先日、フィリピン政府は日本の小売業団体に対し、フィリピン産バナナの値上げに理解を求める申し入れを行った。 ウクライナ情勢や新型コロナウイルスの拡大で生産コストや輸送費が大幅に高騰し 、安定的な供給が出来なくなっていることが主な要因だ。
異例ともいえるバナナの値上げ。サルを飼育している現場ではどのような影響があるのだろうか。愛知県にある公益財団法人日本モンキーセンター飼料担当の星野さんに話を聞いた。
日本モンキーセンターは約60種800種類のサルのなかまを飼育する世界屈指の規模を誇る動物園だ。多くのサルの仲間たちが飼育されているとなると、大量のバナナを消費するのではないかと思っていたが、実情は少し違うようだ。
「バナナをエサとして与えることはありますが、皆さんが想像するより少ない量だと思います。一般に流通するバナナは人間が食べる為に甘く品種改良されているので、サルに与え過ぎるとカロリーが高過ぎてしまい健康に影響があることが分かってきました」
サルといえばバナナのイメージが強いが、健康管理として動物園では多くのバナナを与えないという。
「とはいえ、サルたちはバナナが嫌いなわけではありません。サツマイモや葉物野菜に少し混ぜたり、サルたちに薬を飲ませるためにバナナに薬を埋め込み食べさせたりしています。日本モンキーセンターでは、糖度の検査のために開封した売り物にならないバナナを安く買っているので、今はまだ値上がりの影響は受けていません。ですが、今後影響が出てくるのではないかと心配です」
サル達のエサ代だけで年間予算は1600万円ほどかかるというが、バナナ以外のエサは値上がりが始まっている。
「小麦を含む固形飼料は今年に入り一袋あたり300円ほど値上がりしています。年間で50万円の値上がりです。サツマイモや葉物野菜なども同様に値上がりしているので影響は大きいですね」
特に梅雨シーズンの今は果物もあまり安く出回らず、エサの調達に苦労しているという。サル達の為にも、食生活は犠牲にしたくないと星野さんは話す。止まらない値上がりに何か対策はあるのだろうか。
「カットフルーツやカット野菜を製造する工場に声かけをして、パイナップルの芯や野菜の廃棄してしまう部分を譲って頂いています。また、近くの農家さんやお客さんから寄付という形で野菜やフルーツを頂くこともあり有難いです」
サルがバナナを食べるというイメージは人間が作り上げたもので、サルの食性がわかってきた昨今は積極的に与える動物園は少ない。本来、野生のサル達は木の葉や種子、花の蜜、果物、昆虫、など種類によりさまざまな物を食べる。バナナのような高カロリーな果物は必ずしも良いエサだとは言えないようだ。
日本モンキーセンターでは、野生のサルと同じような食生活を送れるよう試行錯誤しているというが、このまま値上がりが続くと厳しい状況になるという。
人間にとってもサル達にとっても、値上がりは生活に直結する問題だ。