JICA海外協力隊として、アフリカ大陸南東部に位置するマラウイ共和国で活動した田村美津子さん。帰国後は、技能実習生と関わりながら地域の活性化につながるようなイベントを企画。現在は地元香川県さぬき市を拠点に活動をしている田村さんに話を聞いた。
幼児教育の経験を生かして協力隊へ
「英語は大の苦手。外国人が歩いてきたら避けてたんよ」親しみやすい人柄で冗談交じりに話す田村さんは、幼児・小学生を対象とした教育事業に14年間従事した経験がある。ある日、偶然手に取ったJICA海外協力隊のパンフレットが応募のきっかけだと話す。協力隊経験が2度あり、派遣国はどちらもマラウイ共和国。
1度目は幼児教育の経験を生かして、現地のNGOで子どもに対する衛生面の指導や先生たちの保育技術の向上、指導者の育成、また、マラウイ国内に300程ある施設への巡回指導や、母親学級での識字率向上など毎日試行錯誤の中で取り組んだ。活動をしていると個人では解決できない多くの問題に直面し、この国には教育も大切だがお金も必要と考えるようになったという。そこで、村の母親たちと手芸クラブを立ち上げアフリカ布を使った小物を製作し、観光客向けの土産として販売、収益につなげた。
2度目の赴任時は、前述の販売実績を買われOVOP(※)の専門家らと共に養蜂組合にて、職務改善や品質向上、マーケットの拡大に努めた。
(※)OVOP(One Village One Product movement:一村一品運動)とは、地域の資源を生かした農産品や特産品を域外にも通用するよう育てていこうと、地域の住民が主体となって行う運動。
マラウイ永住のために幼稚園を開園
協力隊としての任期後もマラウイを定期的に訪れ、貧困家庭に無償で食糧や学資の支援を行う団体を立ち上げ、幼稚園(SKY Kids Academy)を開園した。「実はマラウイに永住したかった。でもそうなると現地で何かビジネスをしないといけない、どうしたら日本人の私がここで生活できるのか」悩んだ末に目を向けたのが、教育分野だった。当時のマラウイ国民の所得は高くないが、子どもを幼稚園に通わせる風潮が高まっており、これなら自分の知識や経験を生かすことができると協力隊時代の現地同僚と開園に至った。今では幼稚園部、小学部あわせて80名程の生徒が学んでいる。
帰国中に感じた衝撃と実状
ところが、久々に地元香川県さぬき市に戻った際、「このままでは香川県、いや日本がやばい!」と感じたという。運転免許の更新に行ったら高齢者しかいない、街中で若者を見かけない、活気がない。しかし当時、事業を立ち上げる実力や経験、お金もなかった。マラウイでの事業を続けつつしばらくして新たに訪れた転機が、現在の勤め先ヒューマンリング協同組合との出会いだった。
ヒューマンリング協同組合とは、インドネシアやベトナムからの技能実習生の受け入れをサポートする監理組合。田村さん自身、当時は技能実習生に対して少し偏見があったそうだ。「マスクをして帽子を深くかぶり、街を自転車で一列になって走る彼らは一体何者?何をしているのだろうと思っていました」
しかし実際に自分が関わり始めて、彼らが日本、特に地方においてとても重要な存在だと気づき、もっと彼らや彼らの可能性を知ってもらいたいという気持ちになった。「以前はSNSも今ほど発達していなくて、日本語教室を実施するとそこは実習生にとって情報交換の場となり、リフレッシュできる場になりました。彼らと話をしていたら、こんなに才能がある人材を生かさないともったいない!と感じるようになりました」技能実習生に対する熱い思いと、地元さぬき市をもっと盛り上げたいという地元愛を感じる言葉だ。
多文化共生への取り組み
技能実習生のSNSには「働いている価値って何?」といったリアルな声が飛び交っているという。地域と関わらず日本人との関係が希薄になれば、彼らは将来的に他国を選び、使い捨ての状況が起こると田村さんは危惧する。そんな状況を少しでも打破すべく、技能実習生をはじめ在住外国人の人たちのパワーを借りて、世界とつながるワクワクを共有できる体験イベントを地元で実施したいと田村さんは企画、運営に精力的に取り組む。
「KAGAWA INTERNATIONAL ART COMPETITION 2022」はその取り組みのひとつで、2022年で3回目を迎える。香川県在住の外国人が制作する優れたアート作品を広く香川県民に紹介し、県の多文化共生を推進することが目的。また、今年から始める「すなはまフェスティバル2022」は、さぬき市津田の松原・ふるさと海岸で開催するSDGsの目標達成を意識した地域活性化イベントで、田村さんが実行委員長となり現在準備を進めている。
将来的には、ヒューマンリング協同組合での出会いを生かして、さぬき市津田を香川県東讃地区の多文化共生の拠点にしたいと考えている田村さん。また、母国に戻る実習生と一緒に世界でSDGs事業を展開したい、自身の活動の原点でもあるマラウイ共和国からの人材を日本で受け入れたい、と意気込む。