「もっとこの活動を知ってほしいですね」
そう語るのは、すべての子どもが学びの機会を得て、自己実現に向け挑戦できる社会を目指す認定NPO法人Kacotam代表の高橋勇造さん。「虐待や貧困、障害など、困難を抱える子どもたちに学びの場を提供する」をミッションとし、北海道で、札幌市内や江別市、苫小牧市などで拠点を構え、複数の各教科の学習支援をしています。他にも料理教室や英会話、自然体験学習、プログラミングなどの体験学習、キャリア学習など様々な学びの場を提供し、環境による学びの機会格差をなくそうと活動しています。
青山学院大学で、超伝導の研究をしていた高橋さん。大学3年生の時、就職活動中に、『チェンジメーカー』という本に出会いました。そこで、「資金を集めるのが難しい社会起業家を、公認会計士としてサポートしたい」と考え始めた高橋さん。その後、北海道大学大学院の経済学研究科を専攻し、会計について学び始めます。
そして大学院1年生のとき、社会起業家を世間に知ってもらうイベントに参加。今度は、「支援ではなく自分自身が社会問題を解決する側として関わっていきたい」と思うようになり、「児童福祉」や「教育」の分野に関心を強めていきました。
成長を間近で見ることができる喜び
教育について知っていくなかで、環境によって学習の機会に差がある子どもたちの現状をなんとかしたいと考えるようになった高橋さん。一般企業に勤めながら団体を立ち上げ、規模を大きくするためボランティアサイトでスタッフを募集。すると、高橋さんの思いに共感した希望者が20人も集まりました。
そしてさらなる規模拡大のため、勤めていた会社を退職。「上司から“もうその活動自体を辞めるべきだ”と言われてしまいましたが、家族や友人からは応援してもらえましたね」と笑顔で語ります。その後も金銭面の問題に悩まされることもありましたが、周囲の助けもあり乗り越えていきました。
「この活動は10年目に突入しました。小中学生のころに学習支援を受けていた子の中には、大学生や社会人になり、Kacotamをサポートをする側に回ってくれた方もいます。子どもたちの成長を間近で見ることができるのはうれしいことですね」と、目を輝かせます。
その地道な活動が実を結び、現在ボランティアスタッフは200人を超えるなど、着実に規模は大きくなっています。
見えてきた展望と課題
北海道には児童養護施設が23か所(全国児童養護施設協議会のホームページによる)あります。高橋さんはそこで暮らしている子どもたちの学習も支援したいという展望を語ると同時に、課題も感じています。
「最近は、子ども食堂など拠点型の活動が増えてきましたが、拠点型の学びの場では、感覚過敏や外に出ることが難しい事情から利用できない子どもたちもいます。その子たちにどうやってアプローチをしていくかが今後解決すべき課題だと感じています。また、物理的な距離で通えない子もいると思うので、今は札幌を中心に活動していますが、旭川や帯広、函館など全道に活動の範囲を広げるべきだと考えています。それと同時に、もっとたくさんの人に私たちの活動を知ってほしいと思います」
さらに、活動を続ける資金のほか、安定した支援をするには勉強を教える職員やボランティアの人数確保も課題の一つ。高橋さんのチャレンジは、まだまだ始まったばかりです。