10分で予約ストップ、群馬のぐんまンゴー 元介護士が始めたワケ

10分で予約ストップ、群馬のぐんまンゴー 元介護士が始めたワケ
群馬で育てられる「ぐんまンゴー」

予約殺到のマンゴーが群馬県にある。名前は、ぐんまンゴー。糖度と酸味のバランスがよく、食べると濃い甘味が口いっぱいに広がるのが特徴だ。2022年は予約が開始10分で受付ストップとなった。収穫後に在庫がある場合には追加で販売を行うが、それにしても予約のなくなるスピードが早い。そんなぐんまンゴーを育てているのは、元介護士の柳田皓治さんだ。

マンゴーと柳田さん
マンゴーと柳田さん

柳田さんは介護士時代、職場の園芸活動で年配の入居者や職員の笑顔が増えていくのを見て、「植物には不思議な力がある」と思い、農家への転職を決意。栃木のマンゴー農家に弟子入りし、実家の使われていない農地でマンゴー栽培を始めた。

マンゴーと言えば、南国の果物だ。冬場に最低気温が0℃を下回る群馬では育ちにくい。柳田さんはどうして群馬でマンゴー農家になることを選んだのだろうか。話を聞いてきた。

見学したその日に弟子入り

マンゴー
マンゴー

柳田さんが、農家を始めるために最初に行ったのがインターネットでの検索。鉢植えの果物を探していると、栃木のマンゴー農家がヒットした。

「マンゴーは好きですし、寒い栃木で育てているのが気になり、話を聞いてみようと決意。見学に訪れたら、農家の方の熱量が高くて。『暖房を使えば寒くてもマンゴーを育てられる』と教えてもらい、『マンゴーはいいぞ!!』と勧められるうちに気分が乗って、見学したその日に弟子入りしました」

プロの熱量ある話は、心を動かす。師匠に背中を押された柳田さんは、介護士の仕事をしながらマンゴー農家の道を歩み出す。

「弟子入りして、農園を作るまではとんとん拍子でした。師匠は面倒見もいいので、農園の資材からマンゴーの苗木に至るまで業者を全て紹介してくれて。マンゴー栽培についても、週に何回も電話をかけ、時には現場に赴いて教えてもらいました」

師匠の支えもあり、柳田さんは無事にマンゴー農家を開始できた。しかし、果実の収穫を迎える時期に大きな問題に直面する。

漢方を使った農法との出会い

マンゴーの鉢植え
マンゴーの鉢植え

マンゴー栽培を始めて2年目。はじめての収穫を控えた柳田さんの農園では、感染症が蔓延していた。

「1年目から2年目にかけて、かいよう病という感染症が発生しました。枝ではなく樹をすべて枯らしてしまう病気です。毎日少しずつ枝が枯れていくんですよ。薬剤を散布するしかないのですが、果実にかからないように散布する必要があって。心身ともに限界でした。はじめての収穫前に感染症は止まりましたが、200個以上の枝が枯れて、300個以上の果実がダメになりました」

柳田さんがはじめての収穫で販売したマンゴーは約600個。収穫予定の1/3が感染症にかかり、販売できなかった。そして、専業農家になった3年目には農薬で対処できない害虫の問題が起こり、さらに頭を悩ませることになる。

「3年目には害虫の問題が発生しました。色々な農薬を試しましたが、うまくいきませんでした。農薬を撒くことで耐性ができてしまうんですよね。農薬が効きにくくなったり、異常繁殖したりしました。正直、参りました」

害虫との闘いに苦戦していた柳田さん。ある日、客から漢方を使った農法を研究している先生がいると教えてもらう。その農法とは、『漢方未来農法』と呼ばれるものだった。農薬や化学肥料の代わりに漢方生薬を使う栽培方法だ。農薬と化学肥料で問題に対処しきれなかった柳田さんは、漢方環境安全対策普及協会の星野英明さんのもとを訪れ、やり方を教わった。

「植物の性質をみて、先生が漢方の提案と調合をしてくれるんですよね。調合してもらった漢方を、さらにブレンドしたり、発酵させたりしました。もちろん先生に教わりながらです。樹と土壌に散布して育てていくと、不思議なことにマンゴーの生命力が上がり、害虫も病気も少なくなりました」

土

さらに、漢方でマンゴーを育てていくと、味にもいい影響があったという。

「マンゴーの味は、糖度と酸味のバランスで決まるのですが、どうやって品質を向上させるか悩んでいました。というのも糖度を上げる方法はわかっていましたが、酸味を上げる方法がわからなかったからです。漢方未来農法に切り替えると、農薬を使わなくなったおかげか、マンゴーに酸味がのってきたんですよね。おそらく土壌にできた生態系の影響と思います。食べたときに甘さと濃さを味わえるマンゴーになりました。スイカに塩をふると甘く感じるのと同じ原理ですね。酸味のおかげで甘さが引き立って、健康的でいいマンゴーを作れるようになりました」

群馬でマンゴー農家の輪を広げていきたい

柳田さん
柳田さん

600個から始まったぐんマンゴーの収穫量は、8年目を迎えて3000個〜4000個になった。リピーターや新規の引き合いも多く、予約分はすぐに完売。年々大きくなるマンゴーの需要へ応えるために、柳田さんはもっと農家の輪を広げていきたいと考えている。

「8年マンゴー農家をやっていますが、群馬でマンゴー農家を始めた人は僕以外にいません。マンゴーの収穫には最低でも2年かかりますし、育てるのも難しいので、仕方がないとは思います。ただ、引き合いも多く、まだまだ広げられると思うんですよね。安定生産が第一ですが、将来的にはマンゴー農家を増やしたり、この地域で新しく農業に就いた人たちと繋がって、何かをやりたいです」

微笑みながら話す柳田さんは、群馬の地で着実にマンゴーの文化を耕していく。

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