
共に過ごした市民とは、今でも付き合いがあるという。和田谷さんは、「僕は人に恵まれている。してもらった分は恩返ししたかった」と笑う。
パラグアイの日系社会で何でも屋!
その後、和田谷さんはJICA海外協力隊に合格し、学生時代からの念願の海外で働くことになった。
パラグアイ初の日系人移住地、ラ・コルメナに派遣された和田谷さんは、小中学校での環境教育や特産フルーツの国内PRや加工、植林、日系移住80周年式典関連の仕事などを行った。
これまでの経験で培った、人と向き合うという特技を生かし、コミュニティ開発隊員として、住民に寄り添いながら自分のできることはなんでもチャレンジした。
赴任先のラ・コルメナは、初めて日本人が移住をしてから80年たった当時でも、古き良き日本の文化が色濃く残っていたと振り返る。
日系人たちが暮らすエリアの為、活動期間中、野菜や豆腐にも困らなかった。日本人の持ち込んだ野菜を食べる習慣は、もともと野菜を食べる習慣があまりなかったパラグアイ人の食生活にも影響を与えているそうだ。
パラグアイで共に過ごした人たちとも、家族のように今でも連絡を取り合っている。
ビール造りで人と人をつなぐ
帰国後は京都で地域活性化に関連する仕事を経験したのち、再び第二の故郷である島根県大田市温泉津町へ。
そして江津市の石見麦酒へ入社し、4年目の今では生産、商品開発、在庫管理、ネット注文の発送対応など多岐にわたる業務を担っている。
中でも、地元の団体、温泉津女子会と企画した「温泉津ビール」は、年間1万本を売り上げる人気商品。材料選びから、試飲会まで温泉津女子会のメンバーやその家族なども巻き込んで、同じ目線に立ち商品を開発した。
地元の人たちから、「温泉津のお土産ができた」「和田谷さんおらんかったらできんかった」と声をかけてもらえたことが、喜びやモチベーションとなっているそう。
和田谷さんは仕事をするとき、一緒に仕事する人のことをよく観察するようにしているという。時間を共有し観察する中で、どのような思いで取り組んでいるのかを感じ取り、その思いに共感する。そのようにして、より密に関わることで、きめ細やかなフォローや提案ができるのだろう。
また、島根県津和野町に在住のJICA海外協力隊経験者とも、津和野の湧き水やシークワーサー、はちみつなどを使った商品を開発。これまでの様々な人脈や経験がおいしいビールを造り出し、人と人をつなげ、地域を盛り上げている。
今までかかわってきた人に恩返し!
あくまで自分がやっているのは、関わってくれた人への恩返し。それが自分に唯一出来ることだと、仕事観を語ってくれた和田谷さん。
地元の素材で地元の人たちとビールを造るだけではなく、パラグアイフェスティバルへの出展で得た収益を日本語学校に寄付するなど、地域と世界をも繋ぐ。これからもビール造りを通して、かかわる人に寄り添いながら、恩返しができればと笑顔で語ってくれた。
石見麦酒のビールたちをどんな風に楽しんでほしいかを聞いてみたところ、「モルトの味わい、ホップの苦みだけでなく、アクセントとして使用されている地元素材を楽しんでほしい!そして、できれば島根にきて、味わってほしい!」と、ビール愛と島根愛を語ってくれた。
取材をした岡山県JICAデスクは先日島根を訪れた際に石見麦酒のシードルを購入。島根旅の途中に購入したそば粉やキノコでランチを作り、島根に思いを馳せながら週末を過ごした。
その土地の香りを楽しめるクラフトビール。和田谷さんのような思いを持った人たちがあなたの地元にも、ちょっと足をのばした先にもきっといる。大人の皆さんはぜひ直接味わって、その土地に、人に、思いを馳せてみてほしい。