愛知県犬山市にあるココトモファームは「ココでトモだちになろう」というテーマを掲げ、農業・福祉・商業をつなげる6次産業化(農業と製造・販売までを一貫して行うこと)を目指しています。社長の齋藤秀一さんは、発達障害を公表しており、幼少の頃から生きづらさを抱えてきました。
齋藤さんに、ココトモファームを立ち上げるまでの試行錯誤をはじめ、障害を個性と捉えて働きやすい職場を作るための工夫、今後の展開について話を聞きました。
得意なことであれば特性を生かせる
「子どもの頃から、周りの人と同じことができなくて。好きなことは集中してできましたが、それ以外のことはだめでした」と齋藤さん。勉強は苦手でしたが、読書は好きで多くの本を読了。そしてポケットコンピューターと出会い、面白さにのめり込んでいきました。
高校卒業後、何度も転職を繰り返していた齋藤さんは25歳のとき、パソコンショップの仕事に就いたことで変わり始めます。
好きな分野であったことと、新しい知識を吸収する楽しさで初めて仕事を楽しいと思い、やりがいを感じられるように。ちょうどWindows95が発売された時期で、パソコンを求める客の対応に追われながらも売り上げを伸ばしていきました。「発達障害だとしても、自分の得意なことであれば特性として生かせる」と思ったのもこの時期だったと言います。
その後IT会社を立ち上げ、障害者福祉施設を運営してから立ち上げたのがココトモファームです。
齋藤さんは就労移行支援事業所や障害児通所システムのシステム開発など、障害者福祉にも深く関わってきましたが、障害者が多様性を発揮して働ける場が少ないことが悩みでした。
しかし、妻の実家が米農家を営んでいたことをきっかけに、農業からバウムクーヘンの製造・販売まで自社で一貫して行うココトモファームを設立。6次産業化を目指し、多様な仕事で少しでも自立して働ける場を作れたらと挑戦を続けています。
障害は個性。それぞれができることを担当してフォローし合う
ココトモファームは、障害がある仲間が約20%。失声症や、睡眠障害の一種であるナルコレプシーの人などがいます。ココトモファームでは障害を個性と考えて、できることを任せています。
「持っている特性によって、どうしてもできないことはあります。でも、できないこと以外は全て可能性です」
「例えば、試食用に出すバウムクーヘンを黙々と切って出す作業が苦にならないけれど、バウムクーヘンを補充するのは苦手な人がいれば、補充の部分だけ他の人がフォローするようにしています。基本的に、同じ仕事をしていれば障害に関係なく同一賃金です」
失声症の従業員は、素敵な笑顔で筆談と表情・身ぶりで客とコミュニケーションを取り、理解されづらいナルコレプシーの従業員は、突然眠りが襲ってくる特性を周りが理解してフォローできる体制を取っており、両者とも販売の仕事に携わっています。
誰にでも得意なこと・苦手なことがあるはず。齋藤さんは障害に関係なく居場所を作っていきたいという考えから、障害がある人も積極的に雇用してきました。
「障害の有無に関係なく居場所を作るにはどうしたらいいのか」という課題は、ココトモファームの取り組みだけでは解決しません。
齋藤さんは「この取り組みを『犬山モデル』として全国に広げていくことで、障害者も特性を生かして働けることを知って欲しいし、そういう場が少しでも増えてほしい」と、積極的にノウハウなどを公開しています。