中学1年生の子を持つ親は、卒業式、入学式を慌ただしく終えて、一息ついている頃ではないでしょうか。ふと家の中を見ると使わなくなったランドセルが置かれてあるという家も多いと思います。
そのランドセルを置物としてミニランドセルや筆箱、キーホルダーなどに作り替えるサービスが増えています。静岡市にあるヒノキクラフトでは、ランドセルの『かぶせ』とよばれる部分を、そのまま使いスツールに再利用できるサービスをしています。
ランドセルスツールを開発した、ヒノキクラフト代表の岩本雅之(62)さんに話を聞きました。
デザイナー経験を生かす
広告関係の会社でデザイナーとして10年程勤めていたという岩本さん、仕事に疲れ脱サラをしたそうです。当時を振り返りこう話します。
「だいたい毎日午前様でした。夜の10時前に帰るというのはほとんどありませんでしたね。女房は働いていなくて、子どもがいました。突然辞めると言って、女房が頭を抱えていました」
前職の経験から当時から製品のデザインが出来た岩本さん。近くに住む職人から作り方を教えてもらいながら会社を作り家具製作を始めたそうです。
そんな中、手伝いとして行った市の事業の一環で、地元のヒノキを使った椅子と机を作るというものがあったそう。そこで見た椅子机をもっと木の性質を利用して良い物に出来ると考えた岩本さん。自分で設計しようと動きました。
前職を辞めた時から、環境への関心が高かったそうです。その仕事がきっかけとなり、地元の木ヒノキを使えば、輸送の際の環境負荷も少なく、また地産地消としても良いと考え、2004年当時の社名を変え、ヒノキクラフトという会社を作りました。
ランドセルのかぶせがスツールに
起業したばかりの頃は、ヒノキの水分量の多さから家具の材料として一般的ではなかったそうです。製作しても業者が買い取ってくれませんでした。そのため、デパートでの展示会や当時はめずらしかったインターネットを使って個人向けに販売をしていました。そうすると、他社でもヒノキを使った家具を製作する会社が多く出てきたと話します。
家の中の全ての家具を作っているヒノキクラフト。学習机を扱う時にランドセルを展示に使用する機会が多く、ランドセルとヒノキを使って何か出来ないか。岩本さんは考えました。
「ランドセルは、ステッチの仕上げの縫製がものすごくしっかりしていてかっこいいんですよ。そしてこの『かぶせ』の部分が、(ランドセルの)デザインのほとんどだと思います。それに、卒業する時にランドセルに寄せ書きする子どももいるんですね。切り刻むのはもったいないというのもありました」
こうした考えで、思いついてから半年程試行錯誤を繰り返し、『かぶせ』部分をそのまま使用した、ランドセルスツールが完成しました。
顧客の反応は、とてもいいそう。「1度はゴミとして処分しようと思っていたのに、感激しております。時間をさかのぼり小学生の娘が返ってきたかのようです」などと、感謝の声が届いているそうです。
ラン活ならぬラン卒を
岩本さんにこれからの目標を聞きました。
「今キャンプ場を作っているんですよ。子どもって中学校ぐらいで手を離れていっちゃう。最後にお父さんお母さんが『ここで遊ぼうよ』って言えるように、みんなでキャンプをします。そこでランドセルリメイクのアウトドアワークショップを開きます。自分でリメイクするんです。ラン活ではなくラン卒ですね」
スツールを作る作業は、道具さえあれば15分程度で出来るそう。「家具屋なので焚き火の木はいくらでもあります」と、楽しそうに笑いながら話します。
子にとっても親にとっても、小学生の6年間を共にしたランドセルは離れがたいものです。買ったばかりの頃はランドセルが大きくてちゃんと背負って学校に通えるか心配になった事、夏休み前はランドセルの中いっぱいに物をつめて持って帰ってきた事など、思い出がたくさん詰まった特別なかばんです。
それが形を変え、今度は家族を支える椅子になるというのは感慨深いと筆者は感じました。