息子の欲求に母が応える例も…障害者の‟性の課題”解決へ「自分にできることを」

息子の欲求に母が応える例も…障害者の‟性の課題”解決へ「自分にできることを」
様々なメディアで障害者の性への理解を訴え掛けている小西理恵さん

人間として生きているならば、あって当たり前の「性欲」。しかし障害があるというだけで、ないがしろにされたり、あってはいけないもののように扱われたりする現状が、世間にはある。
小西理恵さんは、そんな現状を変えるべく活動している。障害者の性の課題に向き合う一般社団法人「輝き製作所」を設立。障害者専門の風俗店で働いた経験を生かして、障害者専門の風俗店を運営しながら、どのような障害があっても、自然にある性的欲求が満たされるような社会を目指し、奮闘している。

直面した「障害者の性」の課題

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自分たち姉妹を育ててくれた祖母の介護を機に福祉の仕事がしたいと思い、資格取得のために学校へ通った小西さん。その時、クラスメイトに誘われて障害者のグループホームを見学しに行ったことが、障害者の性について考えるきっかけとなる。そこには、「何も楽しくない」という言葉を口にする利用者たちの姿があった。

過去に風俗店での勤務経験があった小西さんは、率直に「異性関係や性的なことも楽しくないのだろうか」と疑問に思い、障害者の性サービスについて調べることに。すると、障害がある人の性に関するケアが福祉の中にないことを知り、大きな衝撃を受けた。

驚いた小西さんは、大阪にある障害者専門の風俗店に勤め、障害者の性に関する現実を知ろうとした。そこで分かったのは、自力で来店したり、予約をしたりすることができない障害者は、そもそも性サービスを受けること自体が難しいという不平等な現実。

これは、真剣に取り組まなければならない問題だ。そう考え始めた時、ある親子の話を耳にし、さらに心が痛んだ。

「知的障害がある息子さんの性の欲求に、お母さんがご自身のお体で応えていらっしゃるというお話を伺いました。おひとりで頑張るお母さんが今もどこかにいらっしゃるなら、自分にも何かできないかと考えさせられたんです」

人間らしく生きてほしい

障害者の性に関する問題は当事者だけでなく、家族にとっても深刻なもの。どこからでも見つけてもらえるような看板を作らなければならない。

そう考え、小西さんは2020年9月1日に一般社団法人「輝き製作所」を設立。YouTubeを活用して障害と性に関する講演活動や性教育についての提案を行ったり、カウンセリングを通し、当事者が必要とする性風俗サービスの紹介などを請け負ったりするようになった。

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カウンセリングで尋ねるのは、当事者がどういった困り事を抱えていて、どんなサービスを希望しているのかということ。障害者の中には、小西さんの活動を通して初めて女性と触れ合う人も多く、「僕は障害者だから性を楽しめないと思っていた」や「夢みたい」「やっと思いが叶った」という声が寄せられたこともあるという。

その一方で性に関する取り組みはタブー視されやすく、周囲の理解が得られにくいことも。実際、「リスクがあるから、性に触れてほしくない」といった意見が届いたこともある。

だが、リスクが伴うことだからこそ、小西さんは「どうしたら、本人の思いを安全に実現できるのか」を一緒に考え、行動してくれる人が日本全国に増えて欲しいと願っている。

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「みなさん、それぞれに価値観やこれまでの人生の中でのご経験がありますし、性について良いイメージがない方もいらっしゃることは当然のこと。けれど、『私とは違うけど、あなたはそんな思いがあるんだね』と他者の思いも尊重できる世の中になれば、もっと生きづらさを抱える方が少なくなるのではと考えています」

どんな心や身体をもつ人でも、心や体が満たされたいと思うのは当たり前の欲求。その気持ちには男女差もないため、小西さんは女性に向けての性の発信にも力を入れ、YouTubeライブで性について話ができる機会を設けたり、必要に応じて女性専門の風俗店を紹介したりしている。

「妊娠や出産などにも関わるので、ご自身の心や身体を守るためにも、女性にとっても性は重要なこと。まだまだ女性からのお声は少ないですが、声をあげにくい方が少しでも接しやすいと思って頂ける団体であり続けたい」

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当事者はもちろん、その家族が感じているもどかしさの解消も目指す小西さん。その活動は、心や体がどんな状態であっても人間らしく生きることの尊さを教えてくれる。

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