改正動物愛護管理法により、2022年6月から犬猫販売業者へのマイクロチップの装着と情報登録が義務化されるなど、近年は小さな命の守り方を考える機会が増えている。
Y.I(匿名)さん宅で暮らす5匹の猫のうち、ちゃいくん(ミックス/4歳)、 らうくん(ミックス/3歳)、はうくん(ミックス/3歳) も飼育放棄を経験。
3匹はひとつの部屋で不自由な暮らしを強いられ、希望を失っていた。
愛情不足の兄弟が人を好きになってくれるまで
3匹の元飼い主は、おばあさんとその孫。Y.Iさんはある日、元飼い主の親族から、猫が外に逃げ、妊娠してしまったことを聞き、生まれたちゃいくんを譲ってもらった。
ちゃいくんは元飼い主の家で初めて生まれた猫であったため、孫がかわいがることはあったものの、食事以外の必要なケアはされていなかったそう。
2匹の親猫とちゃいくんたち4匹の子猫は、孫の部屋でのみ生活。用意されていたトイレはたったひとつだったため、猫たちはトイレを使わず、ベッドの上でおしっこやうんちをしていた。
「それでも、消臭剤をかけて対処していたようでベッドは常に湿った状態のような感じで、部屋は汚くて臭かったと親戚の方が仰っていました」
引き取った直後のちゃいくんは身体中ノミだらけで下痢やくしゃみ、目やにも酷かったという。
「ちゃいは肌が弱いので、飼育環境が悪いことからアレルギーでくしゃみが出ていたようです。我が家に迎えて3~4か月経つと、くしゃみは全くでなくなりました。あと、下痢の原因は、お肉アレルギーだったことも判明しました」
そして、元飼い主宅ではその後、違う飼い猫が妊娠。生まれた子猫は自宅で飼うことが難しく、里親も見つからなかったため、遺棄されてしまった。
それからしばらく経ったある日、またしても、ちゃいくんの母猫が妊娠。Y.Iさんは、次こそは生まれた4匹が捨てられないようにと保護を申し出て、らうくんとはうくんをお迎え。他の2匹は、知人宅で育てられることとなった。
「この子たちもノミだらけで目ヤニやくしゃみがひどかった。怪我の治療もされていませんでした。ちゃいと同じく、ご飯は与えられていましたが、トイレはやはりひとつしかなくて、食事やトイレはベッドの上だったようです」
先住猫がいたため、Y.Iさんは迎え入れて1週間は猫たちをケージに入れ、隔離。
はうくんとらうくんは、人を怖がり怯えた顔をしていた。
「親族の方によれば、お孫さんは彼氏ができると夢中になってしまい、猫たちの世話をせず、まともに家にも帰っていなかったそうです。見かねたおばあさまが世話をしてはいたけれど、猫たちの数が多すぎて面倒を常に見ることが難しく、ご飯をあげるだけで精一杯だったようです」
人を怖がる2匹の姿に胸を痛めたY.Iさんは「大丈夫、怖くないよ。幸せになろうね。幸せにするからね」と声掛け。接する時は怖がらせないよう、なるべく目を合わせないことを心がけた。
すると、家に来て4日目。らうくんとはうくんは甘え鳴きをし、お腹を見せてゴロゴロと喉を鳴らしてくれた。嬉しく思ったY.Iさんは、その後も愛情持ちながら3匹とスキンシップ。その結果、3匹とも、甘えん坊でかまってちゃんな人好きにゃんこになってくれた。
小さな命の尊さ
「現在、我が家には5匹の猫がいますが、ちゃいたち兄弟はみんなと仲が良く、他の2匹とも運動会やイタズラをします」
誰かひとりでも構われていると、5匹の猫たちはY.Iさんのもとへ集合。「かまって」「なでて」「お腹がすいた」など、たくさんおしゃべりをしてくれるのだとか。
「でも、ちゃいたち3兄弟は、ニャーンとは鳴きません(笑)ちゃいは『アラーン』か『オカン』で、らうは『ワン!』、はうは『ニャニャー』や『キャッキャ』です」
そんな風に、人に心を許してくれるようになった愛猫の姿を目にするたび、Y.Iさんは小さな命の尊さを痛感し、終生飼育の大切さを噛みしめる。
「かわいいからという理由だけで安易に飼ったり、生まれてくる命を育てられないのに不妊手術を行わなかったり、飼えないからという理由で簡単に手放したりするのは、命を物のように扱っていると感じます」
人間と同じく、動物も命ある生き物。最期まで責任を持って、育ててほしい――。そんなY.Iさんの言葉は「ペットブーム」という言葉が使い古されるほど浸透した今、重く響く。
警戒心ゼロな姿で眠れるようになった3兄弟は、きょうも1日を楽しみ尽くしながら生きている。