2000年、10代で芸能界デビューし、“水着ファイター”“くびれの女王”と呼ばれたひとりの女性は、多くの男性ファンを獲得したまぶしい偶像でした。人気週刊漫画誌の表紙を飾っていたグラビアからバラエティー、ドラマ、映画出演など、寝られないほど多忙な時期を経て、「今、とても生きやすいんですよ」というすがすがしい笑顔をみせる、杏さゆりさんに話を聞きました。
「芝居がしたい」原点回帰
2000年代、バラエティー、テレビドラマ、映画、雑誌、音楽すべてのジャンルで活躍していた杏さんは、2010年以降から徐々に主戦場を舞台に移します。2015年には個人事務所を設立しました。
「フリーで活動するのではなく、会社を設立したのはプライドです。テレビに出ていた人が舞台俳優に転身すると『落ちた』といわれるような時代もありました。でも、それは違います。活動の場所が変わるだけで、どちらが格上格下というものではないと思います」
引き締まった表情の杏さんは、舞台女優というジャンルに確固たるプライドがあるといいます。
「小学生の時代から続けてきた“演劇クラブ”でお芝居の楽しさを知って、芸能界に入りたいと思ったので。(舞台女優として活躍する今は)あぁ、私はやっぱりお芝居がしたかったんだって初心に戻った感覚ですね」
にこっと笑って挨拶ができたら「友達」という価値観
2022年1月、人気YouTubeチャンネル『街録ch』に投稿された、杏さんの出演動画が話題を呼びました。動画内では、小学生の時からいじめにあっていたと告白。誰とでも自然と仲良くなれそうな雰囲気のアイドルだった杏さんのイメージと大きくかけ離れた過去の告白に、衝撃を受けた人は多かったようです。
タレント、女優という職業に就くための必須の条件に思われる“目立つこと”ですが、幼い頃からその特徴ゆえに痛い目を見ることも多かったことか。
「私の気性なのか、どんな人も放っておけないところもあります。私が通っていた小学校は転校生が多い学校でした。誰のことも知らない環境に来る転校生はどんなに心細いんだろうって思うと放っておけなくて、自分から積極的に声をかけていました。でも結局、転校生にもいじめられちゃうタイプでした。まさにいじめられ体質ですよね」
「いろいろなことがあって人を嫌いになりませんでしたか?」と筆者が聞くと、杏さんは「私、昔から、人が好きなんですよね。どんなことがあっても人が好きなんです」と即答。どのようなことがあっても、人と仲良くやることを諦めなかったといいます。
杏さん自身には「にこっと笑って挨拶できたら友達」というくらいの、人を受け入れるおおらかさがあります。
「私、恨んでいる過去とかひとつもないし、大嫌いな人ってひとりもいないんです。全部赦そうって思っています。友達とケンカをしても、『絶交』とか『もう会わない』とかは絶対にいわない。過去は過去って、過ぎたことに執着しないことにしています。すべての苦悩は演技の向上につながるし、人間的な深みにしたい。それでいいんです。諦めたり投げたりしてしまわずに、結果的にすべてプラスにしたいんですよね」
今の恋愛は?
今年39歳になる今の杏さんにとって「恋愛は大事ですか?」と尋ねてみました。
「大事だとは思っています。恋愛もすれば人間的な深みになります。だからしたほうがいいとは思ってはいるんですけどね。恋愛をしたら演技にもきっと生かせますし」
すべてが“演技”に帰結されるのですね、と指摘すると、「やっぱり仕事が好きなんですね」と相好を崩す杏さん。
「今が一番楽です。仕事の現場でも、私が年長という機会が増えましたから。後輩が多くなって『姉さん』って慕ってくれる。この状況がとても幸せでらくちんになりましたね。今はすべてに感謝しています」
もともと面倒見がよいことで知られていた杏さんはまさに“赦す人”、そして、ありのままの相手を受け止める人であり、諦めない人でした。女優以外にもどんどんチャレンジしたいという杏さん。前途洋々です。