箱形の本棚スペースを借りれば、誰もが小さな本屋になれる「シェア型書店」が各地に増えている。全国に広がったこのシェア型書店の考案者が、大阪市阿倍野区にある「居留守文庫」店主で、シェア型書店の元祖「みつばち古書部」と二号店「書肆七味」の運営を行う、岸昆さんだ。
シェア型書店の源流「みつばち古書部」
「雑貨を販売するレンタルスペースは過去にもあったんですが、本の専門はみつばち古書部が最初です。出店者に店番を任せて『日替わり店主の古本屋』として営業するアイデアが支持され、各地に広がったんだと思います」
2013年に岸さんが始めた古書店「居留守文庫」の中に設けた委託本コーナーが、シェア型書店のルーツである。
「最初は友人から預かった本だけでしたが、徐々に一般のお客さんから出品したい人が現れ、コーナーが拡大していきました。棚貸し書店の原点ですね」
みつばち古書部のオープンは2017年7月。商店街の空き店舗のオーナーから「本屋を作らないか」と相談を受けたのが誕生のきっかけだ。本棚の代わりに作った104個の木箱がハチの巣のように見えるため、「みつばち古書部」と名付けた。
店にかかる家賃と人件費が気がかりだったが、木箱1箱ごとに出店者を募り日替わりで店番を任せる仕組みを考えた。
出店者は店番をする日に自分の本が売れたら、売り上げの9割を受け取り1割をみつばち古書部へ納める。店番をしない日は7割で、残り2割を当日の店番、1割をみつばち古書部と売上を分け合う。これなら出店者が負担する月額550円の使用料(1箱)と全体売上の1割で、家賃・光熱費をまかなえる。
1箱につき月に1回店番ができるので、2箱以上借りる出品者も多い。兵庫県芦屋市の風文庫、大阪市阿倍野区のヴィスナー文庫など店番を経て本を売る側の楽しさを知り、自らの店舗を持つ出店者も増えている。
運営者としての課題とメリット
各地にシェア型書店が誕生しているが、岸さんは続けるためには課題が多いと感じている。
「出店する人は軽い気持ちで始めてもいいんですが、運営者はいかに継続させるかが課題です。“書店”の屋号がついてますが、本を売る仕事とはまた別の経営感覚が必要です。出店者の面倒を見たり細かな調整をしたり、本を売る以外の仕事が多いですから。学校の先生みたいだなってよく思います」
何度も足を運んでもらえるように店のクオリティーは一定に保ちたいが、出店者への研修や育てるシステムがあるわけではない。続けられているのは出店者と客の力が大きいという。
「こういう店だから緩い感じでもいいんだなってお客さんが受け入れてくれています。今まで大きなトラブルもなかったし、やってしまえばできるんだなっていう気持ちが大きいですね」
古書店にとって重要なのは仕入れ。居留守文庫は古書組合に入らずに、客からの買い取りで古本を仕入れている。客が古本を売りに来る店になるためには、知名度とイメージの良さが必要だ。みつばち古書部と書肆七味の取り組みが居留守文庫の知名度アップにつながり、買い取りが増えている。
「安定的な仕入れにつながっています。目に見えない部分ではあるけど、その点は大きなメリットだと思います」
2022年8月時点でみつばち古書部には83組、書肆七味には55組の出店者がいる。出店者は現在も募集中だ。小さな本屋を始めてみたい人はぜひ訪れてほしい。