8月9日はシンガポールの独立記念日だ。1965年にマレーシアから独立したシンガポールは、毎年この日になると国をあげて国家の独立や発展を盛大に祝福する。国民は独立記念日をどのように捉え、過ごしているのか。日本在住シンガポール人で、東京都足立区でシンガポール料理店を営む並木マークさん(以下マークさん)に話を聞いた。
独立記念日は自分の国を愛する日
シンガポールでは、独立記念日になると街のいたるところに国旗が掲げられ、国旗カラーである赤と白の服を着た人で賑わう。
「“We love Singapore”という気持ちになれる。独立記念日は自分の国を特別に愛する日です」
独立記念日のメインイベントは、ナショナルデー・パレードだ。戦闘機による航空ショーや、企業や軍隊が行進するマーチングなどさまざまなプログラムが国民を熱狂させ、最後はマリーナベイ・サンズを背景に花火ショーで締め括られる。
「私の家では、家族や親戚で集まってパレードのライブ中継を見たり、郷土料理を食べたりして過ごします。親戚みんなでマリーナベイ・サンズに泊まって、ホテルの窓から花火ショーを見たのは一番の思い出ですね」
独立記念日のシーズン中、現地の小中学校でも学校独自のパレードが開催される。
「シンガポールの学校には、ユニフォームグループス(※)という学生規模の軍隊や警察団体があるのですが、パレードの1~2か月前になると各団体で行進や演奏の猛練習が始まります。毎年作られる独立記念日のテーマソングを覚えて、全校生徒で国旗を振りながら歌ったりもしました」
(※)シンガポールの小中学校で、教育の一環として参加を推奨されている部活動のようなもの。ボーイスカウト、警察音楽隊、軍事士官候補生など、リーダーシップの育成や地域への奉仕を目的にした9つの団体が存在する。
国の成長を誇りに
シンガポールは独立前、土地も資源も乏しく生き残れないとまで言われていた。そんな国が独立して57年たった今、アジアのハブとして世界に欠かせない存在となっている。
「独立記念日になると、シンガポール人であることが誇らしくなります。イギリスの支配や日本による占領で苦しんできたこと、電車も団地もない途上国だったこと、独立後も民族間の争いが絶えなかったことなどを幼い頃からずっと学んできました。だからこそ、今のシンガポールを見て『シンガポール、強いなあ』って思いますね。実際にそれらを経験し、国や街の変化を目の当たりにしてきた私の親より上の世代は、特にその思いが強いように感じます」
ナショナルデー・パレードでは、戦闘機による航空ショーや最新鋭の戦車の展示など、軍事力を披露することも注力されている。シンガポールが自国の軍事力を誇っているからだ。
「軍事力を強くすることで国を守り、外国との協力関係をつくってきました。小さな国だけど、他の国に負けない軍隊の強さがある、争いのない平和な世界をつくっていこうというメッセージが込められているんだと思います」
日本で祝う独立記念日
2017年に日本にやって来たマークさんは、東京・足立区のホテルに約3年勤めた後、2020年12月にシンガポール料理レストラン「LITTLE MERLION」を同区の西新井にオープンした。日本ではどのようにシンガポールの独立記念日を過ごしているのだろうか。
「シンガポール大使館主催の独立記念日パーティーに何度か行ったことがあります。在日シンガポール人がホテルのパーティー会場に集まって、シンガポール料理のブッフェを楽しむんです。長く日本に住む人にとっては故郷を思うことのできる最高のイベントです」
マークさんの運営するLITTLE MERLIONも、在日シンガポール人にとっては故郷を懐かしむ場だ。「東京にある小さなシンガポール」と客の間で評判が高い。
「妻の実家で伝わるレシピをもとに、エビラクサやナシレマクなどの現地の定番メニューやB級グルメ、オリジナルドリンクを出しています。シンガポール人のお客さんが来た時は現地のラジオをかけたり、シングリッシュ(シンガポールで話されるなまりが混じった英語)での会話が飛び交ったりしているので、『この店に来ると家に戻った気分になる』と言われますね」
わずか数十年で小国から国際ビジネスの重要拠点にまで成長したシンガポール。独立記念日の盛り上がりや世代を超えて歴史が語り継がれる様子から、国の独立や成長がどれほどすばらしく、誇らしいことかが伝わってきた。